2−15貴族のいざこざ
(誤字脱字のご報告をお願いします)
冥星の戦馬を使役したことによりレベルが上がった。ちなみに俺が使役した個体はまだ若い個体らしい、成熟するとさらに強くなるらしい。
そして冥星の戦馬は皇獣種の中では弱い部類ではある、これで弱いとかこの世界の生態系どうなってんだ。まあ、ともかくこれで世界ミッションは達成したはず。
《世界ミッションを達成――『レベルを40にする(達成時SP+2)』》
ミッション達成、SPもゲット。さあー、次のミッションは?
《世界ミッションを継続――『王都デランシアに到達する(達成時SP+2)』》
ログが流れた。
「次は王都が目標か」
『地図』で確認するとかなり遠い場所にある。少なくとも普通の馬車で行くには数週間はかかるみたい。幸い冒険の街バルフェルには王都行きの飛空船が運行されているから、わざわざ馬車で行く必要はない。
この世界は意外と文明が一定程度発達しているみたいで、魔道具の普及によって日常生活が快適になっている。街中で見かける街灯とか、宿にある生活魔道具を見て、この世界は地球で言う中世とはまた少し違うのが分かる。
俺はそんなことを考えながら森の出口へと向かった。戻る道中にも魔物が出現したが、普通にワンパンした。正直一気に強くなり過ぎた、戦闘が楽になった分、少し面白みがなくなったとも言える。冥星の戦馬を使役したことによってスキルも習得したけど、正直使い道がない。
ドン!
「グガァァァッ」
このようにしてオークのような低ランク魔物だったら軽めのパンチだけで倒せるようになった。バハムートによると、今の俺ならバハムートの全力攻撃にも耐えられるとのことだ、最初の苦労はどこに行ったのやら……。
「貴方達、ちょっと待ちなさい」
オークを片付けけたらどこかから少女の声が聞こえた。
「今度はなんだ?」
声の方を向くと一人の騎士のような格好をした金髪少女が現れた。
「どなたですか?」
「私は王衛第六剣士団団長、六星の剣が第六席、煌剣のラプアである」
王衛第六剣士団団長……六星の剣……なんだそれは? ラプアと名乗る少女は話を続ける。
「実はこの森に皇獣種が出現したとの報告があり、私は討伐の要請を受けてこの森に来た。そして既にこの森一帯には冒険者の進入禁止令が出されているから、貴方達も早くこの森が出た方がいいと思う」
そもそも俺たち冒険者じゃないから、そんなの知るはずがない……。
「しかし、皇獣種の気配はどこにもないね」
そりゃ、俺の中にいるからな。
「貴方達は冒険者なの?」
「俺たちは冒険者ではありません、旅人です」
「旅人? 旅人はなぜこんな場所に……ともかく、早くこの場から離れた方がいい」
ラプアは一瞬固まったがすぐに俺たちに忠告してくれた、いい人みたいだ。
特にトラブルもイベントもなく、俺たちは馬車に乗って街に戻った。あの少女には悪いが、真実を言うわけにはいかないし、言ってもどの道信じてくれないだろう。見た感じ強そうだったし、普通の魔物だったら負けないんじゃないか?
街に戻ると、既に日が暮れそうだ。道の街灯の光が灯され、街全体が夜のお迎えをする。そして俺たちは街に入ると、すぐに冒険者ギルドに行って魔物の素材を売りに行った。今回のレベリングで相当の数の魔物を倒したからな。
相変わらず『空間収納』は好奇心の目を誘うけど、俺は気にせずに金に換えてギルドを出た。グリフォンとバジリスクは高く売れた、やはりランクの高い魔物はいい値段がつく。途中ギルドーマスターが来て、冒険者にならないかと勧誘されたけど、丁重に断った。
ギルドを出ると、そこには見たことのある人が立っていた。バーザム伯爵の女騎士だ、確か名前はカリーナだったかな?
