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夢渡の女帝  作者: monoll
第4章 希望を夢見た宙の記憶
151/170

BAD END LOG06「誤審は黒く塗り潰される」

こちらは第4章29-1「Choose One(Level 5)」のBルート(ifルート)になります。文章も、その続きからとなっています。

覆面男から突如突きつけられた選択、主人公君が選ぶのは果たして…?

「こと、わる」


 感情を乗せる方法を忘れてしまったのか、絞り出すように口にした言葉からは生気を感じなかった。気力回復に全エネルギーを使い果たしたのだろう。

 人間にしては冷たすぎる、しかし機械にしては熱を持ち過ぎたオレの言葉は、覆面男のご機嫌を損ねるには充分だった。


「…死ぬぞ?」


 ただ一言、こちらを振り返りもせずに念を押してくる。…そんな事を言うんじゃねぇよ、決意が揺らぐだろうが。

 正直に言えば、すぐにあの血だまりの中に直行したい。いくら犬猿の仲と言えどもレイラさんがソレイユを殺すなんて考えたくなかったし、どこかに消えてしまったソレイユを探さなければと強く思っている。


 だが残念ながら、オレは特別な力を持たないただの人間。特にこの夢世界いせかいにおいて、無力を通り越して木偶の棒のような存在だ。

 木偶の棒は、身も心も簡単に折れてしまう。今だってそうだ、レイラさんの凶行を目の当たりにしたオレの心は既にレイラさんから距離を置きたがっている。


「お前と一緒にいるより、遥かにマシな選択だ」


 生物は、無意識には逆らえない。無意識を捻じ曲げたいなら、矯正したいなら、無理をする必要がある。

 ならばレイラさんは、簡単にオレの無理うそを読み取ってしまうだろう。嘘を極端に嫌う彼女の反応なんて、今から想像するまでもない。


 であれば今のオレの命は、行動と思考の一手を誤るだけで即座に吹き飛ぶ爆弾と同義だ。心の準備が整わないまま、誰が単身空手で吶喊とっかんするものか。


「それより答えろ。アンタ、何か二人に吹き込んだんだろ?そうじゃなきゃ…分別あった筈のあの二人が、殺し合う訳がない」

「二人だけに吹聴した訳ではないが…その疑問には肯定しよう。確かに私は遊戯ゲームの為に他者を殺す事を推奨した、だがあくまでこの遊戯は『椅子取り』である。『サバイバル』ではない」


 頭の中でブツリと何かが派手に切れる音がする。

 言葉で飾っているだけで、本質は何も変わらない。参加者の人数を減らせば当選確率も上がる?そんな人道外れたクソみたいな遊びを、オレの夢の中で行おうってか!?


「早い者勝ちであるのは事実だ、しかしその席を時間まで守りきる事も遊戯ゲームの内容に含まれている。その過程である席を守る、もしくは奪う方法は問わない…とも」

「椅子取りもサバイバルも、結局命の枠を奪い合うって事に違いはないだろうが…!」


 掴みかかろうとするオレの身体を必死に影が押さえる。…違う、臆病チキンなオレは足を動かしたくても動かせなかった。

 恐らくこれは正しい選択だ。激情のままに掴みかかっていたら、オレは覆面男に殺されていた。本能は正しく目の前の脅威を認識、理解できている証拠だった。


「客人にはある程度遊戯(ゲーム)が進行するまでは生き残ってもらいたいが、あの二人の存在は遊戯ゲームのどの進行具合にあっても障害にしかならない。故にーー」

「その為に、二人を殺し合わせたってか!?だったら尚更、アンタの言う事なんか聞けるかよッ!一緒に来い?殺しを唆した相手に誰がついていくか!!」


 黒い怒りの炎が更に燃え上がる。悪趣味な殺し合いゲームを、オレがこの夢世界いせかいで知り合った人間同士でわざわざ行わせた事実に、頭痛と吐き気を催した。

 どちらも典型的なストレスによる症状だ。いい加減に胃薬が欲しいが、頭痛薬もどうせなら欲しい。オーバードーズ?そんな真似誰がするか、オレは現実じゃ――



 瞬間、ズブリと何かに嵌る音がした。同時にオレの世界が揺れる。

 …違う、世界が遠くなっていく。真っ黒な穴に80キロの体重が、突如足元に空いたあなによって、自由落下していく。


(…は?)


 ようやく理解が追い付いた時には既に、オレの身体は影の世界に放り込まれていた。

 文字通り、真っ黒な何もない世界。どこまで落とされるのかも分からない世界かげに、男は墜ちていく。


「たす、け」


 口から言葉を漏らした時には、元の景色は白い点となって消えていた。

 蜘蛛の糸すらない黒の中に、あるいは全貌すら見せてくれない巨大な化物の腹の中に、まるで呑まれるような感覚だけが纏わりついている。




 時間、距離、そして心、例外なくオレに備わっている全てが狂っていく。

 それが精神の死だと悟った時には、オレの身体は何か別の誰かに憑かれていた。


              ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「…抜かった」


 一人、その場に残された覆面男が大きく溜息をついた。

 賞品がなければこの遊戯ゲームに意味を持たせられない。最終的には排除するつもりだったが、この場で死なせるつもりは全くなかった。


 敗因は何だ、と思考する。気を配りきれていなかったか、それとも別の要因…例えば何者かに侵入を許す部屋の構造になっていたのか。あるいはその両方か。

 いずれにせよ、この世界はもうダメだ。今はまだ形が保てているが、崩壊も時間の問題だろう。


「まったく。客人の落とし穴(トラウマ)を隠す技量が、一枚上手だったという訳か」


 心のカタチ、修復痕は人それぞれ。欠陥工事である可能性も考慮しなければならないとは、審判の目はどこまで光らせれば良いのだろう。

 あぁ…つくづく、人間とは度し難い。覆面男は最後にそう呟いて、最早何の意味もなくした玉座に改めて座り直した。



(BAD END LOG06「誤審は黒く塗り潰される」)

●今回の選択ミス

ずばり、「部屋から出る時間を逃した」事です。

今回主人公君を襲った悲劇、これは回避不可能となります。その犯人は第4章24で影を仕込んでいたソレイユであり、影の大穴に落としたのはひとえに主人公君を救いたかったが為の善意。


しかし…今この主人公君がいる部屋の構造がよろしくありませんでした。

覆面男と一緒に鑑賞される的となっている作中の部屋、こちらは直前に通ってきた真っ黒な階段によって次元を切り離されてしまっています。

主人公君を階下に落とすこの影は、通常であれば誰かが真下に待機する用意周到な状態で使用するべきものです。よって、恐らくこの階下に誰か(・・)がいる事になります。

しかし今回は、異なる次元が通っている空間に影を繋げてしまったが為に起きた悲劇だった…という、初見殺しのトラップです。誰が初見で解るかこんなクソ選択肢!!


回避方法は、覆面男の口車に乗ってでも部屋の外に出る事。次元の異なる通路さえ抜けてしまえば、後は影が仕事をしてくれます。

…この異空間を作った人物は誰だ?それは正史の方で答え合わせをしていきます。

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