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カラーメモリー 【改稿前】  作者: たぬきち
逃亡者マル編
31/59

31色 丸内林檎の逮捕状

 午前十時、私、丸内林檎まるうち りんごは薄暗い路地裏を走っていた。荒い呼吸を整える暇もなくただひたすらに走っていた。正しく云えば《逃げていた》。何から逃げているのかというと、


「いたぞ!そっちだ!」


 図太い声が響き水色の服と帽子の格好をした人達に…そう『警察』に私は追いかけられている。


「りんごちゃんこっち!」


 私の隣を走っていた青年が曲がり角をみつけて曲がり私もそれに続く。しかし、その先にみえたのはまっすぐ続く道ではなく空に向かいそびえたつ壁だった。


「そんな!行き止まり!?」


 私達は引き返そうとしたが数十メートル後ろからは警察の足音がドタバタと地響きをたてるかのように少しずつ確実に近づいてきていた。


「どうしよう、りんごちゃん!?」


 青年は慌てるどう考えたってこのままでは捕まる。そして、私は荒い呼吸を整えると今私が一番言いたい言葉を口にする。


「丸内林檎史上最大の危機です」



 ことの発端は遡ること数十分間前


「トウマくんとびっきりおいしい紅茶を入れて貰ってもいいですか?」


 私はかなり上機嫌に幼馴染の荒谷橙真あらたに とうまくんにいう。


「りんごちゃんかなり上機嫌だね。何かいいことでもあったの?」

「聞いてくれますか!?実は昨日、この実家の八百屋の三軒隣の服井さんの営む服屋にとてもダンディでかっこいい帽子が売っていたんです。でも、その帽子はかなりのお値段で考えたあげく昨日は買わずに帰ったんです。ですが、その夜あの帽子が気になってなかなか寝付けませんでした。そして、たった今ダンディ帽子略してダン帽を買うことに決めたのです」

「なんだかとても温かそうな帽子だね」


 私はちゃぶ台の前に正座をしてトウマくんの淹れてくれたハーブのいい香りがする紅茶のはいったティーカップを手に取る。


「和室のちゃぶ台で正座をしながら紅茶を飲むなんてなかなかシュールだね」


 私が紅茶の記念すべき一口目を味わおうとした時、ふと外が騒がしいのに気が付いた。


「何か騒がしいですね」


 わたしはティーカップをちゃぶ台の上に置き席を立ち二階の部屋の窓から外の様子を覗った。


「あそこは服井さんのお店兼家じゃないですか?」

「何だか人だかりがあるね」

「何かあったんでしょうか?ちょっと観に行ってみますか」


 私は机の横に畳んで置いてあった羽織を羽織ると部屋を出て階段を降り一階の親の営む八百屋の中を通り外に出た。


「何かの事件があったみたいですね」


 辺りを見回すと服井さんのお店の前に数台パトカーが止まっていた。


「こんにちは米田さん」


 人だかりの一番後ろにいたこの商店街のお米屋さんの米田さんに話かけた。


「やあ、リンゴちゃんとトウマくん、こんにちは」

「服井さんのお店で何かあったんですか?」

「ああ…実は…」

「?」


 米田さんは少し口ごもり重い口を開く。


「服井さんが殺害されたらしいんだ…」

「えっ!?」


 衝撃の一言に私とトウマくんは一瞬言葉を失う。


「服井さんが…そんな…」 

「お気の毒です…」


 私は服井さんが亡くなったという言葉にかなりショックを受けていたが何かが気になった。しかし、それが何かは分からなかった。


「トウマくんとりあえず服井さんのお店に行ってみましょう」


 私達は人だかりをかき分けて一番前に着いた。そこには、一般人が入れないように黄色いテープで仕切りがしてある。仕切り越しに私は服井さんのお店の中を覗く。すると、店内をみた私は何か違和感がした。服井さんが亡くなっていたであろう場所には白いチョークで線が描かれていた。しかし、店内は荒らされた様子が一切なかったのだ。


