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夢渡の女帝  作者: monoll
第3章 夢幻を映す湖の記憶
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第3章05「思惑混ざるフローア村1」

 かつて、何かのゲームで100人組手というモードがあった事を思い出した。ひたすら現れる相手をひたすら叩きのめし、そのタイムを競うというエンドコンテンツの一つだったと記憶している。

 ゲームとして世に出す以上、全てのモードに触れてほしいであろう製作者側の気持ちとして、その手のモードはすぐに遊び手が匙を投げないよう、ゲーム故の調整がされているものだ。

 具体的には、最初の数人は初心者が触れても楽に倒せるようレベルを下げている…といった具合に。当然、そこから先は遊び手の技量が試され、他者と競い合う修羅の世界となるのは言うまでもないだろう。


 レイラさんの目の前には、暗殺者と名乗る集団の面々。男女問わず、得物も様々だ。つまる所、そんなゲームのようなイージー化(調整)なんてある筈もなく。下手したら1vs1(サシ)での勝負さえ、満足にさせてもらえない可能性もある。

 徒手空拳(拳と脚)が戦闘スタイルのレイラさんからして、それは圧倒的に不利な条件だ。せめて、1vs1(サシ)の勝負に持ち込める教会のエントランスを上手く利用するとかで対応したい所ーー。


「今頃になって、私の首を獲ろうとされるのは結構な事ですが…。おいそれと差し出すようなものではありません。一人ずつお相手をするのもお互い時間の無駄でしょう、どうぞ皆さま一斉に掛かってきてください」


 あの、レイラさん?オレの分析、何か間違ってましたか!?対多人数戦は肉弾戦主体のレイラさんにとってあまりにも無策ーー。

 そういえばこの人、一昨日も彼ら相手に大暴れしたのに物足りないとのたまっていたような覚えが。もしかしてレイラさん、偉い人殺しの冤罪じゃなく、その狂戦士思考故に手に負えなくなったので国外追放されたのでは…?


「あぁン!?このアマ、オイラたちを舐めてるのか!?」

「ここは俺っちらの寝ぐらだ!勝手に乗り込んできた女が調子乗りやがって!」

「ダースの兄貴を伸した程度で良い気になるんじゃないわよ!」


 …この暗殺者集団、レイラさんが月の国の賢者(敵の大将)だと全員が共有している訳じゃないらしい。というより、一昨日の集団の中に居なかった人員が混ざっているのか?

 よくよく彼らの表情を観察してみると、「あーあ、要らない喧嘩吹っ掛けやがって」と呆れる表情だったり、「他国の要人の顔なんて知った事か!こちとらうちの国の顔もまともに覚えられないっての!」って顔に書いてあったり…している気がする。自国のお偉いさんの顔と名前くらいは覚えておこうぜ…他人の事は大きく言えないが。

 いやでも、この冷たく突き刺すような視線(殺意)たちは本物だ。オレも、余計な事はせずレイラさんの守備範囲から出ないように注意せねば。


「あぁ、困りました。このままではお互いの意見は平行線。こんな時はもう…暴力で解決するしか、ありませんね?」


 ぱきりと指を鳴らし、一歩前へ踏み出るレイラさん。とても聖職者の言葉とは思えません、カムバック理性。その理性が獣?そっかー。

 そんな獣の行動に触発されたのか、あるいは格闘姫レイラさんの威圧に心が負けたのか。咆哮しながら暗殺者が一人、長剣を構えながら突っ込んでいく。マンガの主人公じゃないんだから、暗殺者が理性捨てたらダメでしょうが。


「せいッ!」


 その男の捨て身攻撃の駄賃だいしょうは、回避ついでに繰り出されたレイラさんの裏拳。骨が軋むような音を立て、人体が縦回転しながら牧歌的な村の地面を転がっていく。その後、起き上がる素振りすら見せない様子から、彼は一撃K.O.で戦線離脱したと見て良いだろう。


「相手の力量も測れない甘ちゃんが」「後であの子は鍛え直しね」


 比較的マイティの近くを固めている、力量のありそうな暗殺者たちは、その場から動く気配がない。それどころか、得物を構えてすらいない。ただ戦場(この村)全体を、俯瞰しているかのような気さえする。…何もしてこない相手ほど、不気味なものはない。


「このッ」「合わせるよ!」「「「応ッ」」」


 さて視点は戦渦の中心に戻り。一人おとこが先陣の火蓋を切って倒れた事で、短剣を構えた二人がそれに続き、遅れて三人が仲間を追いかける。気がつけばレイラさんは一対五という数的不利な戦闘を押し付けられていたが、彼女の不敵な笑みは尚も崩れない。


属性付与エンチャント韋駄天狗の風(スカイハイ)!」

「「「「おりゃああッ!!」」」」


 突っ込んできた内の一人が何かの強化を全員に仕込み、レイラさんに再び突っ込んでくる。すると目に見えて暗殺者たちの移動速度が大きく伸び、レイラさんの四方をあっという間に取り囲んでしまった。

 その中で繰り出される、通常なら対処不可能に近い息の合った多方向からの同時攻撃。流石のレイラさんも、一撃もらうしかないのかと目を逸らしたくなったがーー。


「その風、浄化しますね」


 彼女は予測反撃に近い動きで前衛全員に素早く強化消し(浄化)の光を纏った足払いを決め、態勢を崩した暗殺者から順に鳩尾を踏み付けて体内の空気と戦意を奪っていく。途中、立て直した暗殺者も強化が切れた事に気付かず、再び自ら態勢を崩し…結局他の暗殺者たちと同じ末路を辿っていった。


