2−16王都へ
(誤字脱字のご報告をお願いします)
「これが飛空船か」
「大きい」
次の日、俺たちはバルフェルの中心部にある飛空船乗り場にやってきた。
巨大な飛空船乗り場には数機の飛空船が停泊していて、飛空船が浮いていることを除けばただの港と同じ。乗り場には人が溢れかえり、荷物を持って乗り降りしている。
そして飛空船の見た目は俺の想像を裏切ることはなかった。木造の船体にプロペラ、上には大きな気嚢が付いていて、その横に帆のようなものが付けられている。俺たちが乗る一番大きい飛空船は長さ七十メートル以上もあって、地球での普通の大型旅客機のサイズに匹敵する。
早速搭乗口へ向かった。ちなみにチケットは乗り場入り口で購入済み、王都行きは一人1200Gと一般家庭の年収の半分と安くはないけど、今の俺だったら別になんの問題もない、こればかりはあのバーザム伯爵のおかげだな。
「中も広いな」
飛空船の名前はガンディアス号というらしい。周りの客の会話の内容からして、この飛空船はついこの間に完成したばかり、今日が初飛行だそうだ。最新鋭の風力魔動機関を三機搭載していて、王都に行くのに従来の飛空船だと六日かかるに対し、このガンディアス号は三日と半分の時間で行けるらしい、その分チケット代は高いけどな。
搭乗してしばらく待つと飛空船が動き出した。思ったより揺れが少ないし結構快適だし、魔法の力によって動力を得ているから騒音もない。そして何より船内は涼しい、冷房みたいな機能の魔道具でもあるのかな? 氷魔法を利用すれば冷気とか作り出せそうだけど、送風機能はどうやるのだろう?
好奇心に駆られながらも俺とグラシエルは各自の客室に入り、そこから色々と準備をして、今度は展望室へと向かった。他の乗客の噂で聞いただけのことだけど、この飛空船の展望室はかなり凄いらしい。
「これは……思った以上だな」
「全部見える」
これは素直に凄いの言葉しか出ない。まず展望室は飛空船の船尾にあって、およそ教室一個分の広さがある、そして船尾側には180度周囲見渡せられるようにガラス張りになっている。だが飛空船がまだ飛び立って数分、他の乗客はおらず、展望室は俺たちしかいないようだ。
飛空船は速度を上げ、徐々に高度を上げていった。あっという間にバルフェルの街が小さくなり、その周辺の風景を見渡せるようになった。
バルフェルの全貌が見え、上空からでもその規模の大きさが分かる。壁に囲まれて、街道が蜘蛛の巣のように入り組んでいる。アイリアと一緒に訪れたアルカナムの森も確認できた。その大きさはバルフェルすら上回り、飛空船からでもその全貌を確認することができない、恐らくその更に奥地に精霊の村があるだろう。
このまま三日間飛空船に滞在することになるけど、他にも色々探索してみたいな。
その後はグラシエルと船内を回った。本当に大きい船で内部もかなり複雑、二人とも迷子になりそうだった。
そして色々回った結果、分かったのはこの船は三階構造になっていて、一般の客が入れるのは客室以外にメインホール、商店、展望室、レストラン、図書室、そして最上階のオープンデッキ。
グラシエルは本が読みたいので図書室に残し、俺は一人でオープンデッキで風を堪能している。オープンデッキはかなり人気があるようで、俺以外の乗客も沢山いる。
しかしさっきから嫌な予感がする、何かが起きるような感覚で、胸騒ぎがする。あの仮面をつけた時の予知能力に似た何かが今作用している。
「お、おい、あれを見ろ!」
一人の乗客が何かに気づいて空の方に指を差す。俺と他の乗客もその指が差した方を見ると、そこには空飛ぶ何かが飛空船に近づいてくるのが見える。
