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夢渡の女帝  作者: monoll
第2章 眠れる森と焔の夢
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第2章25「昏い夢路を渡るは瑕だらけの女帝」

 オレが目を覚ますと、そこはクリーム色の雲海が広がる以下略。初めて見た光景ものと何ら変わり映えしない事に嘆息しつつ、意識オレを引き上げた本人(”ヤツヨ”)の姿を流れ作業(ルーティーン)のように探してみる。

 広いようで狭いこの雲海世界、探し物が苦手なオレでもすぐに見つけられる場所で、探し人は今回もティータイムを満喫していた。紅茶の良い香りが鼻孔を刺激し、目の前に並べられている洋菓子たちの甘い誘惑に屈しそうになりながらも、生唾を飲み込んでいざ尋常に。


「三大欲のうちの一つを無理やり抑え込むのは良くないね。毒は入っていないから安心して食べるといい」


 ほら、と差し出された見覚えのある洋菓子(シフォンケーキ)に、しかしオレは心を鬼にして受け取りを拒否した。別に施しを断りたい訳ではない、だが恐らく使用中のフォークを刺したそれを差し出されて、何の疑いもなく口を近づけるのは衛生的によろしくない気がしたのだ。つまりは女神様のテーブルマナーの問題である。


「安心したまえ、そもそもこの菓子はボクがいただくものだ。キミはテーブルの上にあるものを好きに摘まむと良い」


 だとしてもフォークのような一歩間違えば刺してしまう危険物はさきをこちらに向けるな、もしもの事があったら怖いだろうが。


「む、それは確かに。ボクが作法に不慣れな事を失念していたよ。反省しよう」


 このトンチキ女神様の場合は作法というより常識の欠落と言い換えた方が良い気がしなくもないが、もしかしたら違う世界では文字通り常識が違うのかもしれない。まぁ反省してもらえるのなら、それに越した事はないが。

 それはそれとして、せめて景色の模様替えはできないのだろうか。同じ光景ばかり映し出されるのは味気ない。


「天丼も3回目になると飽食するかな?でも残念、ここはボクの心層世界でもあるんだ。キミがこの夢から醒めない間は、何度でもこの光景に付き合ってもらうよ」


 フィルムが焼き切れたカセットテープかな?再生も巻き戻しもできない、ただ空回りするだけの光景えいぞうを見せられ続けるのは困る。幼少の頃に再生と巻き戻しを繰り返し過ぎて、注射のダーツで磔にされる映像シーンで壊れてしまったテープを想起させる、オレのトラウマの一つなのだ。

 手っ取り早く解決するにはオレが夢から醒めれば良いのだが、その道のりは未だ険しい。何をすればゴールなのか、せめてそれさえ判れば対策も打てるのだが…。


「やる気になってくれて何より。そんなキミに朗報だ」


 この手の話の最中に降って湧いてくる、”朗報”の響きに胡散臭さを感じる。確か前回も似たような事を言っていたような気がしたが、結局ウヤムヤにされたままだったし。


「まさにその話だよ。まずは、これを見てほしい」


 そう言いながら女神様が虚空から取り出したのは、虹がその場に在るような不思議な機械だった。色取り取りに混ざり合い、流動しているその様は、まるで万華鏡を覗いている気分になる。


「”夢守(ゆめまもり)”という、ボクの世界の持ち物だ。これには世界を渡る為の鍵が内蔵されていてね、キミの表現した万華鏡という立ち位置に近い性質を持っている」

「鍵が万華鏡?」


 覗き見る度に色や形が変わるのが、万華鏡の性質だとオレは思っている。つまり、何にでも変化する鍵って言いたいのか?鍵の形もコロコロ変わって目的の鍵穴せかいを探し当てられるかも運ゲーな気がするが、形状の固定化ってできるものなのか?


