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夢渡の女帝  作者: monoll
第2章 眠れる森と焔の夢
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第2章15「兵の夢痕1」

 話題が逸れに逸れたが、ようやく腹を割って話ができる環境が整った。とは言っても、地上の礼拝堂に椅子を置いて座るだけの座談会風の体裁ではあるが。


「カケル様、大丈夫ですか?」

「や、やずみだい、でず…」


 その中でオレは、一人お腹を押さえるように丸くなっていた。理由は明白、レイラさんのボディブローだ。しかし、この言い方だと語弊があるので訂正しよう。“ヤツヨ”の痛覚共有の弊害に遭った、である。


 まず結論として、駄女神がのたまった痛覚共有の存在は真実だった。ただし双方共有される訳ではなく、“ヤツヨ”のダメージをこちらにも押し付ける一方通行クソシステムなのだとか。

 ただ、一応の救済のつもりなのか、ダメージ100%を押し付けられる訳ではなく、ある程度軽減してくれるらしい。そりゃそうだ、前衛職の適性があるとか抜かしてくれた女神様が「ダメージ上等!」とボコスカ殴り合おうものなら被弾も多くなる。それに強制的に付き合わされるオレの身は当然持つ筈がない。

 こちとら半生まともに拳を握った事のない体力ミジンコな無辜むこのオッサンぞ?自己申告と言えど、その軽減措置を経ても尚重く感じるレイラさんのの威力。控えめに言って、二度目を貰うのは本気で勘弁願いたい。


「だから言ったじゃないか、痛覚が繋がっていると。まったく、なり損ないとはいえ女神ボクを全力で殴るからバチが当たるんだ、反省したまえ」

「だからと言って貴女様に頭を下げる程、私も従順ではありません。カケル様に対してなら、いくらでも頭を下げさせていただきますけども」


 このように、“ヤツヨ”とレイラさんの話は平行線を辿っている。女性二人の間に差し込まれた挙句、その中で口論されるととても気まずい。ズキズキと痛むオレの腹は、女性に対する苦手意識どくの相乗効果によって更に悪化しているような気さえする。

 というよりこの女神様、レイラさんのあの拳を受けて平然としてるのだが化け物か?痛覚麻痺ってない?


「おーい、そこのオジサン虐め隊たち。そろそろあたしたちの方にも話題を振ってくれると嬉しいんだけど」


 忍者女のつまらなさそうな口調が、ようやくオレたちを現実の思考に引き戻した。一部「カケル様虐めではありません!」と否定の言葉が混ざるが、これ以上話題を逸らす訳にはいくまい。


「悪かったね。ではまず、キミたち二人の名前を聞かせてもらおうか」


 そういえば確かに、二人の口から名前を聞いてはいなかったな。忍者女の名前はレイラさんが「ソレイユ様」と何度も言ってたけども、この恋愛脳スイート野郎の名前を知らずに今まで過ごしていた。


「あたしはソレイユ、太陽の国の第二王女よ」

「公務を放り出して常にあちこちを旅する”放浪姫”です」


 レイラさんが勝手に自己紹介に付け加える事で、「る気?」「事実でしょう?」と会話の流れが止まってしまう。拳を握り締めるレイラさんをなだめ、オレは視線で続きを促した。


「俺はマイティ、『黎明旅団れいめいりょだん』の頭を張ってイル」


 恋愛脳スイート野郎ことマイティと名乗った男は、軽く挨拶するかのようにこちらへ会釈する。何ともまぁ厨二病らしい名前だこと、と自分の夢世界の中の、ネーミングセンスの無さに軽く呆れる。

 しかしその名前を聞いたレイラさんは、動きをピタリと止めた。


「『黎明旅団れいめいりょだん』って、まさか」

「太陽の国ノ暗殺者集団、そう言い換えた方が解りやすいカナ」


 それを聞いた途端、レイラさんの表情が一変した。オレが間に入って制止しなければ、今にも突っ込んで戦闘を始めそうな勢いだ。

 しかしこの話題に食いついたのは、意外な人物。太陽の国の第二王女を名乗るソレイユだった。


「待って。『黎明旅団れいめいりょだん』って、もう解体したんじゃなかったの?」

「その通リ。今は亡き先代の命によって、表向きはネ。けれども風向きが変わったンダ、あの日のお嬢ちゃんの失踪しっそうによってネ」


 失踪?何だ、家出でもしたのか。年頃の少女にはありがちな感情爆発パニックの末路だとは思うが、野次馬精神で少し興味が湧いてきた。


「はいストップ。気になる話題ではあるけど、今はその程度に留めてもらおう。ボクからキミたちに緊急で開示したい情報があるからね、それを優先させてもらう」


 この自由神じゆうじん、また好き勝手やりやがって…。まぁ、もしかしなくてもオレとマイティに聞いていた自動人形とやらについてなのだろうけども、そこまで急を要する話題ーーではあるか。オレたちの命を狙ってきた奴らだしな。

