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カラーメモリー 【改稿前】  作者: たぬきち
シーニと鏡の世界編
55/59

55色 鏡の中ではだれひとり

「あそこだよ」


 ミズキは案内した場所を指さす。そこは町はずれの空き地のようなところだった。


「本当にいくのか?」


 ミズキは心配そうにわたしに聞いてくる。


「なにかあったら俺がなんとかする」

「お、かっこいいことをいってくれるじゃないかそのかっこいい顔にキスをしてやろうか?」

「いらんわ」

「我は朋友を守りし守護精霊」


 三人もわたしを心配して一緒にきてくれた。


「ありがたいけどわざわざついてこなくてもキミたちはゆっくりしててもよかったよ?」

「バカいうなわたしが歩き周ってなにかやらかしたらわたしの信頼に関わるからな、見張りをかねて付いてきて当然だろう」

 

 ジーニは別に心配してついてきた訳ではなさそうだ。


「ジーニそれはお前の云えることではないぞ?まあ、俺としてはジーニもきてくれた方が安心してシーニの護衛ができるがな」


 マコトは本気で心配してついてきてくれたみたいだ。


「なんだ?そんなにわたしと離れたくなかったか?」

「お前は監視対象だからだ」

「空を切り裂く牙、荒れ地に住し野獣」


 三人の会話を後ろで聞きながらわたしは空き地の入り口に近づき中を覗く。すると、中には小さな小屋の様な建物が立っており。近くに二段に重なった土管があった。そして、その上にひとりの少年が座っていた。


 その少年クウタくんは服がボロボロで顔とカラダもボロボロだった。クウタくんは空を見上げていたけど、目には一切光がなくてどこを見ているのか本当に空を見ているのかわからなかった。


「………」


 わたしは改めてその姿を確認すると言葉を失ってしまう。


 わたしの知っているクウタくんは誰よりも純粋で優しくていつも笑っていたからだ。しかし、わたしの眼に映る彼は笑顔ひとつなかった。まるで、世界に『絶望』しているようだった。


「シーニねえ、やっぱりやめとこうよ」


 ミズキはクウタくんをみるだけで動かないわたしにいってくる。


「おい、なんのようだ?」

「!?」


 突然、声を向けられわたしたちは身構える。しかし、クウタくんは空を見つめたままだった。


「気づいてたんだね…」


 わたしは空き地の入り口から彼の前に姿をみせてそれに続きみんなも姿をみせる。


「…あんたはあん時の…」


 クウタくんはわたしの姿を確認すると隣にいるジーニを目でみる。


「やっぱり『別人』だったか」

「え?」


 クウタくんの言葉にわたしは驚く。


「どうゆう理屈かしらんがあん時あったあんたはおれのしってるミズキの姉貴じゃないと思った」

「ほう、なかなか鋭いじゃないか、シーニいわく会ったのはほんの一瞬だといっていたが?それに久しいな、数年ぶりか?クウタ、いや今は『クウガ』って呼ばれているんだったか?」

「あんたもそれで呼ぶのか、まあいい、おれのしってるあんたはムカつくぐらい自信家でいちいち鼻に触る喋り方をしてなにかと勘に触ったからな」


 一瞬クウタくんは哀しそうな顔をした気がしたけど、すぐに無表情に戻りいう。


「いってくれるじゃないか、わたしの知っているキサマは泣き虫でいつも母親にくっついてるマンモーニだったはずだが?」

「!?」


 その言葉を聞いた瞬間、無表情のままだけどクウタくんの眼の奥がさらに深く暗くなるのを感じた。


「…おまえらはなにしにきたんだ?おれをバカにしにきたのか?それともおれの…『死んだかーさん』をバカにしにきたのか?」


 周りの空気がドッと重くなりクウタくんは静かな怒りをとても重くてドス黒い魔力を放出する。


 その魔力を感じたわたしたちはカラダが震えて寒気がし顔から血の気が引くのを感じた。

 