「そこは問題ない、ボクの世界に戻る為の鍵の形は覚えているし、キミが懸念する形状固定化も可能だ。…さて、ここからが本題だ。”夢守(コレ)”を起動させる為に特殊なエネルギーを要するのだが、それがつい先ほど確認したら少し溜まっていたんだ」


 ようやくオレが夢から醒める為の第一歩を踏み出せた、って事か。それなら確かに朗報だ、夢から早く醒めて現実に還りたいオレとしても喜ばしい。

 だが問題は、そのエネルギーをどれだけ集める必要があるのか。そもそも、”特殊な”と枕詞を置いたほどのエネルギーの満たす条件は何なのか。この話がまだ見えてこない。前回の女神様との会話後に起こった出来事イベントと言えば、老司祭との戦闘くらいなものだがーー。


「その戦闘がエネルギーを集める為の必須条件らしい。この分だと、あと7回は繰り返す必要があるね」


 マジかよ、非戦闘員のオレだけじゃどうしようもない案件じゃないか。しかも7回って、それなりの回数だぞ。


女教皇プリーステスちゃんについていけば、戦闘の方面で困る事はないだろう。キミにはこのまま、女教皇プリーステスちゃんとは良好な関係を築いてもらいたい」

「無茶苦茶言ってくれるよこの女神様…」


 戦闘してもらうという、一層レイラさんに負担を強いてしまう条件に後ろめたい気持ちが残るが、それでも行動指針が示された事は素直に喜ぶべきだろう。

 それにしても、数回の戦闘で条件がクリアできるとか、まるで格闘ゲームのシナリオみたいな世界観だなーー。


(そういえば、オレのこの夢って何を参考にしているんだ?)


 ふと、気がついたように手垢のついた疑問が再び浮上してきた。今まで襲われてばかりで、情報の洪水を整理する事を先送りしたツケとも言えるが。

 さて、”ヤツヨ”の言う条件がまさにアクション、格闘ゲームのそれだと推測できる今なら、ある程度攻略法(ストーリー)も判明するかもしれない。…結局は、オレ自身の記憶に懸かっているって事か。


 ところが、そう意気込んで記憶の中の倉庫を探ってみたものの…しかし目ぼしい情報は全く掘り出せなかった。出会った(登場)人物も増えてきているのに、人物名はおろか、こんな特徴的な衣装ばかりの面々を欠片も思い出せないなんて、過去にあっただろうか。


「ーー待った。キミ、何も思い出せないって?」

「あ、いや。オレの夢ならゲームを参考にした世界なんだろうなって思って色々思い出そうとしたんだけど、成果がゼロだったってだけで」

「この手の世界ゆめは、分類問わず直近で見聞きしたものが関係する事が多い。まずは、それらの内容を思い出してみたまえ」

「オレもそう思って幾つか候補を思い浮かべたんだけど…。どれも思い当たるものがないんだよなぁ」


 『フィスト・ファントム』や『大拳闘ズ・スマッシュシスター』など、ここ最近オレが触ったアクションゲーム、格闘ゲームたちを思い浮かべても、レイラさんやソレイユといった面々に繋がる情報は何一つ出てこない。それに女神様の言う通り、ジャンル違いの他のゲームや漫画の登場人物の名前も頭の中で幾つか羅列られつしてみたが、しかし結果は同じだった。


(レイラさん、ソレイユ、マイティ、ファルス…。うーん、どれもありがちなキャラクター名だけど、一つのゲームや漫画に全員参戦しているものは無い気が…)


 年齢の所為せい?それとも、単にオレの記憶から抜け落ちているだけ?いずれにせよ、思い浮かばないのであれば攻略の近道(ヒント)は脇に置いておく他ないだろう。


「…今のはボクの聞き方が悪かった。仕方ない、今はこれで引くとしよう」


 一体何を聞きたかったんだ、と恨み節を呟くより先に、女神様はもう用は済んだと言わんばかりに虚空から杖を取り出し、それの柄を地面に数度叩いた。数拍後にはガクンとオレの身体から力が抜け、意識が朦朧とする。

