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夢渡の女帝  作者: monoll
第2章 眠れる森と焔の夢
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第2章21「兵の夢痕7」

 拝啓、クソ女神様。教会の床をぶち抜いて落としてくれた貴女の宿主は、豪華牢屋のベッドがクッションになってくれたお陰で奇跡的に五体満足で生きています。

 今度その顔を見た時は、レイラさんに全力攻撃でぶっ叩いてもらうつもりなので、覚悟の準備をしておきやがれください、敬具。

 オレの身体にダメージが反射するからやめとけ?後で未来のオレがレイラさんに謝り倒すから問題ない。


 …一人茶番も程々に。どうにか落下死を避けられたオレは、筋を違えたらしい上体をゆっくりと起こす。いくらベッドがクッションになったからと言って、叩きつけられた衝撃の全てを吸収してくれる訳ではない。

 ましてや運動不足が祟っている社会人は、少しでも無理のある動きをするだけで身体が悲鳴を上げるのだ。皆はこんなダメな大人にならないよう、今のうちに身体を定期的に動かしておくんだぞ。


(この牢屋へやの配置、壁の壊れ具合…。もしかして、オレにあてがわれていた方か)


 改めて牢屋へやを見渡すと、まるで台風一過のような荒れ模様だった。自動人形ニセモノや女神様の破壊に巻き込まれた、ほんの少し前まで綺麗に整えられていた筈の調度品の数々は、跡形もなく砕け散っており粗大ゴミの山になっている。

 この様では、無事に再利用できる物を探す方が難しいだろう。他人レイラさんが用意してくれた部屋の、無残な姿を目の当たりにして思う事が無い訳ではない。

 けれども、今はオレの身の安全を確保しなければ。取り敢えず先に出口を押さえておこう。あの駄女神が今後張り切り過ぎないとも限らない、出鱈目な攻撃の余波を受けて更に牢屋へやが崩れたら、今度こそ即死ペシャンコだ。


「っと、それなら」


 ふとオレは、レイラさんから貰った白い外套の存在を思い出した。教会の中の移動なので羽織って動き回るには不便だろうと、まだこの部屋の中に置きっぱなしにしていたのだ。

 牢屋へやが崩れたら、二度と探す事も叶わないだろう。この夢世界での、数少ないオレの持ち物を、手放したくない思いで再び周囲を見渡した。自分の命優先で動くべきだと頭で解っていても、ついオレの目は欲に敗けてしまう。


(ーーあった!レイラさん、ベッドの近くに置いてくれていたのか)


 幸いな事に、探し物が苦手なオレでもすぐに見つかる場所…ベッドのすぐ横に外套は落ちていた。少し土埃を被ってしまっているが、これくらいの汚れなら払って羽織る事もできるだろう。


(目立った破れもなし。…意外と丈夫だな、これ)


 牢屋へやの散乱具合とは裏腹に、特に大きな損傷も見当たらない純白の外套に若干の違和感を覚えたが、ともかく目的は達せられた。後は早々に、この場を離れるだけだ。

 よし、と気合を入れた所で、天井だった場所から光と焔が激しくぶつかり合う音が鼓膜を震わせた。あの女神様と老司祭の、激しい攻防が繰り広げられていると思われる轟音に、「うわッ」と思わず声が漏れてしまう。


「カケル様!?ご無事ですか!」「あんた急に居なくなったと思ったらそんな所に落ちて!」


 割れた天井から、こちらを覗き込むように顔を突き出したのは、オレの漏らした声を聞きつけて心配そうにこちらを見下ろしているレイラさん。そして、焦燥した表情を浮かべているソレイユの二人。どうやら二人の反応から、運悪く礼拝堂の床が抜けて落ちたのはオレだけだったらしい。…顔を出さないマイティの安否が気になる所だが、今は脇に置いておこう。


「な、何とか大丈夫…っ」


 二人を安心させる為に言葉を取り繕ってみたものの、これ以上嘘をつきたくないらしい筋を違えた身体は、正直に現状を申告してしまった。

 オレの痛がる様子が、レイラさんの感情の引き金になってしまったらしい。「そこでお待ちください、すぐに行きます!」と、語気を強めながら軽々にこちらへ飛び降りようとするものだから、オレも待った(ストップ)をかけざるを得ない。


「レイラさんはそのまま、自分の事は後回しで大丈夫ですから!それより、二人にやってもらいたい事が!」


 痛む筋を押さえながら、何とか伝えたい事を声に出す。こんな些細な痛みの為に、前衛職レイラさんに下がってもらうのは戦局的にマズイ筈だ。

 事実、女神様の提示した3分間(じかん)は秒針を一周する程度しか残っていない。…別にオレの体内時計が正確だからという訳ではない、女神様自身がオレの脳内に通達アラートしているのだ。「そろそろ大きい一撃をかましてボクは退散する」と。

 …さっきの光の雨が通常攻撃てかげんとかふざけやがってチクショウ!あんた他の世界じゃ裏ボス張ってたとか言わないだろうな!?


「で、ですがーー」「で?何よオジサンの悪巧みは!」

「ソレイユ様!?」


 食い下がろうとするレイラさんを、言葉で半ば強引に捩じ伏せてこちらの話に付き合ってくれるソレイユに乾杯。お陰でオレも思考が冷えた。今は一刻を争う、その機転に感謝しよう。

 けれども、今からオレが提案するのは二人が忌み嫌う共同作業きょうとうだ。対価は後払い、かつ二人の厚意次第。とんだクソ案件を依頼する身だが、オレは心を一度(から)にして、言葉ていあんを絞り出した。

ここでの一幕、要る…?(要る)

外套の存在はヒロインちゃんの好感度に大きく関わってくる為、主人公君には命の次に大切にしてもらわなければ…。


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●地上から地下まで落下して、よく無事だったなこの主人公…

ウンガイイナー…というのは半分冗談で。女神様は戦闘の妨げになりそうな主人公君を、戦場から引き離すつもりで足場を崩しています。

主人公君が立っていた位置が、ちょうど豪華牢屋の(ちゃっかり落下による耐性を強化しておいた)ベッドの真上だった事をちゃんと女神様が計算し、自由落下に耐えられるだろうと考慮した上で落としました。

高さにして、約4メートル程度。やっぱりオニ畜生かな?


●意外と丈夫な外套

ヒロインちゃんの外套は、以前の後書きにも書きましたが非常にレア物。少し手荒に扱う程度ではまず破れませんし、汚れません。

ただし、それはヒロインちゃんが定期的に恩恵ちからを籠め直してくれれば、の話。籠められた浄化の恩恵ちからが切れれば、通常の外套と同じく破れてしまうので注意です。


やむを得ない場合を除いて、なるべくこの外套を羽織って行動しなければ、ヒロインちゃんの好感度が徐々に下がっていきます。理由ヒントは…未来の3章17辺りで想像ができるかも?

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