BAD END LOG01「救済の手」
こちらは第1章10-1「Choose One」のBルート(ifルート)になります。Bは何の略なのでしょうね?
少し遠めに立つ柱まで走り出した。いや、その場から逃げるように脚を動かした。何故その柱を目指したのか?当然、あの老司祭から距離を置く為だ。
「カケル様!?」
レイラさんも流石に面食らったようで、視線を老司祭から切ってしまう。勿論、レイラさんの守備範囲からも自ら逃れてしまう事になるのだが、いかに夢世界と言えども遠距離攻撃なんてある筈がーー。
(いやあったな、魔法のようなアレが)
先ほどの、レイラさんが殴っては蹴っての独壇場を築いていたならず者集団の墓場で、光の柱のようなものを出していた盗賊がいた気がする。
選択を誤ったか?いや、こちらに狙いを定める時間があるのなら、その隙を逃がさないレイラさんではないだろうと希望的観測をする。
「ほっほ、隙ありですぞ!『光の矢』!!」
だが、そこで誤算が生じた。レイラさんは、こちらを追いかけるように老司祭に背を向けてしまっていたのだ。何故こちらを追走してきたのかは分からない、だがそのレイラさんの行動は、確かに老司祭にとっては僥倖に違いなかった。
「あぁぁッ!!」
その矢が、レイラさんの背を貫いた。…いや、確かに老司祭が放った光の矢はレイラさんに当たったが、彼女の身体を焼いてはいなかった。
衝撃だけが彼女の背中を叩いたと言い換えた方が良いかもしれない。どうやら、彼女の「浄化」が咄嗟に光の熱だけを無くしたようだった。
「1度は耐えられても、同じ盾はいつまで保つものなのか。試させて頂きましょうか!」
立て続けに放たれていく魔法の嵐を前に、「くっ!」と踵を返して守りに専念せざるを得なくなったレイラさん。オレはその様を、柱の陰から見る事ができなかった。
(や、やめーー)
レイラさんの纏う浄化も万能ではないらしく、少しずつ矢の光を打ち消せずに残るものが出てきた。それが彼女の身体をじわりと焼いていき…傷つく彼女の姿をオレは、直視できなかった。
オレさえいなければ、レイラさんが傷つく事はなかった筈なのに。自分の選択を呪うように、オレは頭を柱に打ちつける。呼吸が乱れ、頭が割れそう痛い。そんなのは今はどうだっていい、願わくば、レイラさんを救う手を、誰でも良いから差し伸べてーー。
「こんなに離れていたらダメじゃない。アイツ、護る事なんて出来ない矛みたいな女なんだから」
そんな耳馴染みのない第三者の声に、オレはひどく心がざわついた。…確かに、オレは願った。救いの手をレイラさんに、「誰でも良いから」と。
「ロック」
その手は、オレの首を這わせ、二の腕まで絡ませると。容赦なく首を締め上げにかかった。その腕を外そうと必死にオレも藻掻くが、背中もしっかり固定されてしまっているのか、その女の細腕を振りほどく事すらできない。
「その外套、あの女のものでしょ?ならアンタも同罪、言い残す事があれば聞くけど?」
ふと、意識がふわりと浮く。全身の力が抜けていく。これが、意識が落ちる瞬間なのかと、悟った時には既にーー。
「…あぁ、もうあたしの言葉に耳を傾ける余裕なんてないか」
コキリ、という嫌な音がした。それが合図と言わんばかりに、女の腕から力が抜ける。倒れるオレの身体を受け止めるものは何もなく、ただ冷えていく自分自身を俯瞰する事しかできない。
ほぼ見えないオレの視界の中で、最期まで護ろうとしてくれたあの少女…名前をもう思い出せない彼女を想う。彼女は、オレという枷が無くなったら、逃げてくれるだろうか。それだけを心に残し、オレの意識は深く凍える底に辿り着いた。
(BAD END LOG01「救済の手」)
という事で、バッドなルートでした。離れすぎてはいけません、逃げ場はないのだから。
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●BAD END LOG
アドベンチャーゲームにおける、一つのエンディングーー主人公君が選択を間違えたルートになります。…え?そういう解説じゃない?
●今回の選択ミス
ヒロインちゃんの守備範囲外に自分から出てしまった事が一番の要因です。これによりファルス司祭に攻撃手を回してしまった事が、出待ち暗殺者に捕まるキッカケとなってしまった…というルートでした。
目に見える安全が全てにおいて優先される、とは限らない。これが、主人公君の心の瑕の一つになります。心の瑕の詳細は…未来で語られると良いなぁ…。




