48色 守目葉月は守りたい
わたしの名前は守目葉月最近この学園に転校してきた自分でいうのもなんだけどそこそこかわいい女の子だ。勉学はそこそこできて魔導学も多少はできるいわば器用なタイプだ。
わたしはこの学園に転校してきてからというものすごく充実した日々を過ごしていた。ちょっとドジだけど面白い子やすごく美人で努力家の新しいトモダチができたからだ。それに、会いたかった幼馴染にも再開できた。
そんな楽しい日々を過ごしていたある日のこと。
「ねぇ、あなただよね?噂の『転校生』」
とある用を済ませたわたしに誰かが話しかけてきた。わたしは振り返り確認するとツインテールとポニーテールの女の子二人がいた。
「うん、そうだよ。わたしになにか用かな?」
わたしが聞き返すと二人は互いにアイコンタクトをすると口を開く。
「あなたの転校してきたクラスって『あいつ』がいるよね?」
「あいつ?」
(一体誰のことだろう?)
なんて考えているとツインテールの子がその名前を口にする。
「『緑風』だよ」
「え?クウくん?」
「…クウくん?」
わたしの反応に二人はなぜか怪訝そうな反応をする。
「ねえ、クウくんってなに?」
「…うぇ」
ポニーテールの子がクウくんの名を口にするとツインテールの子がなぜか汚物でも口にしたかの様な反応をする。それをみたわたしは反射的にすごい不快な気持ちになる。
「…クウくんがどうしたのかな?」
わたしはなぜかクウくんに向けられる憎悪に怒りを抑えながら聞く。
「あなたとあいつの関係はなに?」
「幼馴染だけど」
なんだろう、数回言葉を交わしただけなのにわたしはこの二人が非常に『嫌い』になった。
そして、わたしの返答を聞いた彼女達はなぜかわたしを哀れる様な眼でみて衝撃の言葉を口にする。
「『かわいそう』…」
「は?」
え?今、なんていった?『かわいそう』?なにが?
そんなわたしの思考を他所にポニーテールの子がわたしの手を握る。
「!?」
「あなたは『騙されてる』んだよ」
「…え?」
「そうだよ!そうだよ!そんな奴と『関わっちゃいけない』よ!」
「……なんで?」
「あいつはグズでサイテーなやつなんだよ!だから、今すぐあんなやつから放れて!」
「………なにをいってるの?」
わたしから出た言葉はそのままの意味だった。本当になにをいっているのか分からない…誰がグズだって?誰がどんなやつだって?…ここまで人を不快にできるこの二人はなんなんだ?
わたしはこれまで感じたことのない『怒り』を感じた。『怒り』というには生ぬるいかもしれない正しくいうなら『殺意』かもしれない…。
「だから、わたしたちはあなたをあいつから『救おう』と…」
「…なにをしってるの?」
「は?」
「あなたたちはクウくんのなにをしってるの?」
わたしは怒りを抑えながら…いや、抑えられていなかったのだろう。わたしをみていた二人の顔が青ざめていた。
「な…なによ!わたしはあなたのことを心配して…」
「見ず知らずの人に心配されるほどわたしが落ちぶれてるように見えた?見えてたなら余計なお世話だよ。それにわたしからしたらあなたたちの方がよっぽど惨めで『かわいそう』だと思うな」
わたしはもう『怒り』というより『殺意』を隠すことなく言い放つ。そして、思った、この人達はクウくんのことを『なにもしらない』のだと。
「これだけは云えるあなたたちなんかよりわたしの方が『幸せ』だってことは十分わかったよ。本当に『かわいそう』」
「!!?」
「…んな!?」
「………な、なにが!!…」
「貴方方まだ懲りてなかったんですのね」
「!?」
なにかを言いかけた言葉を遮って一人の綺麗な女の子が入ってきた。
「フウちゃん!」
この子はわたしと同じクラスの黄瀬楓夢さんだ。わたしはフウちゃんと呼んでいる。
「黄瀬お嬢様…!」
「…くっ…また…」
フウちゃんの登場に二人は明らかにたじろぐ。
「この前忠告したはずですが、一体なにをやっているのでしょうか?」
「…いえ…なにも、いくよ」
「…うん」
二人はせめてもの抵抗といわんばかりに一睨みしていくとその場を離れていった。
「…なんなの!あいつら!」
去っていった二人への怒りは全然冷めることはなかった。
「フウちゃん!なんなの!あいつら!」
同じことを言ってしまう辺りわたしも相当頭に血が溜まっていたようだ。
「気持ちは分かりますわ。ですが、落ち着いて下さい」
「落ち着いてられないよ!大切な幼馴染をクウくんを『しらないクセに』あんなにバカにして!」
「仕方ありませんわね…」
「え?」
「あまりこの話はしたくありませんでしたが…緑風さんも『望んでない』とは思いますが話しますわ」
「クウくんも?」
「まだ、時間はありますわね…場所を変えますわよ」
フウちゃんについていって人通りの少ない階段の下辺りの場所にやってきた。
「さて、どこから話しましょうか」
フウちゃんは言葉をまとめるために少し考える仕草をすると口を開く。
「テストのカンニング、更衣室の覗き、酷いことを言って女子を泣かせた、器物の破壊、度重なる嫌がらせ、これらをする人の噂を聞いたらどう思いますか?」