 それは、この雲海の世界からの離脱。夢に堕ちる前兆。何度も味わっているこの感覚ねむけに溺れる前に、最後にこれだけは聞いておかなければ。


「なぁ、”ヤツヨ”。アンタ、どこで自動人形の、事をーー」


 しかしオレの意識は、急速にそこで闇に堕ちていく。まるで、その疑問に答えるつもりはないと言わんばかりに。

 チクショウ、念話でこちらに話しかけようものなら絶対聞いてやるから覚えてろよ…。


             ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「どこでボクが自動人形の事をったのか、か」


 確かにそれは、いずれ追及される筈だった。彼の疑問に、答えを隠すつもりは毛頭ない。

 けれども、今は少しでも早く休みたかった。見知らぬ世界で気前よく分身を送り込んだり、”女帝”(タロット)を気軽に起動させるべきではなかったと今更ながら自省する。


「そうだね。次、ボクが起きていた時にその話はしてあげようじゃないか」


 微睡みがやってくる。元よりボクは、瑕疵かしのある存在。元の世界においても異端、この世界においても異物。環境に慣れず朽ちてくのも無理はない。それを許さないこの環境ゆめも異端ではあるけども。

 次に夢を渡るのは、もう少し力を蓄えてからだろうか。どれだけ先になるかは分からないが、今は消費した力を補うべく眠る事にしよう。


「おやすみ、可能性の種。ボクが目覚めるまで、キミの旅路ゆめが続いていますように」


 ゆっくりと、重い瞼に抵抗する事なく閉じていく。ボクも彼と同じく、意識を深い闇へと沈めていった。

第2章、これにて幕になります。ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

え?タイトルの眠りの森ってどういう意味だって?HAHAHA言及前に章が終わってしまったよ…(目そらし)(爆ぜ散れ私の行き当たりばったり精神)


さて、あちらにポツポツ、こちらにポツポツとネタを仕込み、ようやくルートに乗った所で。物語の進行的にはようやくチュートリアル終了となります。現状における味方・拠点獲得、タロットカード戦までがチュートリアルは良いとして、ここまで長くね…?

ここから主人公君には、夢の中の荒波にもっと長く揉まれてもらいます。頑張ってヒロインちゃんと攻略してね!


第2章全体のチェック期間を経て、次章を書き進める予定となっています。引き続き、拙作をお楽しみいただければ幸いです。


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●”夢守ゆめまもり

女神様曰く、「世界を行き来する為に必要なエネルギーを溜めておくもの」。言及されている通り、とても特殊なエネルギーであり、従来の戦闘程度ではまず溜まりません。

では、ここで言う「特殊なエネルギー」とは一体何なのでしょう?

女神様がこの章までに行った事を、少し振り返ってみるとヒントが得られる…かもしれません。


それにしても、これを7回繰り返せって…。主人公君が戦闘の前線に立ち続けなければならない事を考えたら、いくつ命があっても足りなさそうです。ブルブル…。


●女神様が引っ掛かった「何も思い出せない」

第1章16の後書きでも触れた、記憶モグモグタイムとの関連です。

この夢世界いせかいにおいて、記憶はとても大事なもの。それを思い出せないという事は、何かしらの()()を受けている可能性がある、とも取れます。


女神様はその記憶の倉庫番をしているので、彼女の目の届く範囲では記憶を奪われていないものと考えています。もし、本当に攻撃を受けて記憶を奪われているのだとしたら、一体どのような方法で主人公君の記憶(データバンク)接続アクセスできるのでしょうか…?


●ウトウト女神様

これより暫く、女神様は女帝タロット発動による負債ペナルティの支払いの為に主人公君との念話ができなくなります。

この状態でも心の表層ライブラリの監視はできるようですが、適宜ヒントをくれたり、突然の戦闘で助っ人として乱入する事はできません。主人公君は頑張って、ガイド無しで夢世界いせかいを渡り歩いてね!


なお、抜け道は色々ある様子。やっぱり女神様、負債ペナルティを踏み倒してる…。後が怖いぞ…。

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