 ジーニも自分が失言したことに気が付き冷や汗を流しながら苦笑いしていた。


「魔導警察を連れてきたってことはそういうことだよな?」

「ち、ちが…!?」


 わたしが弁解しようとするけどもう遅かった。

 クウタくんはわたしたちに向けて凄まじい風をぶつけてきた。


「…くぅっ!?」


 わたしはカラダが浮いてしまい背後に飛ばされる。それをマコトが受け止めてくれるけど後ろに飛ばされて地面に転がる。


念動力空間転移サイコキネシステレポーテーション!!」


 ピンコの呪文の詠唱が聞こえると同時にわたしの視界が別の場所へと切り替わった。最後にみえた彼の哀しい眼を瞳に焼き付けながら…



 視界が切り替わりわたしたちは地面の上に転がる。テレポートで移動した先は離れた森林の中だった。


「すまない、桃山助かった」


 マコトはカラダや頭についた葉を払いながらいう。


「詫びいる、空を切り裂く牙、凄まじい魔力故に魔導のコントロール乱れし我」


 ピンコはゆっくりと立ち上がりながらいう。


「大丈夫かシーニ?」


 マコトはわたしについた木の葉を払いながら手を取って起こしてくれる。


「あ、ありがとう」

「おいおい、わたしの手は取ってくれないのか?」


 マコトの手を取ったわたしにジーニは飄々はという。それをみたわたしは反射的にジーニの襟を掴み睨みつける。


「なんだよ?放せよ」


 わたしに襟を掴まれながらもジーニは冷静にいう。


「なんてことをしてくれたんだよ」


 わたしも冷静に言葉を放つけど、静かに怒りをぶつける。


「わたしがなにかしたのか?」

「とぼけるなよ、なんで『あんなこと』いったんだよ」

「そうだな、『口が滑った』とでもいっておこうかな」

「!?ふざけるなよ!いっていいことと悪いことがあるだろ!!」


 なんも悪びれずにいうジーニにわたしは我慢ができなくなり怒鳴りつける。


「そうカッカするな天才にだって失言はある」

「なにが天才だ!キミはバカだよ!」

「なんだと?」


 わたしの言葉にジーニは判りやすく反応をすると眉間に青筋を立てる。


「天才のわたしにバカと言い放つとはいい度胸だな」


 ジーニもわたしの襟を掴み返してくる。


「へえーこの程度の煽りに乗ってくるんだね?やっぱりバカと天才は紙一重ってやつかな?」

「いってくれるじゃないか、たかが失言のひとつでごちゃごちゃヒステリックを起こすとはな。とんだじゃじゃ馬ちゃんだ」

「キミ性格悪いね」

「それはもしかしてわたしにいっているのか?それとも自分自身にいっているのか?」

「わたしは真剣に聞いてるんだ、謝る気はない?」

「なぜわたしが謝る?わたしが謝らなければどうする気だ?殴るのか?やってみろよ」

「………口は災いの元とはよくいったものだよ」


 わたしは握り拳をつくるけど手を下ろしジーニの襟を放す。


「解ってるじゃないか、天才美少女の顔に傷ができたら大変だもんな。そりゃそうだできるわけないよな自分の顔なんだからな」


 ジーニもわたしの襟を放して自分の乱れた襟元を直しながらもわたしを軽く挑発してくるけど、安っぽい挑発に乗る必要はないとわたしは無視する。


「しかし、他人の為に怒りをあらわにするとは理解できんな、たかが『過去の人間』のことをいっただけなのにな」

「!?」


 ジーニの発言にわたしの感情が完璧に切れるのがわかった。考えるよりも先にわたしはジーニに向けて拳を降り上げた。


 バチッーン!!