最初は鳥かと思いきや、徐々にそれは鳥ではないと感じた。あまりにもその形状とサイズが鳥と違い過ぎる。
『地図』で確認すると、それはワイバーンの群れだ。創作ではよくドラゴンの一種とされているが、ドラゴンと比べて弱く、魔物の中では中間に位置する強さを持つ、しばしば序盤や中盤の強敵として描かれる。そしてそのワイバーンの群れの進行方向は一直線にこちらに向かって来ていて、止まる気配は全くない。
このままではマズイと思い、ワイバーンを撃退しようとした瞬間に船内アナウンスが流れた。
『こちらはガンディアス号の船長だ。ただいま右方向からワイバーンの群れが接近していることを確認できた。だが心配する必要はない、この飛空船には最新鋭の魔力障壁発生装置が搭載されており、ワイバーンなど恐るるに足らない』
それを聞いて乗客たちは安堵の様子を見せた。
アナウンスが流れた直後、船全体に薄い魔力のバリアが貼られたのが見える。そして数分後、ワイバーンの群れが船に突進し、火球を撃って来た。
しかし、船は傷づくどころか、あれだけの攻撃を受けても微動だにしない。
俺はただただ感心した。この飛空船は意外とハイテクなのかもしれない、場合によっては地球の乗り物より技術的に上かもしれない。
それを見て、乗客たちからは歓声が上がった。
「流石は錬王様だ」
「世界一の天才と言われているだけある」
「この技術力を我が国にも欲しいものだ」
あちこちから称賛の声が聞こえた。そしてその中には聞き捨てならない言葉が一つあった。
「錬王……?」
勘違いじゃなければ、この錬王という人物も恐らく十二王の一人だろう。ここまで来て、十二王の中に把握できたのは俺の命を狙っている終王、世界で一番強い騎士の戦王、そして今出てきた錬王の三人。
あの暗殺者のリーダーの話だと、俺を狙うのは終王だけ、他の王の話は出てこなかった。しかし同じ組織のメンバーである以上、警戒した方がいいだろう……。
結局ワイバーンの群れはいくら攻撃しても船には効かず、渋々諦めて船から離れていった。その代わりに彼らはこの船の頑丈さを教えてくれた。
オープンデッキにいる客も落ち着きを取り戻し、この船の素晴らしさについて語り始めた。
俺は地上の風景を眺めつつ、他の乗客から何かいい情報がないかを探るために耳を立てる。
どうやらこの船に乗っている乗客の多くは商人で、今回は新たな商売チャンスを探るためにこの船に乗っている。やはり空路だと先程のようにワイバーン、ドラゴン、グリフォンに襲われることが多く、飛空船は迂回路を経由して飛行している。
この新型の飛空船ガンディアス号は披露してくれた魔力障壁があるおかげで迂回する必要なく、最短ルートである直線を飛ぶことができる。
今俺が乗ってるこの船はまだ第一号で、将来的に量産する計画にあると商人の一人が話す。
その他に有益の情報は得られなかった。商人たちの自慢話を聞いてもしょうがないから、俺は退散して図書室に戻った。
グラシエルはまだ本を読んでいるようだ。
「おかえり」
「ただいま、何を読んでたの?」
グラシエルにそう聞いて、彼女は隣にある本の山から本を取って俺に見せた。
「地理書、歴史書、魔法書、魔物図鑑、植物図鑑……これ全部読んだの?」
「うん、全部覚えた」
「えっ、覚えた……?」
これ全部を? 一冊一冊人を殴り殺せそうな厚さをしている本の内容を全て覚えたのか? えっ、もしかしグラシエルさん、もの凄く天才なのでは?
「これで私はこの世界の知識を得たから、アラタの旅にきっと役立つ」
「……まさか、俺のため?」
「うん」
迷いもなく俺のためと認めるグラシエル。俺は猛烈に感動している、これはご褒美が必要だな!
