10色 マルの試練
扉を抜けた先は先程いた石で囲まれた部屋ではなく草木が生い茂る場所だった。
「ここは、森林…いや、竹林と云ったところでしょうか」
周りを見回して確認すると竹のようなモノが沢山生い茂っていた。
「さて、まずは状況確認ですね」
私は近くにある竹や笹を触ったりして観察して見る。
「見たところ本物の竹のようですね」
竹林が何の変哲もない事を確認すると次は此処が何処なのかを確認する為視野で確認出来た高い岩山に行ってみることにする。
岩山の目の前に来るとそこには石で出来た階段があり上ってみる。頂上は意外と直ぐに着き例えるならデパートの三階程の高さだった。
「ここは展望台でしょうか?」
展望台らしき場所から竹林を眺めてみるとそこは円形の大きな部屋の様になっていた。
「すごいですね。こんな大きな竹林が《一つの部屋》になっているんですね」
私は感嘆しながらもしっかりと視える範囲の場所を確認していくと竹林の中を何かが動いた気がした。
「ん?今のは何でしょう?」
もう一度確認しようとしたが見失ってしまった。しかし、その近くに何か人影みたいな何かが立っていることに気が付いた。
「あれは?」
目を凝らして確認してみるが此処からではよく視えない。
「あそこに行けと云うことでしょうか」
やはり何か因果の様なモノを感じてしまいますが…
「まあ、考えたって解りませんよね」
私は理解出来ない事は気にしないことにする。そして、展望台を降りて先程視た場所を目指して歩みを進めた。
「先程展望台から視えたのはあれでしょうか?」
数分程歩いて行くと少し開けた場所に出て展望台からはよく視えなかった何かがハッキリと視界に入った。
それは、人の形をしていて手には長い棒を持っておりお面の様なモノを被っていたが一目で《生きていない》と解った。
何故なら…
「《人形》ですね」
そうそれは、人形だったのだ。
人形つまり生命のないモノ。だが、私は直感的に歩みを止めた。
この様なシチュエーション…在り来りなのは解っていますが…どうかはずれて欲しいものです…そんな私の願いも虚しく人形はカクカクと音を立てて動き出し片手に持っていた棒を構えると私に目掛けて走って来た。
「マジデスカ」
私は取り敢えず全力で逃げることにする。そして、岩陰に身を潜める。
「これは完璧にホラーですよ…」
私は幽霊や心霊現象は苦手だ。だから、先程の勘ははずれて欲しかったのだ。
「まあ、実態が在るだけかなりマシですかね」
しかし、妖怪などの分類は割かし平気だったりする。
何故かって?それはですね『和風』か『洋風』の違いもしくは会ったこと『ある』か『ない』かの違いですよ。
そんなことを考えていたが足音が着実にこちらに近づいて来るのが解った。場所がバレている!?私は直ぐにその場を離れて態勢を整える。
「隠れても無駄なら仕方ないですね…」
私は走りながら浮いている魔法卵を手に取ると魔法の棒を創造して足を止めてそれを構える。
「あまり戦闘は得意ではありませんがやむを得ないですね」
私は護身用の武術をおじいちゃんに少し教わったり剣道を少しかじった程度ですがその知識を活かしてこの状況を乗り切るしかありません。
「バッチコイです!」
人形は私が戦闘態勢に入ったことを理解したのか飛び上がり棒を大きく振りかぶる。
「なんと!?」
予想外の動きに驚きながらも何とか攻撃をマジック棒で受け止めるが思ったよりも強い衝撃が腕に走った。
「ぐぅ!?」
その衝撃に耐えながら人形を押し返す。
「イッタァ…!」