「何か妙ですね」


 私は手を顎に当てて云う。


「何が妙なの?」

「いえ、何かは分からないですが、なんとなく私の勘が『何かがおかしい』と言っているんです」

「確かに僕も何か変な気がするんだけどそれが何か分からないな」

「やはり、トウマくんもですか」


 仕切り越しに一通り現場を観た私は一度その場を後にしようと現場に背を向けた。すると、


「そこのお前ちょっと待て」


 背後から声を掛けられた。何人もいるなかでその声は自分に向けられているものだと感じ私は振り返る。


「はい、何でしょうか?」


 私は声の聞こえてきた場所に返事を返した。


 そこには、灰色のスーツで赤いネクタイをピシッと着た男性がおり私の方に歩みよってきた。


「髪を七三に分けた赤髪の少女。お前が丸内林檎だな」

「はい、そうですが」


 返事を返すと男は胸ポケットから一枚の紙を私に突きつけこう告げる。


「丸内林檎、お前を『殺人容疑』で逮捕する!」

「!?」

「えええええ!?」


 トウマくんが私以上に驚く。


「失礼ですか、あなたは?」

「私はセーラン警察署の刑事、糸池時襟いといけ ときえりだ」

「刑事さんでしたかお勤めごくろう様です」

「りんごちゃん悠長に挨拶してる場合じゃないよ!」


 トウマくんはかなり慌てた様子。


「ところで刑事さん私を逮捕ということは何か根拠でもあるのでしょうか?」


 私は話を切り出す。


「被害者の死亡推定時刻は昨日の午後七時頃で向いの本屋の店主の息子が午後の六時頃最後に現場を訪れていたのが八百屋の娘丸内林檎という証言を得た」

「それだけですか?」

「服屋の店主と深刻そうな顔で話していたそうだな」

「それは欲しい帽子があったので買うか迷っていただけです」

「それだけの証言でりんごちゃんを逮捕っておかしいと思います!」

「十分な証拠だ」


 糸池刑事は近くの警官に「連れて行け」と告げ私の横に2人の警官がじりじりと歩みよってくる。


「これは不味いですね」


 このまま連れて行かれたらほぼ100%私が犯人にされてしまう…どうにか打開しなくては…


「待て」


 背後から声がして後ろの人ごみから腰に剣をかけて手にシルバーを巻いているまるでコスプレイヤーのような黒髪の青年が現れた。


「あっシーニの彼氏さん」

「彼氏じゃない」


 この人はシーニこと天海葵あまみ あおいという隣町の親友の彼氏かもしれない人でコスプレイヤーみたいな格好をしていますがこう見えて隣町の警察ではないのですが警察みたいなものです。どういうことかというと、


 この世界には魔法卵まほうらんという魔力の少し詰まった卵みたいなものがあちこちに浮かんでいて私達はその力を使って魔法が使えます。使えるといっても隠し芸程度に炎が少し出せたり指からビームが出せたりするだけで街を破壊するほどのことは出来ません。別に魔法卵を使わなくても一応魔法は使えます。例えば、私は30センチほどの棒を魔法で造れます。リンゴ飴を作る時に便利なんです。で、この人はその魔法で悪さをする人達を捕まえる『魔法犯罪科』略して『MHK』の人です。ちなみに名前は黒崎誠くろさき まことさんです。


「魔法犯罪科の奴が何のようだ」 

「たまたま通りかかっただけだ」


 糸池刑事が黒崎さんを睨みつける。


「こいつはちょっとした知り合いでな殺人なんてバカなことをする奴じゃない」

「それだけの理由で無実が証明出来ると思っているのか?」

「そっちこそあれだけの証拠でこいつを逮捕出来ると思ってるのか?」


 二人は静かに言い争ったが明らかに敵意をむき出しだった。他の警察官や糸池刑事さんなどが黒崎さんに注目している。すると、誰かが私とトウマくんの手を引っ張り人ごみの外へと出してくれた。


「今のうちだよ」

「米田さん!」


 私とトウマくんを人ごみの外へ出してくれたのは米田さんだった。その他にも私とトウマくんを隠す様に商店街の皆がいた。


「おれたちはリンゴちゃんが人殺しなんてバカなことする様なやつじゃあないって信じてる。だけど、おれたちに出来ることはリンゴちゃんを逃がすことしか出来ねぇ、だから、今は逃げるんだこれは《悪い逃げ》じゃない《無実をみつける為の逃げ》なんだ」


 米田さんは真剣な顔でいいトウマくんをみる。


「リンゴちゃんを頼んだよ」


 米田さんの言葉に続きみんなが口ぐちに「がんばれ」や「気を付けて」などの言葉を掛けてくれた。


「はい、りんごちゃんを護ります」


 トウマくんが気合いを入れていう。


「頼もしいですよ、トウマくん。皆さん感謝します」


 トウマくんに向けて云った後に商店街のみんなに向けてそう一言言い残し私とトウマくんは商店街の裏道に続く道に走って行った。


「そこまで云うならそいつが無実という証拠をみせてみ……何!!いない!」

「!?」


 糸池の言葉で黒崎は振り返り丸内と荒谷の姿が消えていることに気が付いた。


「丸内林檎が逃げた!早く追え!」


 糸池は部下の警官に告げると鬼の様な形相で黒崎を睨みつける。


「犯人を逃がしたな黒崎!」

「知らんあいつが勝手に逃げただけだ」


 黒崎は興味がないといった感じに澄まし顔で返す。


「逃げたということはやはりあいつが犯人ということだ」

「何を焦ってるんだ?」

「何!?」

「セーランのエリート刑事さんが何を焦ってるんだ?」


 黒崎は煽る様に口角を少し上げて笑いながらいう。すると、糸池は舌打ちをし「覚えていろよ」と吐き捨ててその場を後にした。


 糸池がいなくなった後黒崎は大きなため息を付いた。


「まったく丸内のやつ面倒事に巻き込まれやがって」


 黒崎はもう一度小さくため息をすると少し微笑み独り言の様に呟いた。


「やっぱりアイツと《同じ》と云ったところか」


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