断片6「No.Ⅴ:The Hierophant」
月が、太陽を殺める瞬間を見た。あれは確かに、我らが賢者の後姿。細い容姿に淡い水色の髪は、見間違う筈がない。
遁走する民草の心を、執拗なまでに追い詰め。守る為に奮戦した兵士らを、その拳で惨めに屠る。それを二度三度と繰り返し、遂には皆が生を諦めた。忌々しい業は、今も心の奥底に根付いている。
私は識っている。あの娘に巣食う獣は、血を過剰に求めない事を。絶望に染まる民草に、種を問わず懸命に希望を与えていた姿を。
その知識が、何かの違和感を訴えている。糾弾の嵐が吹き荒れる中、私はその直感を信じて異を唱え続けた。
では、あの後姿は何だったのかと問われた。嬉々として己が力を振り回し、数多の血を流した元凶は何者かと問われた。その問いに、私は答えを窮した。
黒の海に、ただ数滴の白を混ぜても大勢は変わらない。その白も、やがては自身が黒く染まるしかない。
長く溶け込めば、沫すら残らず白は消え失せる。変色すら許さない、圧倒的な黒によって。
ーーそれが、この世界の処世術である。
●お母さーん、このCM飛ばせないのー?
今大事なシーンなんだからちょっと待ってて!…あーッ!そのリモコンから指を離してーッ!
●それはそうと
今回はとある人物の独白です。名前の通り?仰る通りです。
「The Hierophant」…タロットでは「法王」とも言いますが、この正位置は「正しい道を示す」「寛大な心」などの意味があります。また、逆位置では「不信」「背信」「誤解」なんて意味もあるようです。
ところで、何だか本編では不穏な雰囲気が漂っていますね。あの老司祭の心、今はどこにあるのでしょうね…?