私は思わず声を漏らしてしまう。
人形と思って侮ってました…。パワーでいったら成人男性の比ではないと思います。喰らったことはありませんがゴリラ位あるんじゃないでしょうか…いや、さすがに盛り過ぎました。もしゴリラのパワーなら私の腕は粉砕されて玉砕されていると思います。
とにかく後手に回ったらマズイですね。
でしたら…
「次はこちらから行きますよ!ゴリラゴリラゴリラ!」
取り敢えず人形に『ゴリラゴリラゴリラ』と命名することにした。
私はゴリラゴリラゴリラの腹部に目掛けて棒を横から叩きこもうと勢いよくスイングするとゴリラゴリラゴリラは人形とは思えない動きで素早くしゃがんでかわす。
「そんなことが出来るんですか!?」
私は絶叫に近い声を出してしまう。
私が動揺したその隙をゴリラゴリラゴリラは見逃さず足払いをかまされる。
バランスを崩して体が宙に浮きそのまま地面に倒れそうになるが咄嗟に受け身を取り棒を振りかぶって追撃してくるゴリラゴリラゴリラの攻撃を地面を転がりながらかわしその転がった勢いを使って急いで立ち上がった。
「はあ…はあ…」
ほんの数秒の出来事なのに私は息を切らしてしまう。
だが、私もただ闇雲に攻撃した訳ではありません。やはりゴリラゴリラゴリラは人形だからかワンテンポ動きが遅いです。
そこを着ければ勝機はあります。
「ふう…」
私は深く息を吐き精神を集中させる。
そんな私にゴリラゴリラゴリラは攻撃しようと向かってくる。
まだです…ゴリラゴリラゴリラをもう少し引きつける。
ゴリラゴリラゴリラの腕がほんの数ミリ上に動いた…。
今です!私は体に『身体強化魔法』をかける。そして、地面を蹴りゴリラゴリラゴリラの懐に一瞬で入る。
「面!」
そのままゴリラゴリラゴリラの頭に渾身の『面』をお見舞いする。
そして、残心をする。
「手ごたえありです」
私は直ぐに打ち込んだ場所を確認する。
ゴリラゴリラゴリラの頭の部分は大きく凹んでいて動きを止めていた。私は思わず安堵の溜息を吐く。しかし、次の瞬間ゴリラゴリラゴリラはその場から《姿を消した》。
「えっ!?」
私は驚き固まる。
何が起きた!?思考が追い付かない…必死に考えを巡らせる。
消える瞬間に何か《糸のようなモノ》が視えた気がする。そんな私の思考を遮る様に背後からカシュカシュと聴き覚えのある足音が聞こえてくる…。
私は背筋がゾクッとして現実逃避したい気分になるが空耳であってほしいと思って背後を振り返ると私の淡い希望は打ち砕かれた…。
「マジデスカ…」
私の視界の先には倒したはずのゴリラゴリラゴリラがいた。
「続編決定ですね」
とにかく目の前の現実を受け止めるしかない…。だが、確かにゴリラゴリラゴリラは確実に《手ごたえがあった》のだ。
ということは…。
「目の前にいるのはゴリラゴリラゴリラ《2号》といったところでしょうか」
まだ、確信はありませんが《消えた》ということは恐らく《直した》のではなく新しく《造り直した》可能性があります。私の使う『創造魔法』よりも遥かに凄い魔法ですね。
そうこう考えている内にゴリラゴリラゴリラ2号が先程と同じ様に向かってくる。
「先程と同じく返り討ちにしてあげますよ」
私はゴリラゴリラゴリラ2号もとい長いのでゴリツーと名前を改めた人形を限界まで引き寄せて手元が動いた瞬間を狙いかけ続けていた『身体強化魔法』のチカラで地面を蹴りゴリツーの懐に再度『面』を打ったがかわされてしまった。
「!!」
攻撃した後の隙をゴリツーは見逃さず棒を私の頭目がけて打ってくるが私は急いで右足で地面を蹴り後ろに飛び退く。