おっ? カリーナは俺たちを見ると一瞬目を開き、そして笑みを浮かべて近づいてきた。
「やっと君たちを見つけた。街中を探してもどこにもいなかったから、もうとっくに街を出たかと思って焦ったんだ」
「俺たちを探していたのですか?」
「そうだ。あの時の恩返しでバーザム様は君たちを屋敷に招待したがっている、もしよければ明日の予定を聞いても良いかい?」
元々明日の午前に出発しようと思ったけど、貴族のお誘いを断るのも失礼だし、面倒事になりそうだから了承するしかないな。グラシエルからも反対意見は出てない。
「そうですね……明日は特に予定はないです」
「そうか!」
俺の言葉を聞いてパッとカリーナの顔に笑顔の花が咲く。俺が屋敷に行けることはそんなに喜ぶ事なのか? それともバーザム伯爵から渡された任務を達成できただけかな。
「バーザム様もきっと御喜びになられる! 明日は君たちの宿の前に馬車を手配しよう、明日の朝八時に集合しよう」
「え……あっ、はい、分かりました……」
まだ俺は何も言ってないけど……なんかトントンと勝手に話が進めら、予定を組まれていく。
「それでは私はこれで失礼する、また明日で会おう」
そして気づいたらカリーナはいなくなった。残されたのはポツンと立っている俺たちだけ。
※
次の日、俺たちが宿から出ると既に宿の前には一台の馬車が待機していた。その馬車の隣にはカリーナが待機していた。待機している時も直立不動で凛としている、流石騎士って感じだ。
「おはようございます」
「ああ、おはよう。時間通りだな」
近づいて挨拶をした。カリーナも嬉しそうに返事をする。しかし、その一幕を見た通行人たちが騒ぎ出す。
「おい、見ろよあれ」
「あれって、貴族の馬車じゃない?」
「なんでこんな所に?」
「カリーナ様よ!」
なんか凄い注目されてるけど……。
中には馬車に反応している人もいる。まあ、一般の人にとって、貴族の馬車なんてなかなか見れないからな、日本で高級外車を見た時のと同じ反応だ、多分。最後の女性は目を輝かせてカリーナのことを見ている、カリーナって意外と有名人?
そんな事を考えていたら周りにさらに人が集まってきた。
「あの二人、領主様を救った英雄様じゃないか?」
「本当だ。黒い髪の青年と白い髪の少女、きっとバーザム伯爵様が探していた人だ」
「まさかここで会えるなんて、今日は幸運だわ」
本当に……何が起きてるのだ? なんで、俺たちのことが広げられているんだ? 困惑している俺たちを見て、カリーナは苦笑いをして俺たちにあることを教えてくれた。
「実はここ数日、バーザム様は君たちのことを探してて、なんでも命を救った恩人として宣揚していたから、いつの間にか街中に噂が広まったと思う」
何してくれてんの……こんなに注目されてて、マジで居た堪れない。
「大騒ぎになる前に早く移動しよう」
「そうですね……」
俺たちは急いで馬車に乗り、程なくして馬車が動き出した。
馬車に揺られて十数分、一般的な住宅区から商人や貴族が住むような高級区に入る、そして前回入口だけ見た大きい屋敷に着いて、初めて中に入った。庭が想像を超える広さで、敷地内には大きな噴水がある、とても俺には無縁な場所なだけに、少し変な気分だ。
「おおー、よく来てくれた」
屋敷に到着して、一番最初迎えてくたのがメイドではなく屋敷の主人、バーザム伯爵だ。どうやら立っても座ってもいられなくて、俺たちが来るのを待ち侘びていたらしい。貴族としてそれでいいのかと思うところあるけれど、本人はあまり気にしていないようだ。
「さあ、貴公らも座ってくれ」
大きな客室に案内され、見るに高級そうな内装に目が奪われる。天井から吊り下げられるシャンデリア、雄大な山々を描いた絵画、そして芸術性溢れる装飾を施されている皿とガラスを並べられている棚……どれも庶民には一生関係のない品々ばかり。そんな空間にいる俺が落ち着けられるはずもなく、ソファーに座ってもソワソワしてしまう。
バーザム伯爵曰く、貴族が一般の人を屋敷に招待するのはかなり珍しいことだそうだ。一般の人を客人として招待することはその人のことを信頼している証。とても名誉なことらしい。日本で生まれ育った俺はその文化を理解するのは難しい、皇居に招待された程の凄いことなのかな、それだとしたら相当凄いことだけど。
「そして貴公らを呼んだのはもう一つ理由がある。暗殺者集団の依頼主が分かったのだ」
「依頼主? それは俺たちとどう関係するのですか?」
「数日前、貴公らはレイスと名乗る貴族と会ったのだろう?」
レイスって、あのクソ雑魚デブ貴族のことか。アイツが依頼主だったのか? 貴族が貴族の暗殺を依頼するとか、一大事じゃないのか?
