1−4痛くも痒くもない(大幅修正)
(誤字脱字のご報告をお願いします)
俺は周囲警戒のために『地図』を常時展開して本島の奥のエリアへと進んだ。
この空に浮く巨大な島は俺の想像の何倍も広いかもしれない。前に進んでも進んでも中央にある天空山は遠いままだ。やはり森の面積が広いのか、あれから生物に出くわすことはなかった。
道中に天空柿を何個か拾って食べたから渇きと空腹を感じることはないが、この世界に来てからまだまともな食事をとっていない、やはり肉を食べたいという願望がある。
本来ならせっかく見つけた場所を拠点にして、そこで色々試したかったけど、あれだけの騒ぎを起こしたら流石に離れないといけない。あの怪物は今のステータスでは絶対に勝てない。
「これは……」
色々思案しながら歩いていたらようやく新しい木を見つけた。どうやら他の木のゾーンに入ったようだ。食べたいのは山々だけれど、万が一のために早速『鑑定』を使って確認する。
『天空梨』
主に浮空本島の外エリア内側に生えてある食用可能な果実。白い果肉で甘い果汁が多い。浮空諸島に生えている木の実の中でも含まれている魔力が多い方で、食べた生物の魔力を回復する効果がある。
「ほう、なるほど」
どうやらこの梨を食べれば魔力が回復するらしい。全然腹減ってないから多くは食べれないけど、まあ食べても問題なさそうだから一口頂くか。
《行動ミッションを達成ーー浮空諸島特有の果物天空梨を食べる(SP+1)》
キタキター、ミッション達成だ。
ふー、しかしこれじゃ効率が悪い。案外SPは貴重かもしれん、安定して稼げるまでは節約しないとな。
ここは少し現実的な話をしよう。ゴブリン共は弱かったからなんとか相手にできたけど、それでも楽勝とまでにはいかなかった。
それ以上に強い魔物が現れれば戦いより逃げの方を優先するべきだ。そして戦いにおける生存率を高めるには俺自身の耐久値を高める必要がある、その場合は耐性を上げる他に防御力を上げる必要がある。しかし今のところまだ防御系スキルが出てきていないから、SPはまだ使わないでおこう。
《ミッションを達成ーー浮空諸島に三時間滞在する(SP+1)》
再び条件達成のログが流れた。
「もう三時間か……」
まずいな、思ったより時間が進んでいる。まだSPが全然稼げていない。もっと効率の良い方法を探さないと、ここままでは貧乏スキルのまま夜に突入して、『地図』を一晩展開しながらビクビクして夜を過ごさないといけなくなる。
しかし、問題なのはまずミッションがどんなのがあるのかすら分からない。ただ、一つだけ言えるのは絶対何個かやりたくないミッションが存在するはず……例えばあのバハムートを倒すミッションとか、どう考えてもラスボス討伐系のミッションはある。
でもこれだけは言わせてくれ、あの怪物はまだいいとして、バハムート討伐とか絶対無理だぁ! 突っ込んだら一瞬にして灰にされるだけな気がするし、突っ込む前に咆哮で気絶しそう。
今更だけどあの怪物といいバハムートといい、この島はどうなってんだ。まさかここはラストダンジョン的な場所か? でもそんな設定をした覚えはないし、そもそもなぜ俺はこんな魔窟に飛ばされたんだ……。
「おっ?」
『地図』に反応があった。
先ほど戦った天空ゴブリンが一体だけ俺の近くにいる。少し気になったことがあるから俺は天空ゴブリンの方に向かう。
孤独の天空ゴブリンは棍棒を持って森の中で彷徨っている。ただボーとしてそこに立っていて、何もしていない。コイツらは一体何を考えて行動してるんだ?
とりあえず近づいてみた。すると天空ゴブリンは俺を発見し、棍棒を持って殴りかかってきた。
まあ一体ならちょうどいい、一つ実験をしたい。
ドコン!
