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夢渡の女帝  作者: monoll
第1章 日常が塗り替わる日
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第1章07「フローア村の決闘1」

 どうやらこの夢世界には、レイラさんが話題に出した月の国と、太陽の国と呼ばれる2つの“国”があるらしい。逆に、この2国以外には国が存在しないのだそうだ。「ニホ…ン?申し訳ありません、存じ上げないですね」とはレイラさんの言葉。うむ、使い倒されているであろうテンプレ台詞をありがとう。もう少し頑張って設定考えやがれオレ。

 ただ、この2国は現在仲が大変悪いらしく、何か理由をつけては衝突する事が多いそうだ。…レイラさんに掛けられた冤罪と関係がありそうな、嫌な予感しかしない筋書きに今から頭がクラクラする。

 そして。レイラさんはその月の国の最高権威の一人なのだと言う。ただし正確には4人いる中で序列は最下位、かつ王位継承権を持てない外様役職なのだそうで、「肩書きが大層なだけの女です」と本人は自嘲していた。


「レイラさんが、偉い人…」

「もうっ、私はそんな畏まられるような人間ではありませんと言っているではありませんか!」


 放心するオレを、レイラさんはぷくーっと頬を膨らませながら睨んでくる。「スミマセン…」と平謝りしながらこうして眺める分には、歳相応の容姿端麗な美少女。主張の慎ましやかな胸部も、個人的嗜好に合致している。…この夢世界の中では属性盛りが横行しているのだろうか。天は二物を与えず、とは嘘つきの言葉だったらしい。

 さて、レイラさんのような年端も行かない少女をトップに据えるという、トンデモ設定を考えたオレにも驚く所なのだが、今はそれを置いておいて。偉い人を国から追い出す…なんて一大事で得をする人物なんておよそ限られてくるだろう。その黒幕が、是が非でもレイラさんを亡き者にしたいと願うのなら、周囲に人気のない今の状況こそ格好の舞台が整っていると言える。…あれ、もしかしてついさっき食事するのに火を使ったのってまずくなかったか?


『まぁ、相手にキミたちの位置を報せたくらいの切迫さはあるかもしれないねぇ。そして、キミたちの行く先も』


 ついさっき火を使えとそそのかしてくれた駄女神(元凶)が呑気に何か言ってるが全力で無視。それに、起こしてしまったアクションには「待った」はもうかけられない。今は差し向けられているであろう刺客たちの出方を窺いながら、刺客たちの対応策を考えるしかない。


「…こほん。ともかく、これでようやく着きました。ここが私が身を寄せている集落、フローア村です」


 レイラさんのその言葉とほぼ同時、視界の開けた先に見えてきた光景に、思わず目を見開く。酪農が盛んなのか、動物らしきモノたちが木の柵の中で自由に動き回っている姿があちこちに見えた。牛に似た動物たちは草を食み、羊のような動物たちは牧歌的な雰囲気を醸し出している。

 その平和そのものの風景に目を細めていたオレだったが、ふとある事に気付く。活気が、ないのだ。恐らく門扉のつもりで作られたのであろう木の門や、木で作られた住宅らしきもの。そこに居るであろう人間が、全くいなかったのだ。


「あれ、おかしいですね。普段ならここに門番さんがいらっしゃるのですが…」


 レイラさんが不思議そうに首を傾げていたが、その言葉でオレの中の嫌な予感が確信に変わりつつあった。村の守りの要であるはずの人物が、突然居なくなるなど考えられない事だ。幸い、血痕らしきものはどこにも見当たらないので事件性がないと信じたい。そう、偶然離席しているだけだと思いたいが…。


「ところでレイラさん、この村って普段ならどんな所なんですか?」

「それはもう、皆さまとても優しくて良い方ばかりです!お食事をいただけたり、寝る場所を貸していただけたり…。悪戯が多いのが難点ですが、それに目を瞑っても良い所です」


 悪戯が多い?と首を傾げる所はあるが、こんな牧歌的な集落なら子供が全くいない訳でもあるまいと思い直す。およそレイラさんに協力的な村であるようで助かった。

 だからこそ、今の異常事態が際立っていると言えよう。そんな子供の外遊びすらない矛盾した光景が、オレの中で警告音を鳴らし続けていた。


「それでは、私が身を寄せている教会へご案内しますね」


 門を抜け、こちらへと手を招くレイラさん。…オレよりレイラさんの方が強いのは確かで、そのレイラさんが何事もなく村に入ったのだ。気のせいなのだろうかと思い直しながら、オレは誘われるがままにその門扉を潜り抜けた。

 瞬間、風邪でも引いたのではないかと錯覚する、ぞわりとした悪寒が背筋を走った。反射的に背後を振り返りながら、必死に視線を左右に走らせる。


「カケル様?」


 オレの挙動不審な様子に気付いたレイラさんが声をかけてくるが、そちらに意識を向ける余裕がない。何故ならば、その直後オレたちのいるこの場所から少し離れた所に建っていた一軒の家が崩れ落ちたからだ。ただ崩れ落ちただけならまだ良かっただろう。その崩れた後に現れた人影が、砂煙の中でゆらりと現れた事が問題なのである。


『早速お出ましのようだ。キミ、彼女に拳を構えるよう伝えるといい』


 あの女神様の声が、頭の中でキンと響く。…正直、家を軽々と壊してみせる刺客が、あの中にいると思うと心がすくむ。けれど、あんな破壊活動を許して良い筈がない。何よりここは、オレの夢の中なんだ。他人様に壊されて良いものは一つもない。

 砂煙が晴れ、人影が鮮明に色付いていく。一体、どんな刺客が向けられたと言うのかーー!


「…いたぞ!ダースの兄貴たちを伸した奴らだ!!」


 あ!野生のならず者が現れた!…ここに来て天丼かよチクショウ。

●レイラの月の国における序列

4人の賢者の中で、最下位。ただしこの序列自体は、ほぼ意味を為さない。

というのも、元来は世襲制によって上位の賢者は占められる。…が、その上位の賢者たちに足りないものを埋め合わせる為の序列、それが現在レイラが就いている(た)賢者の位である。

つまり、現在月の国に足りないものはーー。


●フローア村について

月の国と太陽の国の境にある「眠りの森」、かつてここで停戦協定が結ばれようとしていた。つまり、ここが『王族謀殺』事件の場。

小さな村だが、かつては酪農が盛んで、事件前は両国に様々な商品を卸していた。今ではすっかり廃れてしまい、ならず者たちがその日を生き延びる為の拠点としている。

ーー当然、その事を知らないレイラではない。


●自分たちの住処を壊ながら登場とか、パンクじゃねぇか…。

元々が少し衝撃を与えただけで壁そのものが崩れるという、粗末なあばら家の為に起こったアンラッキーイベント。襲われた仲間にどうやって仇討ちしてやろうかと会議をしており、ちょっとした意見のすれ違いで取っ組み合いが起こっただけである。

因みに、最初に主人公を襲った盗賊チンピラたちは、リーダーが「ダース」、取り巻きが「デカ」「グロス」という名前らしい。

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