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夢渡の女帝  作者: monoll
第2章 眠れる森と焔の夢
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第2章19「兵の夢痕5」

 老司祭が手にした強大な力(ジョーカー)から発せられる無機質な光は、オレの心を冷たく撫でていく。レイラさんの纏う温かい光術それと違い、こちらの命を断つ気に満ちている気がして、礼拝堂をより荘厳で冷ややかな空気に塗り替えていく錯覚すら覚えた。


(ハイエロファント…って、確かタロットのカードだよな。何の暗示だったっけ)


 学生時代に勧められたゲームで興味を覚え、アルカナの種類を調べた記憶が掘り起こされる。確か20個近くある中で、該当しそうなものはーー


「法王、5番目の大アルカナだ。いきなり大物を引き当てたね」


 脳内回線の遅いオレに代わり、女神様からオレの疑問に先回りし(こたえ)てきた。オレの思考が四六時中監視下にある事まで思い出し、つい渋い表情かおを浮かべてしまう。…解除できる方法があれば今すぐにでも飛びつきたい。

 それはそうと、タロットカードの種類による力の優劣ってあるのだろうか。互換関係がある、とか言われたら頭抱えるぞ。


「それは心配しなくて良い。基本、タロット一つだけでも世界の均衡(パワーバランス)破壊級だ。キミがあれこれ考えるより先に決着がつく」

(「そんな超発明品オーパーツ、オレの中に元々あったとか考えたくねぇんだが!?」)


 簡単気軽に世界を壊すんじゃねぇ、人の命を何だと思ってるんだ。そもそも、ただのタロットカードがそんな凶暴な力を持て余すような代物には思えないんだが!?

 …という気持ちを、何となく言葉に出す事を躊躇ためらった。ただでさえ、横にいるソレイユとマイティの「何の話をしているんだ」と、戸惑いと呆れの表情かおを向けられる偶像めがみさま、そんなグループに新たな偶像こまを据える趣味は、残念ながらオレにはない。


(「それとあまり聞きたくないけど、法王ってどんな超越チート能力があるんだよ?」)

「超越と書いてチートと読む辺り、ボクも返す反応に困る所だけども…。法王の場合、あの様子から考えられるのは信仰心向上。平たく言えば、力の過剰供給といった所だろう。ボクも全ての力を把握している訳じゃないからね、推測による情報提供になる事は許してほしい」


 冗談半分、やけっぱちと興味が四半クォーターずつの独り言は、思わぬ情報となった。というより、この女神様もタロットの力を解放したら村一つ焼滅しょうめつするとか言ってた気がするし、何かしらの超越チート能力は想像していたけども。

 しかし実際にその存在を目の当たりにすると、嫌でもゲームのような夢の世界にいるのだと改めて思い知らされる。…本当に、この世界から脱出する手段があるんだろうな?いっそ強制脱出ユメオチでも良いから、早く現実に帰りたい。


「「迷える魂に光あれーー」」


 そんな現実逃避は許さないと、老司祭たちが光の矢を再びつがえ始めた。行動そのものにはさほどの驚きもない、むしろよくこちらの動きを待ってくれていたと思う程だ。

 けれども、オレは驚きを通り越して絶望した。先ほどとの違いは、その光の大きさだ。通常の弓矢が弾丸と例えるなら、それは大砲のような大きさ。しかし、まるで重さを感じさせない手つきで老司祭たちはそれぞれに力を籠めているのだ。


「やむを得ない、か」


 ”ヤツヨ”の言葉が小さく聞こえたかと思うと、彼女の右手が虚空を掴んだ。その仕草は、どこか目の前の老司祭たちを彷彿とさせるようなーー。


「『墓標に灯を(アウェイク)』、女帝ジ・エンプレス

「「祝福の光矢(ディヴァイン)」」


 オレが答えに辿り着くより先に、”ヤツヨ”は力を解放していた。一直線にこちらへ伸びてくる光の洪水が、オレたちを焼こうとする浄化の光が、女神様が生み出した圧倒的な焔の前にただただ掻き消されていく。

 光の大砲を防ぎぎった後も尚、彼女の魔力ほのおは消える事なく壁を構築していた。羽織るカーディガンが魔力の煽りをうけ、盛る焔のように激しく揺らめき、漏れ出る力の質の格差をオレたちに見せつけている。