「やはり、あまり痛くない」
実験とは何もせずにただ棍棒に殴られることだ。別にマゾとかそういうことじゃない、俺は自分の防御力を試したかっただけだ。これで一つ分かったのは、『打撃耐性』があれば天空ゴブリンは俺にダメージを与えることはできない。それだけこの世界でのスキルの恩恵は大きいかもしれない。
天空ゴブリンは必死に棍棒で殴ってるけどやはりあまり痛みを感じない。つまりスキル効果は一回ではなく永続的に発動してるってことか。これは防御脳筋最強説出てきたな、異常状態はともかく、単純な物理攻撃であれば全てを防げるだろう。
人は言う、攻撃の脳筋より防御の脳筋の方が強いと。まずは防御優先、攻撃は後から考えよう。これで一番知りたいことが分かったから、天空ゴブリンの役目は終わった。
俺とステータスが変わらないゴブリンから棍棒を奪うのも一苦労。まあ実際同じステータスでも若干の差はあるみたいで、俺はなんとか天空ゴブリンから棍棒を取り上げることができた。すると得物を失った天空ゴブリンは殴るのをやめて逃げていった。
「棍棒二本目とかいらない……ダブル棍棒ファイターってか?」
想像してみたけど凄くダサい。
とりあえず気を引き締めて探索を再開しよう。まずは目標決めだ。ミッションを達成していきたいけど現状利用できそうなのは周囲の木しかない。
「……次の目標は木を伐採することに決まりだな」
木を伐採するミッションはあるかどうかは知らんが、ものは試しだ。そうだ、スキルショップ『伐採』スキルがあったよな、交換しよう。
《スキル『伐採E−』を習得しました》
よーし、日が暮れる前に沢山頑張るか。
えー、『伐採』なんて交換しなければよかった。本当は木を切ろうとしたけど……何もできなかった。今思い返せば『伐採』スキルがあっても木を切る道具がなかった。だから結局俺はそれからあれこれ一時間かけて木の実を探した。そして新たに見つけたのが天空リンゴという果物だ。見た目はただリンゴだけど、色がね、紫色なんだよな。紫の色のリンゴなんてあまり食べたいとは思わない。
それでも俺は目を閉じたまま紫リンゴを齧る、ちなみ既に鑑定したから毒はないから食べても問題はない。そして食べてみたところ、味は至って普通のリンゴだ、食感もリンゴとさほど変わらない。
これでミッション達成できるはずだ。
《行動ミッションを達成ーー浮空諸島特有の果物天空リンゴを食べる(SP+1)》
よし、こっちも達成したな。
ちょっとスキルショップを確認してみよう。
『スキルショップ』
現在あるSP:2
現在交換できるスキル一覧
補助:なし
特殊:『空力斬(SP2)』
能力:『火事場力E−(SP1)』
一般:『格闘術E−(SP1)』
スキル一覧を更新:SP1
おっ、スキルが更新した。だけど防御系のスキルはないのか、それは残念だ。そしてなんか、木を伐採できそうなスキルが来た。特殊枠では初めてのスキルだな、2SPも消費するけど、交換してみよう。
《スキル『空力斬』を獲得しました》
今更気づいたけど、スキルの前についている(下)とか(中)とかはなんなんだろう? レア度的なものなのか、それともスキル階級的なものだろうか? よく分からない。
まあともかく、せっかく『空力斬』たるものをゲットしたのだ、ちょっとどんなもんかをステータスで確認してみる。
『空力斬』
手刀から繰り出される無色透明の斬撃。筋力に応じて威力が上がる。
「へー、手刀で出せるんだ、試してみよう。空力斬!」
シュッ!
「うわ!?」
軽く振っただけで手刀から無色透明の斬撃が出て、目の前の太い木に当たると木の表面が深く削られた。
「スゲーな、ちょっとびっくりした……」
思ったより威力が出て少し驚いている。あと、なんか使った時に腕に衝撃が来たような気がする。
そして使ってみた感じ、どうやら一回だけでは木を完全に切断できるワケではないようだ。もう一回試していよう。
「空力斬!」
いいねこれ、どういう原理で出しているのか不明だが、ファンタジー感があって面白い。まあ使うたびに腕に違和感があるけど、すぐ治るしそこまで気にしないかも。これで初めての遠距離攻撃を入手したわけだ。
しかし木を切るためのスキルじゃないから二回分使ってでも木の幹の半分までしか削れない。やはりノコギリみたいな専用道具じゃないと効率悪いな、これは骨が折れそう。
「まあ、手段がないよりはマシか。これでいっぱい木を切るか」




