断片10「Trial No.4:鬼の楽園」
子供は発明の天才だ、そう思った事がある。限られた敷地内で天真爛漫に遊ぶ彼らを、詰襟がヨレた黒い上下の服を着て帰路につくオレは心底羨んだ。
「これはダメだ」「やってはいけない」と大人が敷いた規制線の隙をあざとく見つけ、それすらも遊びの範疇にしてしまう。
彼らのその逞しさは賢しくもあり、愚かしくもある。その良い例が、鬼ごっこだ。
一人の鬼が逃げ回る他の子を追いかけ、鬼が誰かに触れれば立場が入れ替わる。
これ自体はごく単純なゲームだ、およそ誰もが理解できる規則だろう。
だが単純であるが故に、子供は飽きやすい。
複雑だから、ではない。単純だからこそ…自分が敗ける規則があるからこそ飽きてしまう。
しかし飽きた遊びに二度と手を付けないかと聞かれれば、それは違う。最初に持つ興味こそ多少削がれるが、完全に断たれる事はほぼ無いだろう。
では一体、彼らは何をするか。「つまらない」と言い出し、規則を勝手に増やしていくのだ。
触れられたら鬼が増えていく、触れられた新しい鬼は数秒動けない、エトセトラ…。
自分に有利な新しい規則を付け加えていき、それでも飽きてしまうと更に新しく制限を作ってしまう。
世に言う「縛り」プレイという奴だ。縛りに縛って、興味が尽きた子供からその場から抜けていく。
結局残った子供も、理由をつけては同じ事を繰り返す。何度も何度も繰り返し、そして誰もいなくなるのだ。
…ところで。この時増え続けた鬼は、果たしていつ元の人間に戻れたと錯覚するのだろう。皆を鬼から元に戻す手段は、誰も作ってもいないというのに。
●今回の設問
一度増えた設定は、容易に変更できない。レッテルを貼られたが最後、評価はどこでも誰でもソレに左右されてしまう。そんな主人公君の嘆きですね。
厄介な事に、人間とは自分の幸福が大好きな生物。その為なら、他人の不幸すら蜜の味に変えてしまいます。
そんな蜜を皆に塗られた人間を綺麗にする人間は…果たしているのでしょうか?