 レイラさんやソレイユも、互いに言いたい事がある様子だったが今は口をつぐんでくれている。その態度を話題の催促と受け取ったのか、”ヤツヨ”は話を切り出していく。


「だがその前に、今日のキミたちの行動を洗っていきたい。念には念を、と言うからね」


 はて、オレたちの行動を振り返るとな?この聴き取り調査(どうにゅう)、まるで弾丸で裁判的な某ゲームを思い出す。とはいえ、今回は単独行動していた人物が限られるので、二人の話を聞くだけなのだろうが。


「あたしはこの脳筋怪力女に、しこたま殴られた後はずっとあの牢屋に繋がれていたわ」

「足癖の悪い姫君に沙汰を下しただけです。私的な暴力なんて、私が振るう訳がないじゃないですか」


 相性の悪い二人の、現実における格闘技試合前の会見のような睨み合い(フェイスオフ)が再び勃発ぼっぱつする。レイラさんが拳をコキリと、ソレイユがつま先をトントンと鳴らし、今にも取っ組み合いが始まりそうな悪い予感しかしない。

 だが”ヤツヨ”も面倒を見きれないらしく、「もう好きにしてくれ」と放っておく事にしたらしい。その代わり、「ならキミの行動を教えてもらおう」とマイティに水を向けた。


「俺ハ、集合場所になかなか来ナイお嬢ちゃんを迎えに来たンダ。教会の抜け道を使ってナ」


 オレが地下牢で聞いたソレイユの話の内容と、記憶の中で照らし合わせ、恐らくマイティの言う抜け道の話は真実だろうと見当をつけてみる。彼女が言っていた「教会の抜け道を教えてもらった盗賊」が、やはり()()マイティなのだろう。

 とはいえ、この推察までが限界だ。オレは言葉の嘘を見抜ける探偵ではないので、これ以上の話は鵜呑みにするしかない。

 けれども、鵜呑みにするとしたら気になる事がある。その真偽を確かめる為、オレは言葉を投げかけてみた。


「なら、その抜け道をーー」

「キミが使用した抜け道の、詳細な場所を提示してもらおう」


 そんなにオレに話をさせたくないってか!?…確かに、言葉選びは苦手だから助かるけども。


「この礼拝堂ノ会衆席、その床ダ。本当ナラ、入口は席の下に隠れているのダガ…。どうやら昨日ここで戦闘があったラシク、その余波を受けテ今は入口が剥き出しになってイル」


 そういえば確かに昨夜、あの老司祭と戦闘になったんだった。逃げるのに必死で今まで気付かなかったが、改めて会衆席のあった箇所を見渡してみると、老司祭の放った光の矢が焼いていった跡が今も生々しく残っている所がある。レイラさんの浄化そうじも、流石に限度があるのだろう。

 実際に「ここダ」と場所をマイティに示され、“ヤツヨ”がその中を検める。そこは、人一人がようやく入れそうな狭い通路…というより、舞台の奈落のイメージが近いだろうか。その抜け穴から漂ってくるよどんだ空気は、普段から鼻が詰まって臭いが分かりにくいオレですら、中に好んで入りたいとは思わない忌避感情を覚えた。


「これ、降りる時とか登る時はどうするんだ?梯子はしごがどこかにあるとか?」

「勿論、自力で降りるシ、登ル」


 …オレみたいな筋力ナシナシの男は使えない、特殊な脱出口でしたか。降りるだけなら何とかなるかもしれないが、降りた後に足腰が使い物にならなくなる可能性が大だろう。

 というより、この会衆席と床の間ってそれなりに間が狭い気がするが…大の大人が通れるものなのだろうか。仮に該当する会衆席を動かす仕組みなのだとして、もし誰かがこの礼拝堂に居たら抜け道の存在がすぐバレそうなものだが…。


「ちなみにキミは、ここを昇降する事は可能かな?」

「当然ダ、作った本人が通れない道はただのうろだからナ」


 そりゃそうだ、作り手が通れなきゃ意味がない。わざわざ当たり前の事を聞くのかと呆れてやろうと思ったが、何やら考え込んでいる様子の“ヤツヨ”。…今の言葉、何か引っかかる内容でもあったのか?


