第4章18-1「Choose One(Level 4)」
この夢世界に迷い込んでからというもの、命を狙われたのはこれで一体何度目だろうか。正直数えたくもないのだが、ざっと思いつくだけでも8回は同じ目に遭っている気がする。
常人ではまずお目にかかれない経験を、8回もだ。オレが求めた非日常とはいえ、頻度は考えてほしい。
これだけ酷い経験をしてきたのだから、そろそろ何かご褒美があっても良いと思うんだ。具体的に挙げるなら、何の妨害もなく飽きるまで寝させてほしい。
(…なんて言って、ハイハイと見逃してくれるとは思えないんだよな)
いくら現実から目を逸らしても、迫る女の歩く速度は変わらない。女の張り付けた笑顔の奥にある、冷たい殺意が翳る事はない。
このままオレが何もせず傍観していれば、間違いなくプリシラにトドメを刺すだろう。それは…それは、ダメだ。
(折角助けた命を、オレの目の前で消されるって言われたら…。黙って見ている、なんてバカな結論は出せねぇよなチクショウ!)
ところで天使という種族を一言で表わすなら、無垢の塊であるとオレは答えるだろう。
暴力という言葉から遠い、他人を疑う心など皆無。真っ白な心根を持った彼彼女…それがオレの中のイメージだ。
だがオレの目の前にいるあの天使からは、無垢というものを全く感じない。それどころか狂気すら覚える。
ジャラリと首から鎖の音を鳴らし、拳を打ち鳴らしながら向かってくる姿はおよそ天使とは呼べない。良い所、学校での居場所をついに見つけられず、アウトロー気分を醸し出したい高校生と言ったところか。
勿論そんな相手に考えなく従ってやる義理もないし、こちらから譲歩する気もない。可能ならば回り道をしてでも、そもそも関わりたくないとすら思う。
つまりオレが抱えている目下にして最大の問題は、天使をどうやって追い払うか。可能であれば一矢報いてやりたいが、贅沢は言うまい。
…オレの腕っ節が、この夢世界で通用するとは到底思えない。オレよりも戦闘玄人なプリシラが血反吐の中で倒れている以上、レイラさんやソレイユ以外の応援が来たところで同じ目に遭うのは容易に想像できる。
この戦闘に気付いていない筈がない黎明旅団が一向に姿を見せないのは、戦力差を理解しているからか。雑魚が一人向かっていった所で軽くあしらわれるのが関の山だ。
ならば、オレが取れる方法も自ずと見えてくるというもの。およそ30年、修羅場を潜り抜けてきた甲斐はあったというものだ。
「あらぁ?」
倒れたプリシラを庇うように、オレは前へ出る。ビクリと足元で腕が動いた気がするが、そちらに意識を向ける余裕はない。
アリ程度の小さな心臓しか持ち合わせがないのだ、今は休んでいてほしい。間違っても、また向かっていこうとするんじゃないぞ。
「どいてくださぁい。わたくし、後ろで倒れている子ともうちょっとお話したいのよねぇ」
「それは…聞けない相談だな」
要求に対して拒否の言葉を重ね、いよいよ天使の表情に温かさが無くなっていく。いよいよ思考の時間は終わり、あとはぶっつけ本番だ。
天使が決断を下すよりも先に、オレはーー。
Aルート・Bルートと分岐する為、今回は短めです。Aルート、Bルート共に後日の投稿となります。
●今回はどこがターニングポイントなの?4
主人公君の選択は「誰かに助けを求めてでも戦う」「ここは大人しく下るしかない」の2つとなります。
放っておけばプリシラが殺されてしまうので、主人公君がアクションを起こす必要がある場面。勿論、選択肢の中に「プリシラを見捨てる」はありません。
つまりこのシャルロットという強大な敵を前に敵意を示すか、服従するか…ですね。二者択一、さて主人公君の運命や如何に…。




