第3章14-2「プレイバック・アクアリウム編2」
お待たせしました。こちらは第3章14-1「Choose One(Level 2)」のAルート(正史ルート)になります。
ここまでの会話の流れは、さらに一つ前の第3章13「プレイバック・アクアリウム編1」から読んでいただければ幸いです。
『いや、気が変わった』
ドカッとその場に腰を下ろし、見世物を間近で眺める迷惑客になってやろうと片膝に肘を乗せる。やるなと言われたらやってしまう、普段は脳の奥底に隠れているオレの天邪鬼精神が脳内でカチリと音を鳴らした。
『どうせ上にいても暇なだけだし、少し話を聞くくらいなら、レイラさんも悪くは言わないだろうさ』
『…あたし。おとこがよろこぶほど。おおきくは、ないわよ』
『アンタの中の男のイメージって、色の欲にまみれた獣か何かか?』
かく言うオレも、最近の女子のイメージは、蛙に自分の心変わりの罪を擦りつける肉食派なのだが…。いやこれ以上は控えよう、負け組オッサンが何を言っても哀しみの遠吠えにしかならない。
それでもこれだけは言わせてくれ、青色吐息で滅多な事は言うモノじゃないぞ少女よ。まずは呼吸を整えなさい。
…閑話休題、この赤ずきん少女も恐らくレイラさんを亡き者にせんと放たれた刺客の一人の筈だ。なら、その依頼主の顔くらいは知っているに違いない。
この夢世界の人名なんてまともに知らないだろう?仰る通りだ。そこはレイラさんたちの知識に任せよう。ソレイユやマイティの時と同じように、第三者を介した依頼の可能性もあるからな。パーフェクトを目指す訳じゃないんだから、こういう時は誰かの助けを請うのがむしろ最善手なのだ。
『単純な話、レイラさんを狙う敵の正体が判れば、オレの安全にも繋がる…と思っただけだ。知っている範囲で良いから、何か教えてほしい』
『ききかた、ちょっきゅう、すぎ。それであたしが、じょうほうを、もらすとでも?』
仰る通りである。確かに、言葉を選ぶべきだった。先日、レイラさんにソレイユが投げていた言葉のナイフが時間を超えてこちらにも刺さった気がする。おのれ忍者、汚いぞ忍者…。
しかし残念ながら、オレの言語辞書に変化球という文字は存在しない。仮に載っていたとしても、今は黒く塗り潰されている。さて、どう会話を切り出していこうか。
『で。いつ、どこかにいって、くれるの?』
『言っただろ、気が変わったって。悪いが意地でも話題を振り続けるぞ』
『…かってな、ひと』
言ってろ、人間誰も彼もが聖人君主サマじゃないんだぞ。話のペースはこちらが握らせてもらう。
しかし、出たとこ勝負の会話だったが早速手詰まりだ。赤ずきん少女が食いつきそうなネタも想像つかないし、頼れそうな”ヤツヨ”も居ない。我ながら勢いが良いのは最初だけかよチクショウ。
何の話を振ったものかーー思案しながら視線を赤ずきん少女の黒い手袋に移した所で、ふと即興話のタネを思いついた。
『そういえば、アンタの戦闘スタイルもレイラさんと同じ素手格闘なんだよな。もしかして、昔レイラさんと戦った事があるとか?』
『…………』
初手撃沈、この話題では芽すら出なかったか。ならば次は、違う切り口で攻めてみよう。
『赤ずきんって手製か?いい趣味してるよな』
『…………』
二手目撃沈。おかしい、女子はお洒落の話題に強いんじゃないのか?というより、本当にオレの振る話題を全部無視する気か?!この塩対応っぷりは流石にオッサンには堪えるぞ…。
そもそも、こうやって何度も回答無視しているから、暗殺者たちにボコスカと殴られたのではなかろうか。彼女のこの呼吸の浅さと酩酊っぷりでは、こちらの話を聞いているかも怪しいーー。
『…その傷、レイラさんに治してもらわないのか』
