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夢渡の女帝  作者: monoll
第3章 夢幻を映す湖の記憶
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第3章15「プレイバック・アクアリウム編3」

年内最後の投稿になります。今年一年、ここまで読み進めていただけた方には最大限の感謝を。

ここから読み始めた方は、是非最初から読んでいただけますと幸いです。

 さて、早速だが特大の悲報だ。オレに配られた少ない手札は既に使い切っているが、そんなごく当たり前に用意された過酷な条件下(出オチ)において、尚も悲報だと言わさせてもらおう。

 この地雷アタリは、特大級(大アタリ)だったらしい。消耗しきっていた筈の力を振り絞りながらも、赤ずきん少女の表情かおはこちら一点のみを睨んでいるのが何よりの証拠だ。

 …いや、ただ睨んでいるだけではない。怨念に近い殺気が、戦闘のせの字すら知らないオレですら感じ取る事ができる程に、牢屋の外まで漏れ出ているのだ。


⦅まぁ、少し考えれば分かる事だよな。「レイラさんが王族謀殺を企てた張本人」、そう言われているらしいし…⦆


 一手でも指す手を誤れば、オレの命は軽く消し飛ぶだろう。レイラさんお手製の枷も、暴れ狂うあの調子が続くようなら、いつか壊れてしまうのではとソワソワしてしまう。


⦅でも、それはそれ。恩人を悪く言われた事と、何の関係もない話…だよなぁ!?⦆


 オレの心はしかし、臆病になる以上にクツクツと煮え立っていた。

 ここまでオレの我儘にほぼ無償で付き合ってくれている、白と青の法衣ドレスの似合うあの優しいレイラさんを、悪魔呼ばわりしてくれたのはいただけない。赤ずきん少女(強者)相手に心の青筋を立たせ、売られた文句ケンカを即買いするには充分すぎる理由だった。


『なら、アンタはその悪魔とやらと渡り合うだけの力があるって?こうして牢屋に繋がれている所を見ていると、オレにはそうは思えないがな!』

『くっ…!』

『悪魔呼ばわりしたレイラさんに手も足も出ずにやられるようじゃ、アンタを雇った主サマの抱える戦力もたかが知れるってもんだ!』

『ウルスラさまを、おまえごときのものさしで、はかるな!』


 おぉ、初めてまともな返答が来たな。こういうので良いんだよ、こういうので。

 それと、今のは失言だぞ?ウルスラ…現実ではゲームで聞いた事のある名前だった気がするが、イマイチ覚えが悪い。どんなキャラクターだったのか詳しく思い返したいところだが、残念ながら今は記憶の海に潜る脳の余裕キャパはない。


 ーー流石にこれ以上踏み込んだ話が出来る程、オレにはこの夢世界いせかいの知識は持ち合わせていない。下手に藪蛇を突いて死んでしまっては元も子もないからな、ここで戦略的撤退だ。


『…確かに、言葉が過ぎた。だが実際の所、これからアンタどう身を振るつもりだ?多分レイラさんは、必要な情報が得られたらアンタをそのまま元の国まで帰すだろう。けど、今のオレの話はあながち間違いという訳でもない筈だ』

『…………』


 感情を冷ましながら、しかし表題だけはしっかり掲げておく。先の会話内容から、赤ずきん少女は恐らく使い捨て(鉄砲玉)として放たれた斥候と見て良いだろう。仮にレイラさんを相手取って優位に立ち回れる恩恵ちからがあるのだとしたら、彼女を単独で行動させる理由が見当たらない…気がする。もしくは、単独で動かなければならない理由があったとか?…だとしたら、何の為に?