「やるのぅ」「まさか防がれるとは思わなんだ」


 まさか老司祭たちも、自分たちの渾身の攻撃を受け止めきるとは露ほども思わなかったのだろう。その表情からは、若干の焦りが見え隠れしている。

 そこまで観察したのと同時に、オレの世界がふらりと揺れた。揺れた世界が元に戻るのはそう時間が掛からなかったが、この感覚ひろうは昨夜も経験した事がある…気がする。


「緊急事態だ、予告なしに失礼するよ。…3分間、キミの時間いのちをもらおう」


 おいこの駄女神、勝手にタロットカードを使いやがって!?でもこの女帝タロットの力を使わなかったら、天に召されていたのはオレたちだった筈だからありがとうよチクショウ。


「キミも素直じゃないねぇ。でも状況はしっかり把握できているみたいだから、今回は小言も無しにしておこう」


 若干の溜息を混ぜ、しかしどこか満足したような表情で頷いてくる。こんの畜生女神、いつか手痛いしっぺ返しを食らうと良い。

 その女神様はと言うと、今も火傷している手に光を纏わせて治療しているレイラさんと向かい合っていた。…オレの言葉の呪いから逃げたなこの女神。


「さて女教皇プリーステスちゃん、その傷はすぐ治せそうかい?今は前衛のキミが戦いのかなめだ、出来れば正確に答えてほしい」

「…この程度なら、1分ほど集中すれば戦線に復帰できます」

「結構。それまでは保たせよう」


 オレの理解を、更に彼方へ吹き飛ばしてきた。この二人の化け物じみた会話やりとりに、オレが混ざる日は絶対に来ないだろうなと思考の横道に逸れたくなる。

 確かにレイラさん自身の怪我を、自分の恩恵のうりょくで回復させる行動は理解できる。けれども前衛欠員の中、あの女神様だけで怪しげな力を手に襲い掛かってくる老司祭たちを抑えるだって?…よく考えなくても女神様なら鼻歌交じりにやってのけそうだから、違う意味で再び頭を抱えそうで怖い。


(なら、凡人は凡人らしく目を凝らせ。どんな小さな事でもいい、木偶の坊(オレ)でも出来る事はあるんだ)


 どうせオレの思考も”ヤツヨ”に筒抜けなのだ、その利用くらいはしてやろう。もしかしたら、”ヤツヨ”も把握していない情報が転がっているかもしれないからな。

 だが、逆に言えば最大で3分間。これがオレたちに残された時間だ。それが過ぎれば、あの老司祭の猛攻を受けきる事ができる壁がなくなってしまう。

 こんな所で死んでたまるか。反骨心だけを頼りに、命を懸けた観察(3分間)が始まった。

●老司祭の「法王タロット

タロットによる恩恵は「信仰心向上」。誰にも自分の誇りを穢させない、という強い意志に応えるように、湯水のように浪費してもなお過剰に力が溢れる程の供給が、使用者に為されます。

また、ヒロインちゃんの浄化の恩恵ちからも、流石にタロットによって増幅した老司祭の力を受け続ける事は不可能です。元より彼女、遠距離戦を強いる相手との戦いは不得手ですからね…。

その為、現時点で()()()起動していれば、女神様(”ヤツヨ”)以外に勝ち目は無くなります。肝心な所で女神様にへそを曲げられないよう、普段の言葉遣いには注意が必要です。


ところで、第1章12の後書きで「原典オリジナルは2枚以上存在しない」という解説をさせていただきました。…おや、矛盾がありそうですね?


●ヒロインちゃん、めっちゃ痛そうな火傷でも1分あれば浄化なおるの!?

彼女が本気で恩恵ちからを解放すれば、即死攻撃でない限り戦線復帰が可能です。ただし多量に自分の力を使うので、永遠に復帰可能という訳ではありません。

主人公君にプレゼントしていた外套を装備すれば、単純に力の貯蔵量が増えるので復帰回数も増えますが…。そんな都合よく主人公君が外套を羽織らずにいるタイミング、ある筈ないじゃないですかHAHAHA(なお第3章後半)。

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