「この抜け道の先は、ボクがキミを視認した牢屋だけ。この認識に間違いは無いかい?」

「いや、反対側にも出る事が可能ダ。互いに対になる牢屋同士を繋グ隠し通路ニ、この抜け道ハ繋がってイル」

「だとしたら、オレたちが通ってきたあの隠し通路にも抜け道があったりするのか…?」

「それは違ウ。この抜け道ハ、2箇所しか作れなかったンダ。ちょうどお嬢ちゃんが囚われてイタ、あの牢屋を結ぶ隠し通路の分がネ」


 纏めると、この一方通行チックな抜け道(えんとつ)を使って出入りできるのは、妙に豪華だった牢屋以外の4つの牢屋のみ。ただし奥行きの移動はできず、左右の地下牢で対になる牢屋にしか辿り着けないという条件がつく、と。

 この抜け道の存在さえ知っていれば、案外中に居た人物も使えそうな気はするな。…オレのような例外を除いて。


「では、ボクからの最後の質問だ。…ただし、これはキミに答えてもらおう」


 そこで指名されたのは、なんとオレ。マイティから質問の矛先が変わった事に驚きつつも、何となく聞かれそうな事に見当がついていた。


「素晴らしい、キミにしては心構えが周到だ。けれども、ここは皆に聞こえるよう敢えて言葉にしてもらおうか」


 この答えが、オレたちが探していた”5人目”の存在を炙り出してくれる。そんな女神様の確信に満ちた声が、オレに問いかけた。



「キミと女教皇プリーステスちゃんが見た、忍者ちゃんが繋がれていた側の地下牢の内訳。それを教えてもらおう」

●女神様、ヒロインちゃんのパンチまともに貰って動けているの、控えめにいってヤバくない…?

はい、ヤバいです。ヒロインちゃんも会心の一撃を見舞った筈なのにピンピンしているので、内心物凄く焦っています。

本人(柱?)も申告している通り、元々は前衛職なので格闘戦はお手の物。正面からまともに戦うのは、いくら戦闘慣れしているヒロインちゃんでも危険です。特に不規則カウンターによる、主人公君への間接的な被弾が致命的。これを如何に攻略するか…というのが、彼女と戦うルートになった時は考えなければならない所ですね。…そもそも、そんな未来は来るのでしょうかね?


●仮面男こと、マイティの属する「黎明旅団」とは?

太陽の国の治安維持や、月の国の要人暗殺・諜報などを引き受けていた王族直下の暗殺者集団。…ですが、「王族謀殺」事件が起こる少し前に「停戦を結んで外交に力を入れるなら、懸念材料は早々に消すべき」と組織を解体していました。

「王族謀殺」事件後は、生き残った王族じぶんたちにいつ刃を向けるか分かったものじゃないと、国から追放する程に煙たがられてしまいます。それとほぼ同時期に、「行方不明のソレイユを国の外で見かけた」という一報を受け、彼女の捜索の為に再び集結した…という背景があったりなかったり。


要するに、太陽の国の姫君(ソレイユ)の為に動く選りすぐりの傭兵団みたいなもの。レイラという敵国の化け物が近くにいるので、彼らの高い実力と存在感がどうしても薄れてしまうのが最近の頭首の悩みだという。


●礼拝堂から地下牢に続く抜け道

会衆席の一部をずらした床から、こっそりと出入りができる舞台奈落の事。仮にソレイユが捕まった時、この位置から奇襲を仕掛けられるだろうと見込んで『黎明旅団』の面々が改造した道です。

ただし前提条件がとても厳しく、狭い上に通りにくい為、会衆席をずらす場面を目撃されては意味がありません。その為、普段はこの教会に複数人見張りを常時置いているのですが…。現在も地下牢に閉じ込められている老司祭、1章では何故()()()主人公君たちを待ち伏せできたのでしょうね?

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