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夢渡の女帝  作者: monoll
第1章 日常が塗り替わる日
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第1章14「女帝と沈む太陽4」

 さて、少女二人が現実の格闘技よろしくバチバチに睨み合い、今まさに拳と脚が振るわれようとしている頃。オレは何をしていたのかと言うと、自称女神様(”ヤツヨ”)の診察を受けていた。今にも倒れそうなオレを気遣って、という訳では決してない。単純に、オレの身に起きている異常を確かめる為だ。


「今のキミの状態を見るに、やはりボクの介入には一定のデメリットがありそうだ。次回からは時間の制限を設けておこう」


 診察と言っても、軽く一瞥いちべつされただけだ。それでもこの自称女神様には、今のオレの状態が解ったらしい。


「では、ボクはこれで失礼しよう。なぁに、ボクの助力なしでも賢者ちゃんは勝つとも。あの能力ーーこっちの世界では恩恵だっけ。その謎さえ解ければ、ね」


 恩恵の正体が解ったならヒントくらい置いていけ、と文句を言うより先に、自称女神様はその場から掻き消えるように夜へ溶けていった。…マジかよ、本当に帰りやがったぞ。


(謎を解くって言ったって、こんな夜の中じゃ見落とさないモノも見落としそうだーー)


 そう考え始めた矢先、オレはふと、自称女神様が創りだしていた小太陽かきゅうの片割れがオレの頭上で浮いている事を思い出した。おかげで視界が闇に塗り潰されずに済んではいるが…。


(あんの駄女神!?こんな危ない物を放置したまま帰りやがって!)


 本人曰く「触るな危険」な代物である以上、迂闊うかつに触れる訳にはいかない。それに、強い光が照る場所は眩しくて敵わない。少しでも目の負担を軽くする為に、どうにか自分の影が前に出るよう立つ位置を考えなければ。…せめてこの小太陽、勝手にオレの真後ろに動いてくれないものか。あわよくばオレの後ろに常についていてほしい。

 そんなしょうもない事を考えている間にも、二人の戦いは既に火蓋が切られていたようだ。


「あはッ、良い蹴りの的ね!」「くッ…!」

挿絵(By みてみん)

 絶えず交換される拳と脚。打ち合いはレイラさんが押しているように見えるが、顔に拳を浴びた忍者おんなが流されるままに身体を沈ませ、相手おんなを見失ったレイラさんの背後から脚で殴り、態勢を崩した所に追撃を浴びせる。展開に差はあれど、大まかにはその繰り返しだ。

 素人目に見ても、1-2交換ばかりでレイラさんの状況は芳しくない。有効打の数は恩恵の都合で相手方が一枚上手、ただし真っ向勝負ならレイラさんに軍配が上がる、といった所か。


(この状況を、何かひっくり返せるものがあれば良いんだが…)


 兎にも角にも、即断が求められている。レイラさんが倒れてしまったら、今のオレでは逃げる事すらままならない。…考えろ、オレにできる事は小賢しく立ち回る事だけだ。ゲームでもそうだっただろう?上手く活用できそうなものを探せーー。


「他所事考えてる暇あるの、オジサン」

「ーーっ!?」


 思考の海に潜ろうとしたその矢先、突然オレの目の前に忍者おんなが生えてくる。正確には、何もない所からーーこの地面の中に奈落装置でもあるのかと疑うような勢いで、飛び出してきた。あまりにも突然だった事もあって思わず仰け反った事が功を奏し、オレの首に腕を絡めようとした忍者おんなの腕を、すんでの所で回避できた。

 だが、二度目はない。ならばと忍者おんなは、態勢を崩したオレに避けようがない膝を繰り出してくる。狙いは顔、いかに体重の軽い一撃であっても当たれば意識を刈り取られる、鋭い一撃だと確信できる。咄嗟に両腕で顔を守り、瞬間ーー衝撃と同時に腕から嫌な音が聞こえた気がした。腕の骨が折れた音だと直感的に悟ったのは、その直後だった。


「ぐあぁあッ!?」

「嘘でしょ?こんな一撃でもう泣き言とかダッサ。まぁでも、あたし的には脳汁モノだけど…ねッ!」


 サッカーボールよろしく蹴りつけられたオレの身体は、細い忍者おんなの脚の一撃とは思えない衝撃に浮き上がり、背中から地面に叩きつけられる。脳から送られる緊急信号いたみに、しかし身体は応えられない。映画で見る、渾身の一撃をもらった後の吐き戻すシーンを思い起こしてもらえると解るだろうか。身体の神経が全て切断されてしまったかのような気持ち悪さが、オレの中をグルグルと駆け巡っているのだ。


「ほらほら、早く立たないとまた蹴るわよ。それとも逆に蹴ってほしいとか?」


 嘲笑うように、仰向けに倒れたオレを間近で見下ろす忍者おんな。このまま何もしなければ、ロクでもない事が待っている事だけは確かだ。


(クソ…。動かなきゃ、今度こそ死ぬぞ)


 どうにか意識の中だけで紡いだ言葉を、しかし音に組み立てる事ができない。オレの視界には、その忍者おんなの足元しか見えず、このまま蹴り殺されるのではと絶望感に苛まれる。


「させません!」


 そこへレイラさんの声が割り込み、忍者おんなを引き離そうと拳を振るう。その一拍後、オレはあり得ないものを俯瞰ふかんした。再び、忍者おんなの身体が地面に沈んだのだ。…いや、それは先ほどから何度も見ている光景であって、それ自体はもう驚きの対象外だ。忍者おんなの沈む瞬間ーードプリと音がする瞬間の地面を、オレは目撃した。


(そういう、事…)


 同時にオレは、忍者おんなの恩恵を理解した。だが哀しいかな、それをレイラさんに伝えるだけの力が、今のオレにはない。だから、オレはーー。

挿絵は時幻セト様に描いていただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


駄目神(”ヤツヨ”)様、忘れ物があります

この女神様、恐ろしい事にわざと小太陽かきゅうを1つ残して帰っているのだ…。主人公君こどもにそんな危ない物を与えてはいけませんよ、女神様!

女神様(”ヤツヨ”)にとっては、ご注文の品(ヒント)を届けた程度の意識しかない。とはいえ、無闇に触れればカケル程度は瞬時に灰になる危険物。また、解答時間に3分間という制限も掛けている。

…このように、「これを使って攻略してみよう」という、一種の謎かけの要領で主人公君の思考力を測っている背景がある。


最悪の事態に備えて、実は裏解答インチキも用意しており、仮にこれが起動した場合はレイラ諸共燃やし尽くす爆弾となっていた。

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