 周囲にとても鈍い音が響き渡った、しかし、それは、わたしの拳からでたものではなかった。


「!?」


 わたしを含めミズキ、あのピンコですら驚きの表情を浮かべる。


「………おい、なんのつもりだ?痛いぞ」


 ジーニも自分を殴った正しくは『ビンタ』した相手をみる。そう、ジーニの顔を叩いたのはマコトだったのだ。 


「お前、いい加減にしろよ」


 マコトはいつになく真剣な顔でジーニにいう。その顔はわたしのよく知る『鏡の向こうの世界』つまり、わたしの世界のマコトの表情にそっくりだった。


「女性に手を上げておいてただで済むと思ってるのか?」

「構わん、どうなってもいいと思ったからお前を殴った」


 ジーニの煽りにマコトは冷静に切り返す。


「ジーニいい加減にしろ、さすがに言い過ぎだ。今回は百パーセントお前が悪い」

「このわたしが悪いだと?一体なにをいっているのかさっぱりわからないな」

「いつまでそんなガキみたいなことをいっている」

「なっ!?このわたしがガキだと!?」


 マコトの言葉にジーニははじめてたじろぐ。


「ああ、聞こえないなら何度でもいってやるぞ?」

「こ、このわたしが…」

「ねえ…今のねえはすごい子供っぽくてかっこわるいよ」

目下(もつか)に移る貴殿はまるで餓鬼大将」

「くっ…!!」


 二人にもいわれてしまいジーニはカラダを震わせる。すると、


「うえぇぇぇぇぇぇん!!わたしをバカにするなぁぁぁ!!!」

「へぇ?」


 突然泣き出したジーニにわたしはポカンと目が点になってマヌケな声をだしてしまう。


「わたしはぁわるくないもん!!口を滑らせちゃっただけだもぉん!!!それにいたかったぁぁぁぁぁ!!うえぇぇぇぇぇぇん!!!」


 わたしは唖然としていた。さっきまでのあの自信家なジーニはどこにいったのか?わたしの今目の前にいる彼女はまるで駄々をこねる子供だ。


「口を滑らせた自覚があるなら謝れ」


 泣き喚くジーニにマコトは冷静にいう。


「ヴェェェェェ!!!」


 泣きながら叫んでいるジーニを横目にわたしはミズキに顔を向ける。


「え?え?なにこれ?」


 わたしは頭の処理が追いつかなくてシンプルな質問しかでなかった。


「えーっと…ジーニねえはたまに…自分のプライドを傷つけられると…その…こうなるんだ…」

「え!?それだけ!?コドモじゃん!?」


 わたしは反射的に突っ込んでしまう。


「天性の頭脳故に計算外の理対処不能」


 顔をぐちゃぐちゃにしながら泣き喚くわたし自身をみてわたしはかなり顔が引きつる。


「まあ、そういうことだ、俺からで悪いが謝罪をさせてくれ」


 隣で嗚咽を吐いているジーニの代わりにマコトが頭を下げて謝ってくる。


「こいつは俺らでなんとかする。だから、シーニ、お前はあいつのところにいってやってくれ」

「え?」

「少年の瞳に映るは深き闇、我らは及び難くても異世界の訪問者なら成せるかもしれぬ」

「シーニねえ、おねがい!昔のクウタはもっと笑ってた!あいつともう一度話がしたい…」


 みんなクウタくんの哀しい眼に気づいていたのだ。だけど、どうすれば彼が救えるのかわからなかったんだ。だから、もう一人の『わたしの世界のクウタくん』を知っているわたしならもしかしたら、彼と話ができるかもしれない。


「うん、わかった…わたしもう一度クウタくんのところに行ってくる」


 わたしはその場を後にしてクウタくんの元へ走った。




 先程の空き地の入り口に戻ってきたわたしはもう一度中を覗こうとした。すると、中から何かが聞こえてきて歩みを止める。


「~~~~~♪」 


 これって歌?