「俺のために頑張ったグラシエルにご褒美をあげたい、どうかな?」
「ご褒美……なんでもいいの?」
グラシエルが期待するような目で俺を見てきた。
「あ、あぁ、俺ができる範囲であれば」
『なんでもいい』という言葉にちょっと戸惑ったけど、グラシエルのことだから、無茶なことは言ってこないだろう。
「今晩アラタと一緒に寝てもいい?」
今なんて? イッショニネテモイイ?
「あ、あのさ、俺も一応男で、グラシエルも女の子だから、色々危ないというかなんというか……」
「欲情しちゃう?」
「はいアウトー。一体どこでそんな言葉を覚えたんだ……」
何を言っているのか自覚お有りで?
「私は大丈夫」
何が大丈夫なんだ? 確かに今の年齢的に俺とグラシエルは二歳差だけど、精神年齢を含むと犯罪臭がプンプンするんよな……。
「俺は大丈夫じゃない」
あとこれは図書室での会話じゃない、幸い他に誰もいないから、じゃないと通報されてしまうな。
「ダメ?」
「……ね、寝るだけなら……」
「うん、ありがとう」
なんでもいいって言い出したのは俺だし、カワイイ仲間のためならこれぐらい大したことではない。俺の安眠のために、そろそろ精神力でも鍛えるべきか?
結局俺はある意味一種の拷問を受けた。三日の船旅……大変面白かった。ただ夜がな……毎晩グラシエルと寝ることになった、普通の意味で。ほら、あの子は純粋だから、打算なしで抱きついてくるんよ……そこがキツくて、三日とも寝不足だ……。
もう早くこの天国……ゲフンゲフン、地獄から解放してくれと願って、ようやく飛空船から王都が見えてきた。
王都はバルフェルをそのまま数倍大きくした感じで、壁はそれの更に分厚くした上に何層にも分けられて街を守護している。
王都の中心には王城らしき城が見える。外側から内側に行くにつれ、上に重なるように高くなっていく、恐らく王都は丘の上に作られたと俺は思う。一番高い位置に王城が建てられていて、王都一番のシンボルとなっている。街全体が白に統一されていて、ギリシャにある有名な街を彷彿させる。
飛空船は高度を下げ、飛空船乗り場にゆっくりと着陸した。いやー、まさか異世界でこのような空の旅を体験できるとは、異世界も侮れないなー。
《世界ミッションを達成――『王都デランシアに到達する(SP+2)』》
王都に到達したことによってミッションが達成された。
《世界ミッションを継続――『王国最大のダンジョンを攻略する(SP+5)』》
世界ミッションも更新された。
次はダンジョンを攻略しろということか。その前にまずは宿を探すこと、そして街を散策することだな。これほど大きな街、探索しない方が勿体ないぐらいだ。
俺たちは飛空船から降りて乗り場を出た。乗り場を出ると見えてきたのは大きな円状広場だ。広場には多くの人で賑わっていて、バルフェル以上の人口密度を感じる。
広場からは色んな方向に街道が伸びていて、どっちに向かえばいいか迷う。
「お二人は王都に来たのは初めてですか?」
迷っていた時にガンディアス号にいたの乗客の一人が話しかけてきた。
「ええ、初めてです。今は宿を探しているところです」
「お泊まりでしたらホテルなんかがお勧めですよ、特に王都中心にあるベントルホテルは王国の中でも有名ですよ」
「ホテル?」
異世界に来てホテルという単語を聞くとは思わなかった。
「ご存知ないのですか? ホテルは終王様のアイデアと錬王様の技術によって生み出された宿泊施設ですよ」
乗客は驚いて、「そなんのも知らないの」という感じで俺たちに説明してくれた。そしてここに来てまた十二王の名を聞くことになるとは……。そしてホテルは終王のアイデアと……確証はないけど、ホテルの中身によってはこの終王という人は地球から来た可能性があるかもしれない。
とりあえず乗客にお礼を言って、俺たちはそのベントルホテルを目指して王都の中心部に向かった。




