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夢渡の女帝  作者: monoll
第1章 日常が塗り替わる日
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第1章15「女帝と沈む太陽5」

 実のところ、これ以降のオレは意識を失っていた。だから、これ以降は女神様(”ヤツヨ”)から事の顛末てんまつを聞いたものを、さもオレがその場で俯瞰ふかんしていたかのように話をさせてもらおう。

 先に結論から言えば、レイラさんは勝利した。女神様(”ヤツヨ”)の言う通り、忍者おんなの恩恵を攻略し、とてもではないが言葉で言い表すのもはばかられる程、完膚無きまでに叩きのめした。…流石にその描写は忍者おんなに同情する所があるので、ここではレイラさんが恩恵を看破した過程を話そうと思う。


             ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「カケル様!?意識をしっかり持ってください!今浄化(ちりょう)します!」

「あっれ〜、もしかしてオジサン死んじゃった?だったらちょっと残念、もっと痛めつけたかったのに~」


 忍者おんなの凶脚に沈んだオレを、必死に介抱しようとするレイラさん。てのひらに光を纏わせてオレの傷を癒そうとするが、いかんせん彼女の恩恵は浄化。確かにレイラさんのそれは、痛めた内臓や折れた骨すら時間をかけて治す事ができる程、現実における「浄化」の定義から外れた力ではある。けれども、そんな常識外れの力を持ってしても、既に脳から送られてしまった痛みの信号、そのショックで手放してしまった意識までは癒せない。

 小太陽かきゅうの逆光が、レイラさんの表情を暗く隠す。…繰り返しだが、この時のオレは既に意識を失っており、レイラさんのその表情を実際に見た訳ではない。だが察する事はできる。踏んではならない尾を、盛大に踏み抜かれた者の顔だという事くらいはーー。


「貴女様の事は存じています、太陽の国の”放浪姫”ソレイユ様。あの事件の日、実は私は貴女様を探していたのですよ」

「…ふぅん、今更お涙頂戴の命乞い?『愛しのオジサマの命だけは見逃してっ!』とか言ってみる?」


 ソレイユ、と呼ばれた忍者おんなは、蔑むように吐き捨てる。ここで言う「あの日の事件」は恐らく、王族謀殺の事だろう。両国で多数の死傷者が出た痛ましい事件だったらしい…という、あの猪肉を食べた焚き火の前での朧げな記憶を手繰り寄せる。


「私も当時は、まだ賢者の称号を戴いたばかりの成り上がり。この恩恵と体術以外の事は、何の教養もない至らない女でした。それを補う為、様々な分野の学びに触れられた当時はとても新鮮でしたよ」

「随分個性的な命乞いね?頭揺らしすぎて思考回路もおかしくなったのかしら」


 確かに会話の返しとしては的外れだ。けれども、レイラさんは意に介さず言葉を続けていく。


「太陽の国との停戦協定を結ぶ、大切な場へ赴く事になったと知った時は、礼節もそこで学んだものです。せめて失礼の無いよう、最低限の知識だけでもと詰め込みました。…その中には、相手方の恩恵が何だったのかを理解する事も含まれております」


 そこで、ようやく忍者ソレイユはレイラさんの言葉が命乞いではなく、何かの時間稼ぎをしているのだと悟った。ならばトドメを刺すだけだ、と脚を大きく振り上げる。


「その顔ごと減らず口を潰してやる!」


 脚を振り下ろしたタイミングと、レイラさんが振り返りながら放つ拳が重なり、衝撃が辺りに波紋を起こす。ただの肉弾戦でそんな事が?と疑問に思う事だろう。

 だがよく目を凝らせば、二人の放った拳と脚それぞれに纏うものがある。女神様(”ヤツヨ”)曰く、レイラさんの光を纏う光術こうじゅつと同じで、忍者ソレイユも何かしらの恩恵を纏っている状態らしく、それがオレの腕を端折へしおり、レイラさんの拳を真正面から受けている正体なのだとか。