「2(ツー)はそんなに甘くないって感じですね」
どの作品にも云えることですが明らかに1(ワン)の敵より2(ツー)の敵の方が強いんですよ。ですが、逆に強くなっても前作の弱点を克服していないパターンもあります。
つまり、ワンテンポ動きにラグがあります。
「まだ、勝機はありです」
ゴリツーはもう一度攻撃する為に向かってくるが逆に私はそれよりも速くゴリツーに近づき今度は腕が動くよりも速く懐に入る。
そして、棒をしならせてゴリツーの腕を叩きその反動を使ってそのまま頭部を叩く。
「次は《貴方》です」
そういうと私は左手に魔力を溜めて振り返った勢いでそのまま五時の方向に魔弾を飛ばす。
「うおっと!?」
魔弾を放った方向から声が聞こえてガサッという草木の音がなった。
そして、何かが飛び上がった。
「よっと!」
その何かが私の前に姿を現した。
「危なかったぞ!思いっきり油断してたぜ」
姿を現した彼?は流暢に言葉を話していたが明らかに人間ではない。
しかし、人間に近い生物?動物?の姿をしていた。例えるなら。
「《お猿》さんですか?」
そう私達が知っている動物で云うなら彼は《猿》の姿をしていた。
「ん?オラッチのことか?オラッチはな《孫 語空》ってゆうんだぜ」
「はあ…《モン サルウ》さんですか。」
「ちょっとしかカスってねえじゃねーか!」
「すみません人の名前を覚えるのが苦手でして」
「五文字ぐれいがんばって欲しいもんだな」
「検討します。《モルウ》さん」
「なんで三文字になってんだ?自分でゆうのもなんだけどオラッチよく覚えやすい名前っていわれんぜ」
「え?そうなんですか?《ゴウ》さん」
「初対面でワリーけど限度っちゅーもんがあるぞ」
会って数十秒の初対面のお猿さんに注意をされてしまう。
「まあ、とりあえずそれは置いといてよ一つ聞いてもいいか?」
「はい、何でしょう?」
「オメッチよくオラッチの存在に気付いたな」
「私なりに推理しました」
「推理?」
「はい」と私の考え憶測を語る。
「まず扉を潜る前にクーデリアが《神獣と戦ってもらう》と云っていました。だから、私はあの人形を影で操っているものがいると何となくですが思っていました。まあ、ここまでは誰でも考えることでしょう。」
「まあ、そうだな」
「ですが、私は特別魔法が得意という訳ではないので『感知魔法』も精度が高いのは扱えません。ですので、人形を集中的に観察して何処からか電気信号の様に送られてくるほんの僅かな《魔力》を辿って一か八かその場所に魔弾を放ったんです」
「だが、よくすぐに気づいたな自分でいうのもなんだがオラッチ隠れるのはまあまあ得意で最低でも十分ぐれいは気付かれないと思ったぜ」
「私の尊敬するおじいちゃんがよく云っていました『可能性の低い事でも推測が大切』だと」
おじいちゃん看てますか?私はおじいちゃんの教訓を胸に秘めがんばっています。どうかこれからも空から見守ってください……………おじいちゃんまだ生きてますけどね。
「ところでモンさんは神獣なんですか?」
「ん?ああ、そうだな。オラッチは一応《猿》の神獣だぜ!」
まあ、そうですよね。人間の言葉を喋るお猿さんなんて普通いませんから。
「人形を操っていたのも魔法ですか?」
「細かくいえば違うが似たようなもんだな。オラッチの使うのは《妖術》ってゆうんだ」
「妖術?」
「ちっとみせてやるよ」
そういうとモンさんは自分の毛を一本抜きそこに息を吹きかける。
すると、その場所に私が現れたのだ!