「え?そんなの警戒するにきまって…」
わたしはそこまでいいかけてハッとなった。そして、額に冷や汗をかきながら恐る恐る聞く。
「その噂の人ってもしかして…」
「ええ、『緑風さん』ですわ」
「!!?」
フウちゃんの一言にわたしは言葉を失う。
「…そんな…そんな訳…」
「『そんな訳ない』と言いきれるのでしょうか?」
「…え?」
「貴方には酷な言い方をしますが、10年離れていた幼馴染が昔のままだとでも思っていたのですか?」
「…そ、それは」
なにも言い返せない…確かにそうだ、わたしはクウくんのことを『知った気になっていた』。この10年でクウくんは『変わっていてもおかしくない』ことにわたしは気がついていなかった。いや、気がついてない『フリ』をしていた。怖かったんだ、昔と今でわたしのことを全く忘れて興味がなくなってしまっているのではないかって…だから、あの時『誰』っていわれた時わたしはすごく『胸が痛かった』。結果的にわたしが不用意にかけた魔法のせいだってことがわかった時は心底安心してしまった。
「それでも…」
「?」
「それでもわたしはクウくんは昔と変わってないって言いきれる!」
「!?」
「なにをいっているんだって思うかもしれないけど10年前のクウくんと今のクウくんを見たからいえる、根はなにひとつ『変わってない』よ!」
「………」
言いきれるのにはもうひとつ理由があるそれはクウくんはわたしを心の底では忘れていなかった。確か昔お母さんが云っていたわたしの家に伝わる記憶消去の魔法は普通は思い出すことはないと例え『どんなに親しくても』。だけど、クウくんは本能的に覚えてた。それがなによりうれしかった。
「だから、例え周りがどんな眼でクウくんを見ようとわたしはクウくんを信じるよ!」
わたしが言い切るとフウちゃんはクスリと笑うと優しく微笑みながら口を開く。
「すごいですわね」
「え?」
「意地悪な言い方をしてすみませんね。ちょっと試したくなってしまって」
「試す?」
「はい、緑風さんのことをどれだけ理解しているのかを」
「?」
わたしは正直理解できなかった。フウちゃんになにを試されていたのかを。なんて考えているとフウちゃんは言葉を続ける。
「わたくしは恥ずかしいながらその噂を『鵜呑み』にしていましたわ」
「え!?」
「わたくしも緑風さんと関わるまではその噂を鵜呑みにして警戒していました。ですが、遠目から緑風さんをみていた時明らかに噂の人とかけ放れた雰囲気をしていました。そして、同じクラスで関わっていく内にあの噂は全部『嘘』だってことに気がつきました」
「一体誰がそんな『嘘』をばらまいたの!?」
わたしはフウちゃんから語られる出来事にすごい不快感を感じた。そして、怒りがまた混み上がってきた。
「『特定の人物じゃない』ですわ」
「え?」
「噂と云うのは尾がつくものですわ。それが、緑風さんの場合は『悪意のあるもの』ですけどね」
「悪意?なんでそんなことに?」
「緑風さんは『優し過ぎた』んですわ」
「どういうこと?」
「優し過ぎたそれがある一定の人物達から気に入られなかった。ここまで、いえばわかりますか」
「それってただの『イジメ』じゃん!」
わたしは我慢ができなくなり叫ぶ。フウちゃんはここまで平静を保っている様に見えたけど辛そうな顔をしていた。
「なにそれ!?クウくんの周りの人達はなにやってたの!?先生はなにをしてたの!?」
「緑風さんの周りにいたクラスメートは『見てみぬフリ』。先生は目の前でそのことが起きながらも『気付かないフリ』だったそうですわ」
「ふざけないでよ!!そんなことが許されるなんて『腐ってる』よ!」
「ええ、『腐りきってる』と思いますわ」
「!?」
怒りのあまり怒鳴り散らしていたわたしはフウちゃんの言葉に我に帰る。フウちゃんも我慢していたけど手が震えていた。きっとフウちゃんもわたしぐらい怒っているんだ。
「ご、ごめん…フウちゃん…当たっちゃって…」
わたしは頭を下げる。
「いえ、気にしないで下さい。わたくしもその場に『いなかった』ことを後悔していますから…」
「え?」
「わたくしを含めアカリさんメガネ、そして、天海さんもその場に『いなかった』んですわ」
「え!?そうなの!?」
「天海さんは学園が違っていてそれ以外は正しくはまだ出会っていなかったとでも云っておきましょうか」
「そうなんだ…だから、そんな酷いことが起こったんだね」
「人間気に入らないことがあると嫉妬するもの例えそれがどんなに『醜いことだと気付かない人もいる』と云うことですわ」
「クウくんは…どんな気持ちだったのかな…?」
「相当辛かったと思いますわ…だけど、彼は『優し過ぎる』からそうなってしまったのかもしれませんわね」
「そうなった?」
「きっと緑風さんはあえてずっと自分にターゲットを向けていたのだと思います」
「え?」
「他の人が『イジメの標的にされない』様にですわ」
「!?」
自分に標的を向ける!?それって!