「その顔からして心当たりがあるようだな」
「はい、数日前はそのレイスを名乗る貴族から少女を助けました」
「やはりか……」
バーザム伯爵は悩ましいそうに言う。
「実は、あのレイスを名乗る貴族はガエル・ド・レイスという名だ。現レイス家当主、ベイガル・ド・レイスの長男だ」
「まさか、その貴族が依頼主ですか?」
「ああ、そうだ。私の娘との縁談が断られたことに不服だったらしい、だから誘拐してても私の娘を奪うつもりたっだ」
バーザム伯爵の話を聞いて俺は呆れた。どうやら俺はあの貴族のこと、ちょっと舐めてたな。アイツはクソ雑魚デブ貴族ではなく、バカクソ雑魚デブ貴族だった。
「私は既にこのことを国王陛下に伝えてある、貴族の暗殺は重罪だ、相手が貴族とはいえど当主ではない、いずれあの長男もレイス家から除名されるであろう」
あら、お気の毒に、まああまり俺と関係のある話ではないな。もしろ、誘拐被害者が減るのはいいことだ。
コンコン
話の途中に扉がドックされた音が聞こえてきた。
「入れ」
「失礼します」
一人の執事が入ってきた。
「どうした?」
「お話の途中大変申し訳ございません。実はレイス家当主のベイガル様が来訪しています」
「なんだと?」
バーザム伯爵は驚く。俺も少しビックリしている、まさかのタイミングでまさかの人物が来るとは。
「いけません。今当主様は客人と会談しています」
「この私より身分の高い客人なんているのか! 早く入らせろ」
「ああ、ちょっと!」
なんか扉の外が騒がしい。一体何が起きている?
バン!