「え!?私ですか!?」
「おう、さっきは特になにも考えずに創ったが今回はオメッチを創造しながら創ったんだ。触ってみてもいいぜ自分でいうのもなんだがよく出来てるからよ」
「では、お言葉に甘えて」
私は私を観察するという普通では絶対出来ない体験をする。まずは、普段なら鏡でしか観れない自分の顔をみる。へぇー私って意外と丸目だったんですね。
次に後ろ姿を確認する。
おっ私って後ろの首元にホクロがあったんですね。もしかして、とある貴族の血縁かもしれません。
「自分の身体を観察するなんて少々恥ずかしいですがなかなか興味深いですね」
取り敢えずこの辺にしときますか。
私は観察を終了する。
「お、もういいのか?」
「はい、もうそろそろ本題に入ろうと思いまして」
「そうか、じゃあ戻すぞ」
モンさんは指を鳴らすと創りだした私を消した。
消えた私からモンさんの毛が宙に浮いてそのまま地面に落ちる。なるほど、ゴリラゴリラゴリラから視えた糸みたいなのは妖術が解けたモンさんの毛だったと。
「確認ですがモンさん試練はまだ継続されていますよね?」
私は単刀直入に聞いてみる。
「クーデリアが云っていたのは《神獣と戦ってもらう》でした。私はまだ人形としか戦っていません。もし、モンさんの正体に気が付くが試練の内容なら正直助かりますけど」
「オラッチもはじめはそのつもりだったんだけどよ気が変わったぞ」
「ん?それはどういうことですか?」
「オメッチがよ思ったよりオラッチの正体に早く気が付いたからちょっと物足りなくてよ」
「んん?」
「オメッチの動きを観てたがよ人間にしては意外と強いみていだから少し手合わせしたくなってきたぞ」
「マジデスカ」
予想だにしない言葉に耳を疑う。
「そんな簡単に試練の内容を変えてもいいのですか?」
「大丈夫だそんなもんその場の雰囲気とノリだ」
「なんですかそのご飯食べに行った後にカラオケ行こうみたいな感じは」
「まあ、手加減するから安心しな」
「因みに手加減しなかったら私はどうなりますか?」
「たぶん瞬きで木端微塵になるぞ」
「では、超絶手加減でお願いします」
とてつもなく恐ろしいことを云われたので全力で頭を下げる。惨めでもいいんです。私だって死にたくないです。
「じゃあ、オラッチに一撃でも与えることが出来たら合格にするぞ」
「一撃ですか?」
「おう、ちょっとした模擬戦みたいなもんだ。オラッチも軽く攻撃するからよ隙をみて一発いれてみろ」
そう云うとモンさんは右手を前に出して棒を出現させそれを掴みグルグルと器用に回してみせる。
「ひさしぶりに使うけどまあまあだな」
「愛用の武器ですか?」
「オラッチのむかしからの相棒『如意金箍棒』だ」
「如意金箍棒?それってもしかして如意棒ですか?如意棒といったら確か【伝奇】に出てくる空想の神器かと思っていましたがまさか本物が存在するとは」
「お、博識だな。こいつの存在を知ってるってことは大体の能力もわかってるってことか」
「あくまで伝奇で知っているだけなので全て知っている訳ではありませんが」
「まあ、今回はオメッチの知ってる範囲の能力しか使わねえから安心しな」
「逆に安心出来ない気がしますが感謝します」
つまり私達の知らない能力もあるってことですね…。
「よし、話も長くなっちまったし早速はじめるか」
そういうとモンさんはもう一度如意棒を器用に回して構える。
「お手柔らかにお願いします」
私もマジック棒を構えて今回は始めから身体強化魔法をかけてモンさんの動きを観察する。
「…………」
全く隙がありませんね。
剣道を少しかじっただけとはいえおじいちゃんに武道の心得は叩き込まれているので自分でいうのはなんですが普通の人よりは腕は立つ自信があったのですが…。これは困りましたね。
「そっちからこないならこっちからいくぜ」
痺れを切らしたモンさんは私に向って飛び込んで来た。
(来た!)