「見ず知らずの人間を『庇ってた』ってこと!?」
フウちゃんは静かに頷く。
「わたくしの集めた情報ですととある人も『ターゲット』にされていたらしいですわ。ですが、ある日からその人は『イジメられなくなった』と」
もう聞いてるだけで辛い…なぜかわたしが泣きそうになってしまう。
「ヴゥ!!」
わたしは言葉にできない声を出しながら無意識に壁を叩いていた。
「………」
帰ってきたのは鈍い痛みだけだった。こんなことしたってなんの意味もない。そんなことわかっている。だけど、この胸の『憎悪』は消えない。むしろ増していくだけだった。
そして、なにより…
「『悔しい』…」
わたしはなにをやっていたの?クウくんが苦しんでいる間わたしはクウくんの記憶を奪ってしまっていたなんて昔の自分が憎い。なにもできなかった自分が憎い。
「今の緑風さんがあるのはなぜだと思いますか?」
「?」
フウちゃんが突然言葉を続ける。
「『家族』の支えがあったからですわ」
「家族?」
「緑風さんよく家族の話をしてくれました。母と兄は優しいとそれがあったからぼくは『頑張れた』と」
「ゆうちゃんとたっくん」
わたしはあの二人の顔を思い出す。
「この前お会いして確信しましたわ。今の緑風さんが優しくて明るいのはあの二人の支えがあったからこそだって…だから、それが少し羨ましいとも思ってしまいました」
「うらやましい?」
わたしが聞き返すとフウちゃんは「はい」と頷き言葉を続ける。
「魔力が一切ないわたくしは実はあまり貴族の家庭で上手くやっていけてませんでした。それでかなり辛い思いをしてひたすら努力の毎日ですが周りの知人はわたくしを影でバカにするだけ。ですが、彼だけは違いました。彼の言葉がわたくしを『救ってくれた』んですわ。そんなことが云える彼は家族から相当な『優しさ』を学んだのだと思いますわ」
そこまで話すとフウちゃんは決意の籠った眼でいう。
「わたくしを認めてくれた彼に報いる為にわたくしは彼を守ると決めましたわ」
フウちゃんがクウくんに対してなにか特別な感情を持っていたことをわたしは感じていた。それがなんなのか今わかったそれは『尊敬』とも云えるし『恩義』とも云える。そして、『好意』とも捉えられるものだった。
「こりゃまいった…ライバル見参ですか…」
わたしは苦笑いでいうとフウちゃんはクスリと笑う。
「あ、フラウム、リーンおかえりー」
教室に戻ったわたしたちに気づいたあかりんが手を振る。
「なんだい?君達随分と遅かったじゃないか。うんこかい?」
「デリカシーのないクソメガネですわね」
「ホントそう脳ミソクソまみれだね」
デリカシーのないことをいい出したメガネくんをわたしとフウちゃんはボコボコにする。
「…確かに僕の非を認めるよ。脳筋お嬢様はともかくモリメ、キミにいたっては会ったばかりなのに当たり強くないかい?」
「なんでだろう…強いていうなら『女の敵』って感じがした」
「それはもはや理不尽なやつあたりでは?」
「二人ともその辺にしてあげてれいたくんがかわいそうだよ」
メガネくんを絞めてたわたしたちにクウくんがよってくる。
「たしかにれいたくんはしつれいなこといっちゃうかもしれないけど悪い人じゃないから」
「クウタ…」
「人を煽らないと生きていけない人ってだけだから」
「まったくフォローになってないね」
「え!?そうだった!?ごめん!」
「…まったくキミって奴は…ところで、クウタ、ミヅキ、それにアカリ補習問題は終わったのかい?」
「…うっ…それは」
「…あはは…どうだろう…」
クウくんとあかりんは眼を反らして分かりやすく誤魔化す。みっくんに至っては寝ていた。
「君達!付き合わされる僕の身にもなってくれたまえ!僕は早く帰って本の続きを読みたいんだ」
「なんの本?」
「『魔法の本を拾い世界を救ったけど色々あって医者を目指した青年の物語』っていう本だね」
「あ、それって実写ドラマが決まった奴だよね」
クウくんは眼をキラキラさせながら興味津々に聞く。
「お?知ってるのかい?まあ、あの作品はツッコミどころも多いいがそれが気にならないぐらい内容が興味深いからね」
メガネくんはクウくんの反応がうれしかったのか語りだす。
「水を差す様で申し訳ありませんが、そのお話は補習問題を終わらせてからしてください」
「う、うん、そうだったね!よし!やるぞ!」
「アカリさんも分からないところがあれば教えますので座ってください」
「うん!ありがとう!フラウム」
「ミズキさっさっと起きたまえ!」
クウくんは話すのが楽しみなのか鼻歌混じりに問題を進める。
この楽しそうな笑顔を守りたいとわたしは思った。
そして、胸に誓ったあいつらはいつかわたしの大切な幼馴染をバカにしたことを後悔させてやると。