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夢渡の女帝  作者: monoll
第3章 夢幻を映す湖の記憶
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第3章06「思惑混ざるフローア村2」

「これで20人ほどになりますね。そろそろソレイユ様たちを折檻する(裁く)頃合いでしょうか…」


 目に見えて暗殺者の在庫かずが少なくなった事を確認したレイラは、つい溜息を吐いた。しかし、一拍もしない内に彼女は回避の為にその躰を動かす事になる。

 振り下ろされる斧、空気を裂く剣、回避先とタイミングを読んだかのような槍の突貫と弓矢の雨。そこに時折混ざる基本属性(火水風土)の魔法たちが、彼女の柔肌を加減なく傷付けんと息つく暇もなく襲いかかってくる。

 武に通じている者から評すれば、それらの練度は盗賊に身をやつすには惜しく、日頃から連携している者たちの良いものだと称賛した事だろう。実際、この『黎明旅団れいめいりょだん』という暗殺集団は常に多人数での行動を頭領に義務付けられ、連携を意識するよう教育されてきた。暗殺集団というより、最早一つの軍隊である。


 しかし真に恐ろしいのは、白と青の法衣ドレスを激しく舞わせながらも、息一つ乱さないその女。統率の取れた暗殺者たちの連携も各個撃破していけば恐るるに足らずと、彼女はひたすら拳を振るい続け、確実に一人ずつ得物すら満足に持てない躰へと変えていく。

 気がつけば彼女は、暴力の渦の中心で踊り続ける怪物となり。戦闘が始まってから裕に10分を超えても尚…暗殺者たちが彼女に有効打を与える事は、ただの一度も叶わなかった。


「こ、この女…強すぎる!一体アイツは何なんだよぉ!」

「相手を知らずに突っ込んだのか、阿呆め」


 未だ五体満足で立てている暗殺者は、元から戦闘意欲の低い者…女が敵国の賢者であるとっている者が大半だ。だからなのか、ある程度は()()()事ができる。

 しかし、知識外の化け物に襲われた者はどうだろう。果たして、表情一つ変えずこちらを見据え続ける化け物()に、立ち向かう蛮勇ちからは残っているのだろうか。


「うぁあああああッ!!」

「おいバカ、よせ!」


 答えは明白、それを一身に浴びてしまった者の末路は容易に想像できるだろう。っている者でさえ、意識していなければ気持ちがはやりそうになる程の恐怖を、暗殺者かれが耐えられる筈がない。

 何の計画プランもなく、ただ隙を晒すだけの剣突撃。それを雑に叩き落とすと、暗殺者かれがよろけた隙に女はただ一閃ーー拳を空に突き上げた。

 その軌道にあった顎を壊した音が、意識を現実に繋ぎ止めておくくさびが抜け落ちる音が。暗殺者かれの短い悲鳴を掻き消す程に脳内で響き渡ると、糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちる。


「月の賢者の中でも、特に戦闘能力に秀でた『戦巫女』。国を追われても実力は健在…ってか」


 ようやく絞り出した、恐怖を押し留めた暗殺者の声は。自分たちではあの女に勝てないと、ただ再認識させる増幅器ブースターとなるだけだった。

 「ふぅ」と一息ついた女は、残った暗殺者たちの身構え方に違いを見出したのか。拳を解く事はしなかったが、そこで初めてこちらに向けて言葉を口にした。


「私とて、襲ってくるのでなければ無理に追討しようとは思いません」


 いずれ地に躰が吸われるのは時間の問題とっているが故に。女の狂気に当てられ続けた、暗殺者かれらが垣間見た一瞬の赦しは、撤退という甘い2文字(誘惑)を等しく浮かび上がらせる。

 頭領から特に何も指示されていない以上、確かに争う理由はない。『暗殺が失敗に終わったのであれば、速やかに退却するべし』。持ち帰るべきは命であり、ほまれではないと口を酸っぱく教え込まれていた暗殺者かれらは、頭領の教えに従って諸手を挙げて、降参の意を怪物おんなに示した。


「ソレイユ様とマイティ様に、弁明の機会を与えましょう。彼女らをここにーー」

「ほう、それは丁度いい。なればわらわも、そこに同席させていただこう」


 思わぬ第三者の声に、五体満足の暗殺者たちが視線さついを一気にそこへ向ける。

 彼らの視線さついの先には、女が立っていた。大きな胸を包む和装束の上に纏う真紅の外套、細い腕を覆うように装着する篭手。それらに刻まれているのは太陽の国の紋様だ。

 脚をすっぽり隠した長袴と、長い黒髪を後ろに結ったそれらを総合し、世間では大正浪漫娘と言うらしいが、残念ながら着飾りのイロハ(その手の知識)には疎いので、これ以上の容姿の説明は割愛する。そも、重要なのはそこではない。

 太陽の国に属する、味方である筈の二つの勢力が睨み合っている事。これが、現段階で勘案するべき問題だ。


「構わぬだろう、月の国の賢者よ?」

「貴女様の腹の内次第、とだけ」


 敵の敵は味方、ではない。その相手が、敵国の将相当の実力者とうたわれる猛者であれば尚の事。

 さて、どうしたものか。女教皇は表情を変える事なく、拳に纏う光を解く事なく。置いてきてしまった男の元へ帰る心算だった女教皇の、第2ラウンドの鐘の鳴る音が、暗殺者の中で聞こえた気がした。

今回は少し短めですが、主人公君ではない視点からのお届けです。

誰の視点かって?ヒントは後半の、ある人物に対する二人称でしょうか。


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●このヒロインちゃん、残り人数を在庫って言ってる…コワイヨォ…

これまでにも多少漏れ出ている戦闘狂のですが、主人公君の見ている手前、これでもかなり抑えている方です。作者としてはもっと前に狂気を押し出していきたい(鬼畜)のですが…、構想上では次章あたりでお披露目できるかもしれません。


●『黎明旅団れいめいりょだん』の戦闘力

攻め、守り、搦手。どれを取っても太陽の国の暗殺者集団として一流の腕前があり、月の国の賢者たちをもってしても、度々防衛の議題に名前が上がる程には脅威です。

マイティという絶対の長があり、個々の力を充分に発揮できる采配が行えるからこその彼らの実力は、現段階で月の国に攻め入ろうとすれば瞬く間に壊滅させる事ができるでしょう。


ただし、それはヒロインちゃんが月の国の賢者に就任するまでの話。浄化の恩恵というイレギュラーを月の国が擁した事で、両国のパワーバランスが一気に崩れてしまいます。停戦協定を結ぼうと持ち掛けた理由の一つでも、あったりなかったり…?


●和装束の女

『風刃』と呼ばれる、太陽の国が擁する戦闘のプロ。『雷刃』と呼ばれる兄と共に、普段は太陽の国からは外に出ず、後方で指示を飛ばす司令塔のような存在です。


…風を纏う、放出する恩恵ちからを持つ割には、実は方向音痴。もし彼女が()()であれば、行動を開始してからものの10数秒で迷子になる程には音痴の程度が酷いです。

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