勢い良く扉が開けられた。あのバカクソ雑魚デブ貴族に髭を生やしたような人物が誰彼構わずに部屋の中に入ってくる。後ろでメイドたちが焦った様子が窺える。どうやらこの人を阻止しようとしたらしい。
「阻止できずに申し訳ございません」
「良い。それより何のマネだ、ベイガル卿よ」
「ふん、この私を待たせるとはいい度胸だな、バーザム。同じ位でも私の方が多く王国に貢献しているから、もっと私を敬う必要があるぞ。うん? それが客人か? ハッハッハッ、ただの愚民ではないか、落ちたな、バーザム」
蔑むような眼光を俺たちに向ける。この父してこの子ありか……まさにこのことだ。
「私の命の恩人を侮辱する気が……?」
バーザム伯爵は顔を顰めて不愉快そうに言う。
「恩人? そうかそうか、そう言えば、お前暗殺されかけたのか。その件だが……私の息子をお前の暗殺の犯人として仕立て上げたらしいな、しかもそのようなデタラメなことを陛下に報告したってな……」
「全部本当のことだ」
「そんなわけなかろう。私の息子がそんなことをするはずがない。今日は私が遥々王都からここに来たのは他でもない。私はそのような事実無根なデマを流したお前に抗議してきた、そしてデマの撤回と謝罪を要求する。もしお前はお前の娘を私のガエルに嫁がせれば、この一件は不問としよう」
デブ貴族ベイガルの狂言を聞いてバーザム伯爵は段々と無表情になってきた。
「もう一度言う、撤回するつもりはなく、謝罪するつもりもない。全て事実だ。貴様の子は王国が定めた法を破ったのだ」
「もう良い! 私が全てを片付けてやろう!」
そう言ってベイガルは杖を取り出した。部屋内に一気に緊張感が走る、今でも一触即発の状態になっている。しかし次の瞬間にバーザム伯爵とグラシエルは何かに感じた。
「これは……まさか」
「勘がいいな、この杖は魔道具だ、しかも魔法封じの魔道具だ! これでこの屋敷の中にいる全ての人は魔法を使えない。そして私は既にこの屋敷を封印してある、誰もこの屋敷から逃げ出すことはできないぞ! ハッハッハッ!!」
邪悪な笑みを浮かべて狂うように笑うベイガル。
「魔法封じ……貴様とて魔法を使えないのでは?」
「勘違いしてもらっては困る。この魔法封じの杖は私には効かないように改良してある、私は魔法が使えるのだ」
自身の勝利を信じて疑わないベイガル。よし、一仕事するか。
「なんだ愚民、三大魔法貴族家の私に歯向かうつもりか?」
「……」
俺は無言にただただ前に進む。三大魔法貴族家がどうか知らんが、こういう勘違い野郎には痛い目に遭ってもらう。
「やってもいいですか?」
「構わない、もうこれは言い逃れできない」
バーザム伯爵の許可も得たし、遠慮なくやらせてもらう。
シュッ
「ッ!?」
一瞬でベイガルに近づく。突然の出来事でベイガルは驚く。
「く、喰らえ、雷射撃!」
少し感心した。三大魔法貴族家というのは虚勢ではなく本当だったようだ。一瞬隙を作るもすぐに魔法を打ってきた。まあ、そんなの効かないけど。
「そんなバカな、傷一つないんだと……」
「ひょいっと」
「か、返せ!」
俺はベイガルから杖を奪い、それをバーザム伯爵に渡した。そして再びベイガルの方に向き、拳に力をほんの少しだけ溜める。
「ち、近づくなッ!」
「それでは、さよなら」
ドン!
その太った腹にパンチを入れ、ベイガルは悶絶して崩れ落ちた。白泡まで吹いて、とても直視できないような惨状だけど、死んでないなら大丈夫でしょう。
その後はこのゴタゴタを片付けるため、俺たちとバーザム伯爵の歓談は終わった。バーザム伯爵の表情を見るに、相当ご立腹している様子だった。そして俺に対して「また貴公に助けられた」とバーザム伯爵から感謝されまくった。
そして今日中に街を出る旨を伝えると、一瞬残念そうな顔をしていたが、すぐにメイドに命令して報酬を持ってきた。
「これは……」
お、俺が欲しかった魔動車じゃないか! これをくれるのか! 俺の驚いた顔を見て、バーザム伯爵は満足そうに頷いた。
「旅をする上では快適さも必要だろう。それとこれは貴公らの旅の資金として充てて欲しい」
そう言って更に箱を差し出した。箱を開けると白金貨がなんと十枚も入ってた。
なぜこんなにお金をくれるのか。バーザム伯爵曰く、貴族の命は安くはない、それに加え、今回は上級貴族の犯罪を止めたから、王国の貴族として報酬を与える義務があるという。俺はそういうの詳しくないし、よく分からないから有り難く両方を貰った。
こうして、偶然出会った貴族を救ったことによって、一週間足らずにして、俺は大金持ちになってしまった。