 …素人なりに、熱に浮かれた頭を回してみるが、オレが導けた答えはここまでだった。この手の戦術思考、本当に苦手なんだよなぁオレ…。


『別にオレたちに下れ、とは言うつもりはない。でも、何の成果もないまま元の場所に戻ってもアンタの立場が無くなる。だったら、その既定路線から外れてみるのもアリなんじゃないのか?』

『…むりよ。あのかたは、しっぱいをゆるさない。こんかいのあたしのしっぱいも、もうみみにはいっているはず。どこにいっても、あたしのしぬうんめいは、もうーー』

『あ?そうやって諦めるのかアンタは』


 つい、言葉を挟んでしまった。驚く程の低くドスの効いた声にオレ自身が驚く。それでもオレの口は止まらない。止めるだけの、余裕がない。


『いいか、人間諦めたらダメなんだ。生きる事を諦めて、何も考えず回れ右で振り返ったら…本当の意味でアンタは死ぬぞ』


 脂汗が止まらず、酷く水が外に出ていく。身体の芯が凍えているのに、表面は熱を帯びている。酷い風邪を引いたような気怠さが急激にオレを襲ってくるが…これだけは言わないと気が済まない。

 諦めなかったからこそ、現実のオレは今も生きていけていると。たとえこれが自分の中の夢だったとしても、それだけは胸を張って言い切れると。まだ30程度のオッサンの価値観を、目の前の少女に伝えたかった。


『生きる事を、諦めるな。最後の、瞬間まで…考え続けろーー』


 その瞬間、オレの身体の中から熱い何かが込み上げてきた。押し留めようと口を噤み、手を当てるが…その程度のせきでは、止められなかった。


『う、ぶ』


 鉄の味がする、生温かい液体。まるで赤い果実のジュースでも零したかのように口周りを真っ赤に染めながら、咳き込む度にとめどなく吐き出される。

 それを牢屋越しに見せられる赤ずきん少女も、さぞ驚愕の表情を浮かべた事だろう。…無理もない、いきなり目の前で人間が吐血したら誰だって目を剥くに決まってる。


『あなたこそ、そのからだをあのうらぎりものにみせなさい!…っ、こんなときにあのおんな、どこをほっつきあるいてーー』


 その言葉を最後に、オレの脳内から意識を手放したくなる程の頭痛しんごうが発せられる。ドクンと脈打つ度、鎌がサラリとオレの首筋に触れるような感覚。間近に感じる死の気配に、先ほど吐いた言葉つばを思い返す。


⦅まだ、死ねない。こんなところで、死にたくない⦆


 意識が途切れる最後の瞬間まで、オレは呪いのように自分に言葉を掛け続けたーー。

え…?主人公君、死んでしまうん?

今回は、赤ずきん少女(プリシラ)の好感度を少しでも上昇させた場合のルートとなりますので、まだ死にません(ネタバレ)。


もし彼女にネガティブな発言を被せていたら、BAD END LOG行きでした。「世間話のストックとトークスキルは、しっかり身につけておくように」という女神様の講義、皆様はちゃんと覚えていましたか…?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


●主人公君、赤ずきん少女相手に喧嘩売るとか実力差解ってる…?

勿論、承知の上で口火を切っています。逆上されたとしても、地上のこわーいヒロインちゃんたちが後で何とかしてくれるだろう…という、楽観的な思考ゆえの短絡的な行動でした。


もし赤ずきん少女が逆上し、主人公君に手を上げる事があったとしても…今後の展開からして彼女らの介入は難しかったでしょう。


●ウルスラ

赤ずきん少女の上司…月の国の賢者の一人。ヒロインちゃんと同格であり、月の国の賢者内部の(意味の為さない)序列は第2位となっています。


ところで、主人公君が何かを思い出そうと必死になっています。現時点では思い出す事は叶いませんが、このまま記憶を漁っていただきたいですね。今後の展開における攻略ヒントになるかもしれませんよ?


●徐々に異変が現れる主人公君の身体

口を回している間に、毒が回ってしまった状態です。こうなってしまったら最後、解毒役の誰かが近くに居ないと死は免れません。

状況は異なれど、同じく死を悟っている赤ずきん少女に、少しでも希望を与えられれば…?

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