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同棲の理由

智希に誘われた雪那は買い物へ付き合うことになった。

 智希:「今度の日曜日、姉貴の誕生日なんだ。プレゼント一緒に探してくれない?」

突然智希が言う。

姉貴と聞いて、雪那は通学班を思い出していた。



雪那:「私が一年生だった時、六年生だった人?」




智希:「ああそれそれ!」

智希は合いの手を入れた。



雪那:「懐かしいなー。ところでお姉さん何処にいるの?」

雪那は素直に聞いた。



智希:「アパートで一緒に暮らしてる」


(えっ!?)

雪那は一瞬声を失った。



(同棲じゃなかった!)

雪那の頬に涙が流れた。



雪那:「もしかして、組み立て班のリーダー?」

言ってしまってからヤバいと思った。

ストーカーした事が、バレバレだった。

でも智希は気付いていない様子で、雪那の質問に大きく頷いた。



雪那:「でも二人名前が」

そう同じ名前なら雪那はこんなに悩まなかったろう。



智希:「知らなかった? 三年位い前かな。雪那の家の近くで事故があったろう?」



雪那:「ああ男性がひき逃げされたヤツ?」

智希の問い掛けに即答した雪那。

事故と聞けば直ぐ思い出す、それ程惨い現場だった。



智希:「あの時の犠牲者が姉貴の旦那だったんだ」

雪那はドキンとした。

遺体に取りすがって泣く女性の近くに、確かに智希がいたのを目撃していた。



智希:「犯人は直ぐ捕まった。此処の従業員で同僚だった。姉貴は結婚して妊娠中だった。だから心配で一緒に暮らすようになったんだ」

それが同棲の真相だった。組み立て班の先輩は雪那をからかったのだ。それを雪那はまともに受けて胸を傷めていたのだ。





 智希:「義兄は姉貴の同級生で派遣社員だったんだ。派遣て言うのは、何名かのグループで、仕事をするんだって。義兄は其処のリーダーだった」



雪那:「リーダーの旦那さんもリーダーだったのね」



智希:「うん。ある日突然居酒屋から呼び出しの電話が来て、義兄は駆けつけたそうだよ」



雪那:「居酒屋? 何で?」



智希:「其処で飲んでいた全員がお金を持っていなかったんだって、だから支払はせるために呼びだされた」



雪那:「えっー!?」

雪那は耳を疑った。





 智希:「不思議だろ。本当に全員が無一文に近い状態だったそうだよ」



雪那:「でも旦那さんも大変なんじゃ?」



智希:「貴は妊娠中だしね。だから注意したんだって。勿論支払い後に」



雪那:「そりゃ言いたくなりますね。第一、お金も無くて良く飲めますね?」



智希:「自分から誘っておいてタカるんだって。奢って貰って当たり前。そんな連中が偶々集まっていたんだ。でもそれにしてもヒドかった。その中の一人に恨まれて、ひき殺された」



雪那:「えっ!?」

雪那は言葉を見失った。



智希:「俺も聞いた話だから、詳しい事は知らない。それでも姉貴は頑張っている。俺は姉のために何かをしたいと思っていたんだ」





 知らなかった。

リーダーにそんな辛い過去があったなんて。

いつも明るくて、自分達にも気を使ってくれる。

本当に優しい人だった。



智希:「あの、俺と付き合ってくれない?」

智希が言う。



雪那:「分かった。いいわよ、次の日曜日ね」

雪那は軽く答えた。





 でもリーダーの好みが分かるわけではなく、結局智希が選ぶ事になった。



雪那:「役に立てなくてごめんなさい」

カフェでコーヒーを飲みながら雪那が言った。



智希:「いや、いいんだよ。今日誘ったのは、それだけが目的じゃないから」

智希は、雪那の手に自分の手を重ねた。



智希:「俺があの時、『太った?』何て言ったからダイエットしたのか?」

智希は自分の発言を気にしていたようだった。

雪那は素直に頷いた。



智希:「姉貴に怒られたよ。雪那はあのままの方が可愛かったって」



雪那:「リーダーがそんな事」

雪那はダイエットしてた日の事を思い出していた。

確かに自分は、一週間で無理して痩せた。

それもみんな智希を振り向かせる為だった。



智希:「なあ、俺と付き合ってくれないか?」

智希が言う。



雪那:「だから今付き合っているでしょう」

雪那が答える。



智希:「違うよ! 交際してくれってことだ!」

突然、大声を張り上げた智希。

雪那は驚き、持っていたカップを落とした。

無言のまま涙ぐむ雪那。

言葉はいらなかった。

智希は重ねていた手を強く握り締めた。



智希:「何かズレてるな。もしかしたら勉強会の時も心コレにあらずだった?」

智希が皮肉を込めて言う。

雪那は智希に手を握り締められたまま、幸せに浸っていた。



智希:「例のイケメン女子が言ってたよ。時々自分を見てる女の子がいて、気になったから見てたら、お菓子の袋を開け、あっという間に全部食べちゃったって。雪那はそんな所も注目されていたんだな」



(えっ!?)

雪那は驚いて智希の手を外した。



雪那:「やだ!」

雪那は真っ赤になった。



智希:「雪那はありのまま、そのままがいい」

智希は雪那の手を再び握り締めた。






 先輩:「からかってごめんね」

先輩が声を掛けてきた。



先輩:「だってさ。あんたリーダーの弟が好きだって、顔に書いてダイエットしていたからね」



(そ、そんな!?)

雪那は手玉に取られていただけだった。



智希:「でもちょっと気になる事があるんだけど。あのう、あんた又太ってない?」

先輩の一言に雪那は愕然とした。





 イケメン女子は爽やかな笑顔を振りまいて、研修を終えて帰って行った。

何故彼女が工場へ来たのか?

雪那の発言に興味を抱いた上司が、勉強して来いと送り出したためだった。



イケメン女子:「色々勉強させて頂きましたわ」

流暢な日本語の彼女。



先輩:「どんなとこを?」

突っ込みを入れた先輩。



イケメン女子:「恋とダイエット。お菓子一袋開けながら」

そう雪那に耳打ちして職場を離れた彼女。

雪那は思わず赤面した。

そのままずっと俯いている雪那。



先輩:「怪しい? 今何て言われたの?」

先輩が雪那をおちょくる。

雪那は顔を上げた。



雪那:「二人だけのヒ・ミ・ツ」

今度は雪那が先輩をおちょくった。




リーダーと智希は姉と弟だったのだ。

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