 わたしは目を閉じ耳に手を当ててもう一度じっくりと聞く。


「~~~~~ご~ろごろ♪」


 なんの歌だろう?聞いたことのない歌だ。だけど、なんだか少し心が安らぐ感覚がした。しかし、歌声は途中で途切れてしまった。


「また、きたのか」

「!?」


 中から声をかけられ、わたしは空き地の入り口からもう一度彼の姿を確認する。 


 クウタくんはさっきわたしがきた時と同じように空をみつめていた。まるで『なにかを待っている』かのように。


「えっと、クウタくん、さっきはごめん!わたしはキミと話をしたいだけで決してキミのお母さんをバカにしにきたんじゃないよ!」


 わたしの口からでたのは謝罪の言葉と言い訳だった…。その言葉を口走った瞬間やってしまったと思った。こんな言い訳を並べても事態を悪化させるだけだって。しかし、彼の口から放たれた言葉は意外なものだった。


「しっている」


「え?」


 意外な返しにわたしは聞き返してしまう。


「しってるってどういうこと?」

「わざわざこんなところにくるなんておれにケンカを売りにきたか、物好きなやつだけだ。あんたはその物好きだろ?」


 クウタくんは空をみつめたままいう。


「物好きかはわからないけど、うん、わたしはキミと話がしたくてここにきたんだ」

「そうか、なら都合がいい」

「え?」


 空から目を放しこちらに目線をむける。


「おれもあんたと話たい」

「!?」


 思いもよらない一言をいわれわたしは驚く。それを知ってかしらずかクウタくんは言葉を続ける。


「あんたはだれだ?」


 クウタくんは深く暗いけど純粋な瞳をわたしにむけてくる。

 わたしは一呼吸して息を整えると彼にむけて自己紹介をする。


「わたしの名前は『天海葵あまみあおい』、みんなからは『シーニ』って呼ばれてるよ。そして、キミからみたら『鏡の世界の人間』だよ」


 わたしはなぜ今この世界にいるのか、わたしからみたらなにもかも『逆』なこと、そして、二つの世界で明らかに違うことを話す。


「………」


 一通り話終えるとクウタくんはもう一度空をみつめる一体彼はなにを考えているのか、なにをみつめているのかははっきりとはわからなかったけど、先程までとは少し違う感じがした。


「なあ、そっちのおれはどう思って生きているんだろうな」


 彼の質問の意図はわからなかったけど、ここでウソはいってはいけないと感じた。だから、わたしは『真実』を話す。


「こっちのクウタくんも決して幸せではなかったかもしれない、今も心のキズは癒えてないかもしれない、だけど、今は信じられるトモダチもできて前よりも笑うようになったよ。わたしはそれがうれしかったかな」

 

 わたしの言葉にクウタくんはしばらくなにもいわなかった。


「そっちのおれは『強い』な」

「!?」


 クウタくんのむけた顔にわたしは驚く。クウタくんは笑っていたけど、とても哀しい眼をしていた。わたしはその顔に見覚えがあったからだ。それは、数年前みせた笑顔…無理に笑っている笑顔だったからだ。


「いろのあかりだっけ?おれも…出会いたかったな…」


 彼の心の底からの言葉はとても重かった。なんで、こんな哀しそうな顔をするのか目の奥から感じる深い深い哀しみがわたしの胸を針のように突き刺す。


「シーニさん」

「?」


 どこをみつめているのかわからなかったけど、今はしっかりとこちらをみつめていた。


「なにかな?」


 わたしは笑顔をむけて聞き返す。


「ありがとう」

「え?」


 突然向けられた感謝の言葉、そして、『笑顔』。それは、心からの感謝が込められていた。


「『最後』にそれが聞けてよかったよ」

「『最後』?」


 わたしが疑問に思い聞き返した瞬間、『クウタくんは倒れた』。


「え?」


 わたしは一瞬なにが起こったのかわからなかった。だけど、次の瞬間、頭で理解するよりも先にカラダがゾッとしてわたしは反射的に叫んでいた。


「クウタくん!!!」



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