私はこの時を待っていました。
私の得意な【返し】をする為に!だけど人形を使って私の動きを視ていたならそのくらい解っているはずです。なので、私はその先を読みます!私は少し手首を動かしフェイントをかける。
すると、それを見たモンさんは体を私から見て右側にずらして避ける態勢に入りその隙を突き私は棒を横に振り切る。
「うおっと!!」
しかし、ギリギリのところでかわされてしまう。
「あっぶねえいきなり終わっちまうところだったぜ」
「逆に終わらせるつもりだったんですけどね…」
正直一発で決めるつもりの渾身の一撃をかわされてしまい私は内心冷や汗をかく。
「やっぱりオラッチの目に狂いはなかったな!よっしゃーいっちょやるぜー!」
マズイです。変なスイッチを入れてしまったみたいです。内心かなり焦っている私を知ってか知らずかモンさんはウキウキしている。
「ハッ!」
モンさんは軽くジャンプをするとその場から姿を消し一瞬で私の右間合いに入ってきた。
「!」
「お?《目では追える》みたいだな」
そういうと如意棒を振り私はそれをギリギリのところで受け止める。
「ぐっ!」
(重い!)
しかし、力負けしてしまい体が飛ぶ。
(一旦この勢いを利用して距離をとります)
私はあえて飛ばされることにより衝撃を和らげることにする。
そして、飛ばされた先の竹に掴まり止まる。
「考えてる暇はないみたいですね」
私が態勢を整えて作戦を考える暇もなくモンさんは追撃をしてこようとする。
(ここまできたらもう野生の勘ですよ)
モンさんの来そうな場所に棒を振りかざすとカキンをいう音が響く。
(ビンゴです!)
そこには私の攻撃を如意棒で受け止めるモンさんがいた。
「惜しい」
「よおっと!」とモンさんはすかさず押し返してきて私は大きく態勢を崩す。
「ぬぅっ!?」
そして、如意棒振るう。
「やばっ!?」
不安定な態勢ながらもなんとか攻撃を受け止めようとしたがマジック棒を弾かれてしまい私の腕からかなり遠くの地面に転がり落ちる。
「いぃっ!?」
早く拾わないと!そう思い全力で地面を蹴り棒の飛ばされた場所に走る。
「伸びろ如意棒!」
後ろからそのような掛け声が聞こえてきて私の真横を如意棒が過ぎていき地面に転がっていた私のマジック棒をまるで小枝かの様に折ってしまった。
「なんと!」
「ほら、よそみすんな!戻れ如意棒!」
私は振り返る暇もなく背中に衝撃が走り体浮く感覚がした。いや、実際に浮いていて私は蹴り飛ばされて宙を舞い受身を一切取れずに地面を転がった。
「ぐぅぁ…」
私は全身に痛みが走り呻き声をあげ立つことが出来ない。
「さっきの一撃はよかったぞ」
私は飛びそうな意識の中で声を拾う。
「オメッチは勘と思ってるかもしれないがあれは明らかにオレッチを捉えてたつまりはオメッチは気づいてないだけでなかなかのポテンシャルを秘めてるみていだな」
お褒めに預かり光栄といった感じなんでしょうけどなんてったって私は今ひんしの状態ですよ。そんなこと云われましてもねえ…というかそもそも私は一般学生であって何処ぞの戦闘民族じゃないんですから当たり前ですが戦闘狂ではありませんしそもそもこの作品はバトルものではないはずです……ですよね?
「…考えたって…無駄ですかね…」
私は体の痛みを堪えながらなんとか立ち上がる。
「お?まだやれるか?」
「はい、やれるところまでとことんやってみることにします」
「そうか、自分で攻撃しといてなんだけどよムリするなよ?」
「その通りですよ」
モンさんのブーメラン発言を突っ込む気力はあるみたいです。
「そういえば先程仰いましたよね?私はなかなかのポテンシャルを秘めていると」
「ああ」
「じゃあ、それを信じてみることにします」
私はそう云うと折られたマジック棒をもう一度創造する。しかし、今度はただの棒ではなく別のモノを創造する。
「ほう、おもしれえもん創ったな」
「ええ、丁度《この場所にある》ので思い付きですけどね」
私が創造したモノそれは《竹刀》です。
「それになかなか手に馴染むんですよ」
「じゃあ、これでお互いいい分だな」
お互いに自慢の武器を構える。
「さて、私の潜在能力とやら信じてますよ」
立ち上がれ私の中の『剣闘士』。私はもう一度身体強化魔法をかけて集中する。
そして、考えるやはり決めるなら自分の一番得意なものでやるべきだとそう【返し】です。先程は先読みを心みてかわされてしまいましたが今度こそは一本取ってみせます!