「魔法に頼らない方法で、今度はいらしてください」


 強化係だったその暗殺者は後衛職だったらしい、レイラさんの詰め寄りに対応できる筈がなく。最後の一言と共に放たれたボディブローで、暗殺者おんなの戦意は体内の空気と共に根こそぎ吐き出された。

 改めてその戦闘を眺めていて、『レイラさんは攻め一辺倒の矛みたいな存在だ』と、ソレイユが漏らしていた言葉を思い出す。攻撃は最大の防御とはよく言ったものだ、倒れ伏した5人の中心に佇むレイラさんの姿は、白い悪魔と言い換えても良いだろう。


「次はどなたがいらっしゃいますか?立候補がいらっしゃらないようであれば…。身体が温まるのにまだ時間が掛かりそうですので、こちらから参ります」


 …聖職者なのに悪魔堕ちしているのは笑えないと思っていたけど、もう悪魔呼びでも良い気がしてきた。というより格闘姫レイラさん、どんどん戦線を押し上げているけど置き物(オレ)の事を忘れていないですか?


「そうよね。あたしの影纏いに気付かないくらいだし、あの鉄砲女の脳筋ここに極まれりって所かしら」


 オレの心の内を読んだかのように、不意にオレの横から声がする。「のわッ!?」と素っ頓狂な声がつい漏らしたが、情けない声とは裏腹にオレの身体は後ろに退けなかった。ソレイユの手は、オレのネクタイを首輪よろしく掴んで離さないからだ。というより、グンと引っ張ってくるので一種の絞め技になっている。


「ぐ、ぐるじいんだげど!?」

「すぐ離すから、少しはあたしの演技に付き合いなさい。…ほら、ようやくあの鉄砲女が気付いた」


 その言葉通り、ソレイユの手から力が抜けた。瞬間、オレとソレイユの間に何者かの飛び蹴り(砲弾)が割り込み、その衝撃に負けてオレの身体は教会のエントランスホールまで吹き飛んだ。何本か立つ立派な石柱に叩きつけられて、オレの身体はようやくその場で落ち着く。


(いくら急いでいたからって、この緊急脱出術はあんまりでは…?)


 打ちつけたオレの身体は、痛みによる覚醒よりも意識喪失による気力回復を最善手に選んだらしい。意識が暗転する中、自分の身体の決定に抗うように心の中で声を上げてみる。

 何度も言っているが、オレは何の力もないただの木偶の棒(おっさん)。レイラさんのような前衛職ではないのだ、受け身なんて簡単に取れる筈がないでしょうが。それと可能なら、もう少し優しく助けてもらいたかったですーー。

 そんな要望たちが空気を震わせる事もなく、オレはそのまま意識を手放した。


              ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 オジサン(エサ)に釣られた憎たらしい誰かさんは、あたしの想定した人間ではなかった。けれども、理解できる事もある。目の前の女は、あたしを敵認定しているという事だ。


「あなた、だれ?」


 赤いフード、ゴスロリチックな衣装が特徴的なソイツは、首を傾げながらこちらを食い入るように見つめてくる。手には大鎌…に見えるよう、水で出来たカタチが圧縮されているらしい。赤いフードに短いスカートに刺繍されている特徴的な光の紋様から、月の国の関係者である事は間違いないだろう。

 残念ながらあたしの興味のない人物だし、向こうも今のあたしがどういう人間なのか分かっていないらしい。当然、あの脳筋教皇以外に興味を持とうとも思わない。持つ前に蹴り潰すと、最初から決めているからだ。


「あたしとお友達になりたいって意味なら、サンドバッグから始めよっか」

「そう、さんどばっぐ。かわったなまえね、あなた」


 周囲に浮かぶ水の珠たちの攻撃的な動きを観ながら、あたしも脚に影を纏わせた。

 ーーこれは向こう側から仕掛けてきた喧嘩だ。たとえあの教皇が制止に立ち塞がったとしても、あたしの気が済むまでは好きにさせてもらおう。

●徒手空拳の少女に100人組手やらせるとか、作者は鬼かよ

ま、まぁ異世界あるあるだし…(必死の目逸らし)


ただし作中でも触れている通り、10数人がかりの波状攻撃で向かっていっても「物足りない」で済ませるヒロインちゃんなので、この100人組手でもしっかり生還します。闘争心に火をつけすぎて主人公君を置き去りにしないよう、カムバック理性。夕方までには帰ってくるのよー。


●ヒロインちゃんの戦闘能力高すぎ問題 2

第1章閑話2でも触れていますが、徒手空拳を得意とする都合で有効範囲リーチが狭い短所こそ抱えているものの、接近戦まで持ち込めればまず負けません。いくら強化していようとも、それが魔法によるものであれば容赦なく浄化していき、がら空きになった躰に拳を叩き込みます。


近接職で挑もうにも、元々そこは彼女の土俵ですし、魔法職で囲んでも恩恵によって無力化されます。こんな超人相手に、どうやって攻略すれば良いんだ…。


●主人公君を犠牲に召喚された赤ずきん少女

ミサイルキックでダイナミックに登場した当時の本人は、この時「何か吹き飛ばしたけどまぁ良いか」と、かなり冷めた思考をしていました。

もしこの蹴りが主人公君に直接ぶち込まれていたら、彼は命を落としていた事でしょう。こっわ…ヒロインちゃんでも優しく吹き飛ばすのに…。

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