「特に興味を惹かれたのが、貴女様の恩恵ーー影纏い。当時はその名前しかる所が無かったのですが」

「それで、あたしの恩恵を見破ったつもりになった訳?」


 今度はレイラさんの言葉を遮って、忍者ソレイユが口を開く番だ。苛立ちを隠しもしない声色は、脚に籠めた黒く光る力を更に強めていく。


「えぇ、カケル様のおかげで確信を得られました。貴女様の恩恵、その攻略法も」


 その黒色を、上回る白が塗り潰す。いくら忍者ソレイユが恩恵で武装していたとしても、レイラさんの恩恵がそれを無効化じょうかする。

 やはり真っ向勝負では分が悪いと悟った忍者ソレイユは、ならばとレイラさんの拳から逃れる為に地面に潜る。…正確には、自分の影にひそもうとした。


「…っ!?」


 だが、忍者ソレイユはただその場に立つだけで、何も起こらない。何も起こらなければ、レイラさんの拳を真正面から受けるしかない。


「ぶッ!おごッ!?」


 角度良好の一撃を顔に貰い、一瞬だが忍者ソレイユの視線がレイラさんから切れる。なにくそと視線を戻す頃には、忍者ソレイユの横腹を拳の一撃がいでいた。横に流される筈だった彼女の身体は、衝撃のベクトルを相殺されてしまった事でその場に縫い留められてしまい、レイラさんの間合いからの脱出が叶わなくなったのだ。


「後退はさせません。逃してしまいますからね」


 容赦の欠片もないレイラさんの打撃が、暴風雨のように忍者ソレイユの身体を襲う。いくらか被弾し、時に腹に受けた衝撃に吐きながら顔をうつむかせる忍者ソレイユは、そこでようやく自分の過ちを悟った。自分から伸びる影が、想定よりも短いのだ。


「ソレイユ様の恩恵、影纏いは『ソレイユ様の影が触れているもの』に影響を及ぼすもの。影を伝って背後に回ったり、影に触れているものの強度を一時的に借りた身体強化といった所でしょう。ですが、それはあくまで影が触れていればの話です」


 ならばレイラさんの影に逃げようと、忍者ソレイユが掴みかかろうとする。そして…またしてもそれが失策だった事に、レイラさんの白い衣装に手をかけた所で気がついた。殴られ続けて、頭が混乱していたのだろう。簡単な見落としにすら、忍者ソレイユはその時まで気がつかなかった。


「ソレイユ様が飛びつきそうな大きな障害物は周囲に無く、夜はこの通り小さな太陽が光で支配している。…貴女様が渡りたがった大きな影は、この場には一つだけ。私の、()()です」


 あの小太陽かきゅうが、レイラさんの真後ろに見えている。そこから照らされた場合、影はどのようにできるのか。答えは単純明快、レイラさんの()()()に影ができるのである。これでは、たとえ影の中に逃げた所で出てくる先は変わらない。むしろ、影から出た瞬間の、無防備な身体が守れなくなってしまう。

 忍者ソレイユが慌てて手を離そうとするが、それをしっかり掴まれる。今度は逃がさないと軸足で忍者ソレイユ(ぶき)を封じながら、レイラさんの右拳が力強く握り締められた。


「裁きの時間です、ソレイユ様。しばらくは、水鏡でご自分の顔は覗かない方がよろしいでしょうね」


             ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 以上が伝聞による一部始終である。…レイラさんを絶対に怒らせないようにしよう、オレはこの話を聞いた直後の感想がそれであった。

●そんな都合よく影が小さく出来たりするものなの?

カケルの夢の中の世界なので、当人の(歪んだ)知識が絶対である。要するに気にしてはいけない。


●第1章、その顛末

ソレイユを滅多打ち(フルボッコ)にして勝利を納めたレイラは、ファルスを縛り上げた要領でソレイユを縛り上げ、教会の地下牢へ繋げた…というのが大まかな流れになる。

他にも、なかなか消えない小太陽をレイラがどう攻略したのか、ソレイユ・ファルスの食事事情といった小話もあったりなかったり。今回はバッサリとカット。書籍化とかしたら…考えましょうかね…

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