57色 鏡の外はわたしの世界
「…ん…んん?」
意識が朦朧とする中、わたしは目が覚める。
…ここは?
身に覚えのある天井、身に覚えのある景色。わたしの意識が少しずつ覚醒しようとした瞬間。
「シーニ!!!」
「ぐえぇ!?」
突然、誰かに抱き着かれてわたしは変な声をだしてしまう。
「よかった!よかったよー!!」
「ア、アカリ!?」
わたしに抱き着いてきたのはアカリだった。アカリはなぜか顔をぐちゃぐちゃにして泣いている。
「ど、どうしたの!?アカリ!?もしかして、マコトになにか嫌なことでもいわれた!?」
わたしは動揺して変なことをいってしまう。
「目覚めて早々のセリフがそれか」
恐らく、アカリを泣かしてはいないマコトが壁にもたれ掛かりながら呆れたようにいう。
「じゃあ、だれがアカリを泣かせたのさ」
「お前だよ」
「へ?」
マコトの返しにわたしは目が点になってしまう。
「まあ、まだお互いに混乱しておるんじゃ仕方ないじゃろう」
互いに困惑しあうわたしたちにピンコが場を収めてくれる。
「シーニさんも困惑しておるかもしれんが、わたしゃ達もかなり困惑しておる。なにせ『行方不明』になったお主が突然『鏡から倒れて出てきた』もんでのう」
「『鏡』!?」
わたしはその言葉に反応して周りを見回す。
「探しても無駄じゃぞ」
「え?」
「その鏡はお主が出てきた瞬間、すぐに『跡形もなく消えた』からのう」
「!?」
驚愕するわたしをよそにピンコは言葉を続ける。
「とにかくじゃ、なにがどうなっておるのか聞きたいとこじゃが、落ち着いてからにするのじゃ」
ピンコは起きたばかりのわたしを労わってくれる。
「…あっちゃん、大丈夫?」
わたしを呼んだ人の方をみると、はーちゃんがとても心配そうにわたしをみていた。その隣でミズキと『クウタくん』も…
「………」
わたしは泣きそうになるのを抑えながらみんなに向けていう。
「『ただいま』」
それから数日後、わたしはピンコから大体の事情を聞いた。こっちの世界ではわたしが『行方不明』になって大騒ぎだったとのことだ。はじめにミズキがわたしがいないことに気が付き、魔導具を取りに来たマコトに伝えたところ、彼は大慌てでわたしの捜索をしてくれたらしい。その後、アカリたちにも事情が伝わりみんなで大捜索とのことだった。だけど、さすがに世間に公表とまではいかなかったそうだ。まあ、そこまでのことじゃないけどね。なんて、わたしが笑いながらいうと、ピンコは訝しげにいう。
「…お主、本当にわかってないのかのう?」
「え?」
「天才発明家シーニが行方不明となったら世間が注目するに決まっておろう」
「でも、公表されてないんでしょう?」
「それは、『止めた』からのう」
「止めた?」
わたしは首を傾げる。
「マコトさんがマスコミを抑えたんじゃよ」
「え!?マコトが!?」
ピンコの言葉にわたしは驚く。
「もちろん、マコトさんだけのチカラではないがのう、できるだけ公にしないようにしたんじゃ、それに、マコトさんが一番心配しておったからのう」
「え?あのマコトが?」
今度はわたしが訝しげにいう。
「だって、マコトならわたしが少しいなくなろうが、絶対すぐに戻ってくるって、なんも心配しなさそうじゃないか」
「まあ、一目でなにかおかしいことに気づいたんじゃろうな」
「おかしい?」
笑いながらいうわたしにピンコは冷静に返す。
「お主の魔力が『めっきり途絶えておったから』のう」
「?」
「わかりやすくいえば『気配』じゃのう、あるじゃろう?例えば、確認してないけど、家族が家にいる気配みたいなもんじゃ」
「………」
「わたしゃもマコトさんに呼ばれてきてみたが、確かにあの時感じたのじゃ、『この世界に存在しない感覚』がのう」
「!?」
ピンコの言葉にわたしはことの重大さに気づく。
「ごめん」
わたしは申し訳なくなり謝るとピンコはクスリと笑いいう。
「お主も大変じゃったのう」
「…うん」
わたしは静かにそう一言だけ返す。
ピンコにはわたしが一体どうしていたのか、『鏡の世界』のことは話した。そこで、わたしが体験したことも…
「『鏡の世界』…正しくは『平行世界』のう…人生、生きていればいろんなことがあるのう」
そう一言いうと、ピンコは紅茶を一口飲む。
「…ただいま」
「おじゃましまーす」
すると、元気な声が聞こえてきて振り返ると、ミズキがアカリ、クウタくん、はーちゃんを連れて帰ってきた。
「あ、おかえり、もうそんな時間なんだね」
わたしが驚いて時計を確認すると、もう夕方の時刻を指していた。
「あっちゃん、体調大丈夫?」
「もう仕事しても大丈夫なの?」
「むりしちゃだめですよ」
三人ともわたしを心配して聞いてくる。
「心配してくれてありがとう、おかげさまで元気だよ」
わたしが笑顔で返すと三人は安心した顔をしてくれる。
「じゃあ、わたしたちあそんでくるね」
アカリは元気にそういうとミズキのところに走っていく。
「あかりん、まってよ」
はーちゃんもそれに続き、その後ろをクウタくんがついていく。
「………」
その後ろ姿をみてわたしはふと思い出した。鏡の世界のクウタくんが歌っていた歌を…
なんて、歌だったっけ?
わたしは思い出しながら無意識に口ずさんでいた。
「ほ~こりま~んも♪ご~ろごろ~♪」
「!?」
それを聞いたクウタくんは立ち止まり、振り返ると驚いた顔をしていた。
「?どうしたの?」
「あおいさん…なんでその歌しってるんですか?」
「え?」
あの歌をくちずさんでいたわたしにクウタくんは驚きの表情をして聞いてくる。
「その歌をしってるのぼくとオニー『だけ』のはずですけど?」
「え?クウタくんとタスクくん『だけ』?」
わたしが首を傾げながら聞き返すとクウタくんは「はい」と頷き「だって」と言葉を続ける。
「かーさんがむかし歌ってくれた『かーさんオリジナルの子守唄』だからです」
「!?」
「え?えーっと、鏡の向こうのキミが歌ってて」
それを聞いたクウタくんは笑顔になりいう。
「へぇー、そっちのぼくも『歌ってもらってた』んだね、いつかぼくも会ってみたいな」
「…そうだね」
クウタくんの純粋な笑顔をみながらわたしは優しい笑顔になるとそう一言だけ返す。
カラーメモリー ~シーニと鏡の世界編~ おしまい