「ふぅ…」と深く深呼吸をする。
「おもしれえ乗ってやるか!」
私の考えに気付いてくれたのかモンさんは構えを少し変える。
「……」
「……」
互いの読み合い。
勝負は一瞬…。
さあ、どうきますか?
…ジャリ。
「!」
足で地面を鳴らす音がして一瞬でモンさんは姿を消した。
恐らく姿を見せるのは二秒にも満たないはずです。
今の私は完璧にゾーンに入っておりたった二秒で思考をフル回転させる。正面、右、左それとも後ろ、何処に姿を現す?…私ならどうする?……いや、考えるまでもないですね。私ならいえ、真剣勝負を志す者なら誰だって今この状況は絶対《正面》に来るはずです!私は正面に全意識を向ける。
そして、モンさんが姿を現す。
(ビンゴです!)
そんな私の予想を読んでいたのかモンさんは間髪を入れず如意棒を振りかざしてくる。
私はそれを竹刀で受け止める!のではなく如意棒と竹刀が当たるギリギリのラインでそれを【流し】モンさんの懐に入る。
「!?」
そして、素早く竹刀をモンさんの腹部に振りかざす。
「胴!!」
バシーンッ!!!
周囲に竹刀の綺麗な音が鳴り響く。
そして、私は忘れずしっかりと残心をする。
「………」
「………」
私は蹲踞して竹刀を納め立ち上がり数歩後ろに下がり礼をする。
「おみごとだ」
モンさんのその一言を聞き私は肩の力を抜く。
「すぅ…」
「いやーまさかオラッチが一本取られちまうなんてなー」
カアー悔しいぞとモンさんは悔しそうにする。
「はあ…体がバッキバキに痛いですよ」
「そのまま遺体になっちまったりな」
「不吉なこと云わないでくださいよ」
「まあ、冗談はさておきこれでも飲んでみろよ」
モンさんは何かを投げてきて私はそれを受け取る。
「何ですか?この怪しい液体は」
それは小瓶の様なモノに透明ながらも少し青い液体が入っていた。
「それは《神水》っていってな簡単にいえば回復薬みたいなもんだ」
「そんな超絶貴重そうなモノ頂いてもいいんですか?」
「気にすんなオラッチ達にとってはプロテインみたいなもんだ」
「急にランクが下がった気がします」
「体の痛みは多少残るかもしれねえけど体力と魔力は大幅に回復するはずだぜ」
「では、お言葉に甘えて頂きます」
私は蓋を開けて神水を飲む。
硬水の様な味がしますね。なんて考えていると私の体が光だした。
「なっ!なんですか!?もしかして私進化でもするんですか!?」
「落ち着けただの治癒効果だ」
モンさんの云う通り多少体の痛みはあれど全然気にならない程度になり体力も魔力も回復した感覚がする。
「凄いです。世の中にこの様なモノがあったなんて」
「一応これでオレッチの役目は終わったな」
そういうとモンさんは指を鳴らしてゲートの様なモノを出現させる。
「オラッチの試練はこれで終わりだ」
「それは及第点を頂けたということでしょうか?」
「おう、全然合格点よ。逆にまたオラッチと戦ってほしいぐれいだ」
「それは出来ればお断りしたいですね…」
私は目を逸らす。
「でも、お話ならまたしたいです」
「まあ、それでもいいや。じゃあな」
「はい、モンさんもお元気で」
私はモンさんに挨拶をしてゲートを潜る。
「ソンだけどな」
最後に何か云っていたような気がしますけど聞き取れなかった。