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夢渡の女帝  作者: monoll
第4章 希望を夢見た宙の記憶
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第4章32「色染まるバケモノたちの舞踏会2」

 打ち付けた身体の痛みの波が引き、ようやく立ち上がれる程度までに回復した頃。オレはこちらを見下ろす女と視線を合わせていた。

 先ほど声がした二人のうち、今はすっかり床と同化し微睡んでいる同僚おんなに任せ、終始オレを助けようとしなかった女…名前はカノンと言ったか。

 こちらとの距離をしっかり取った上で、蔑むような表情を浮かべている。オレと良好なコミュニケーションを取る気ゼロの姿勢に、オレも心に棘を生やしていく。


 そんな彼女の第一印象は、ツン成分多めの麗人だった。女性の細い躰を包む白いフリルブラウス、その胸元には青いリボンが結ばれており、女性らしさを青い軍服がカッチリと包み込んでいる。

 レイラさんの法衣ドレスと似た色合いを選んでいる辺り、彼女と何か因縁があるのだろうか。後ろで一つに束ねて下げている青色の長い髪も、どこか淡い水色のボブヘアーのレイラさんを彷彿とさせる。


(何にせよ意識はしているよな。それも…貴族様って雰囲気が全然隠しきれていない。レイラさんの熱狂的なファンって言葉で片付けるのも、少し違う気がする)


 粗雑さよりも丁寧な髪の下ろし方に印象が寄る事から、軍人というよりは貴族婦人の男装あそびをイメージさせた。実際、浮かべている表情に軍人の厳しさは皆無だ。

 そして何より…軍人に似合わぬミニスカートを着用し、編み込みのサイハイブーツで若さを強調し。その隙間から覗く絶対領域しろいはだは老若問わず男の心を釘付けにする。女を棄てたくない心が隠せていない証拠だ。

 それだけではない。人によっては性癖の直球を征く、豊かな双丘が腕に持ち上げられて余計に存在を強調している。少しでも腕を動かせば収まっていた形が零れ、揺れ動きそうだ。


(…レイラさんより遥かにデケェ。直視できねぇ)


 胸元がはだけていない衣装である事が唯一の救いだろうか。同性でも羨む人間がいるという話は聞いた事があるが、もしかしたらレイラさんもソレイユも、下手をすればプリシラも羨望と嫉妬の視線をこの胸部に向けるかもしれない。

 強く男の欲を刺激する光景だが、残念ながらオレには通用しない。それどころか、決して視線を合わせようとしなかった。


 勿論、女性特有の膨らみが大きな要因とは言わない。言える筈もない。それだけならば単なるオレの趣味嗜好の問題で、引き合いに出せば責められるのはオレだったからだ。


「こっち見なさいよ。男一人くらい、力業で振り向かせる事くらい訳ないんだから」

「斬新な自己紹介と警告をありがとう。無事…無事?かはさておき、あの覆面男から助けてくれた事には感謝するけど、それ以上言葉を交わすつもりはオレにない。それと、力業で振り向かせる事ができるならオレを受け止めてほしかったな」

「ッ…。カノンにも、できる事とできない事があるのよ!」


 眉を吊り上げ、コツコツと靴音を鳴らしながら距離を詰めてくる女。胸倉を掴まれ、首の可動域を強制的に狭められても尚オレは女から目を逸らした。


「この…ッ、こっちを見なさいよ!」

「嫌だね、そもそも一手目で暴力に訴える相手を信用したくはない」

「それは!貴方が!こっちを見ないからでしょうが!!」


 他人と話をする時は顔を合わせなさい、そんなもっともな正論が飛んでくる事は当然だった。だが、苦手なものや嫌悪感のあるものから目を逸らしたくなる気持ちもどうか解ってほしい。

 恐らく…いや十中八九、オレはこの女と致命的に相性が悪い。相手を解ろうと歩み寄る気すら失せる程に。


「だったらその物騒な凶器の山を、全部納めてほしいな」


 オレはそう言いながら、女の背後に浮かぶ剣の一部を睨みつけた。

 正確に表現するなら、それは鋭利な土の塊。しかしプリシラのように剣や槍といった得物に姿を変え、着色されてしまえば…切れ味が違うだけで人の命を奪う凶器だ。

 材料は違えど、殺傷力の高い得物である事には変わらない。そんなものを大小問わず宙に浮かし、こちらに照射できるよう切っ先を向けている女を相手に「話し合いましょう」の握手から始められるとしたら、それは力ある聖人くらいなものだろう。


「カノンがそんな危ないものを持っているって…?どこに!どれだけ!そんなものがあるって言うのよ!!」

「なら、その背後にあるものは一体何なんだよ」


 オレの要望うったえを、しかし女は聞く耳持たないと尚も締め上げる。心なしか、彼女の背後に浮く武器つちの数々が増えているような気がする。

 しかし間近にある筈の武器つちに気付く素振りはなかった。それどころか、彼女の感情に呼応するように武器つちが更に錬成されている気がした。


(まさか、コイツ…自分が戦闘状態に入っている事に気付いていないのか!?)

「…あぁ、そういえばあの方の命令って。貴方が傷ついていても問題なかったっけ」


 そう言いながら、女は更に一歩こちらに踏み込んでくる。土の剣が、槍が、斧が、オレの身体を突き刺さんと狙いを定めた。…おいおい、本気でオレを殺しに来てないか?


「手足を斬り落とすくらいなら大丈夫だよね。口が動いてさえいれば、グチャグチャに潰しても問題ないよね…!」


 土の得物たちは皆、オレの急所を正確に突いてくる事だろう。今更回れ右をして逃げられる訳もなし、これはもう死ぬしかないのかーー。

 そう思いかけて、ようやくオレは自分の数少ない武器に考えが至った。…“悪魔”を呼び出す超越物質タロットが、「吾輩を使いたまえ」と手招きしている。


 使う、しかない。今この瞬間がオレの命の分水嶺だと悟り、呼吸を整え始めた。


「戯れはそこまでだ、カノン。妾に汚物を寄越すつもりだったか?」

「うっ、ウルスラ様…!」


 女の背後で構えられていた土たちが、一斉に霧散する。オレの整えた呼吸が、突然降ってきた声によって再び乱される。

 誰かが急に声をかけてきたから?…違う。土の武器が一斉に掻き消えたから?…否定はしきれないが今は違う。


「アンタ、は」

「先ほどぶりだな、雑草のお気に入り」


 部屋に入ってきた、もう一人の女。白い薔薇を衣服のあちこちに咲かせた女は、愉しそうに口を歪ませオレを見据えていた。

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