『…………』
三手目も同じく沈黙。だが、ほんの少しだけ眉が反応した気がした。何の単語に引っ掛かったのかは分からない、けれども確かな前進ではある。
ならば次は、その反応を更に強くする為の単語探しだ。錆び付いた並列思考を走らせ、もう少し話題を得ようと再びオレは口を開く。
『オレはついさっきまで気を失っていたから、ここで何があったのかは知らない。けどアンタのその格好からして、マトモな話し合いではなかったと推測はできる』
繋がれたソレイユを見た時は、多少の酷い打撲痕はあれども広範囲という訳ではなかったし、意識を混濁させる程には打ち込んでいな…かった筈だ。眩しすぎる光の所為で詳しくは見れなかったが、当時のソレイユとのハッキリした会話のやり取りは、少なくとも過剰なダメージを負った者ができる芸当ではない。
ならばソレイユの拷問時、レイラさんは同時に浄化をしていたと考えて良いだろう。誠実な彼女の性格の事だ、その浄化も会話が行える程度には面倒を見ていたと考えて良いだろう。
オレがソレイユの牢屋に行きたいと伝えた時のあの嫌がり方は、オレを自分の刺客の元に案内したくない…危険に晒したくない意味もあったかもしれないが、もしかしたら浄化が不十分な所を見せたくなかった為でもあったのだろう。不器用なまでに嘘がつけないあの少女は、やはり他人に隠し事なんてできなかったのだ。
この長い仮定が前提ではあるが、赤ずきん少女の全身についているこの打撲痕は、レイラさんが与り知らない所で付けられた可能性が高い。つまり、この打撲痕は…レイラさんに頼みさえすれば、治る可能性がある。
『レイラさんは、刺客だからって理由で傷を治さない意地悪はしない。何だったら、オレから頼んでもいい』
『……ない』
お、地雷を引いたか?良いぞ、もっと反応してくれ。少しでも会話を長引かせて、情報を集めるんだ。
『ありえない。あのうらぎりものは、あなたなんかのことばに、みみをかすはず、ない』
『そもそも、その裏切り者って何なんだ。レイラさん、そんな悪人には見えなかったが…』
『うらぎりものは、うらぎりもの。せかいをおびやかした、あくまのてさき!』
方向性は危ういが、話はしてくれるようになった。これは大きな一歩だろう。
でも、何となく全身を伝う汗で分かる気がする。ここからが正念場、アタリをひたすら引き続けるしかない地雷原だ。ガシャガシャと、あちら様は繋がれた鎖を鳴らしており、充分殺気立っている事だろう。気を抜いたら即死だ、引き締めろよ年配者。
●主人公君の自己肯定力の低さ
TrialシリーズのNo.1、No.3の表題にもある通りです。よほど幼少期に、女性に対して嫌な想いをしたのでしょう。
それでも主人公君なりに、ある程度向き合おうとする気力はあるようで…。この気力を無遠慮に叩き折るか、汲むかはーーヒロインちゃんたち次第、引いては主人公君のコミュニケーション力次第となります。結局最後は自分の力なんだよォ、甘ったれるな主人公君!
●赤ずきん少女へのQ&A、真の回答編
無言を貫く赤ずきん少女に、勝手に作者が答えていきます。嬉しいだろう、主人公君…?
Q1:過去にヒロインちゃんと戦った事がある?
A1:あります、それはもう何度も。闘技場で何度砂の味を噛み締めた事か…。あぁもう、思い出すだけで腹が立つ…。
Q2:赤ずきんは手製?いい趣味ですね
A2:ケープは支給されたもの。残念ながら手製じゃありません。いつかは自分でも何か作ってみたいですね。
Q3:その傷、浄化してもらわないの?痛そう…。
A3:放っておいてくれない?裏切り者に借りを作るくらいなら、太陽の国の連中に拷問された方がマシ。




