2−13白霊の事実と謎
(誤字脱字のご報告をお願いします)
ふー、なんとかなったな。あんなデカい蛇がいたなんて想像もできないよ。バジリスクの外見は地球にあるヘビをそのまま何十倍の大きさにした感じで、他にヘビと違う点を挙げるとすれば石化攻撃があるだけかな。それ以外は特にないかな、はっきり言って強くなかった。
あと、バジリスクを倒したらレベルが三十になった。SPは……増えるどころか減ってしまった。一つのスキルをE−からBまで上げるのはかなりSPを消費するからな。
ともかく、北側の森は安全になったし、これでシルフィードは素材を取りに行ける。俺も護衛として行きたかったけど、「あなたはもう休んで!」と彼女に怒られた。
かといって休むほど疲れていないし、やることもない。どうしようかなと考えているそんな時にノムルさんが話しかけてきた。
「お主よ、大樹の村の主がお主に会いたいと言っておる」
「大樹の村の主?」
「そうじゃ、グリフォンとバジリスクを討伐した人間と話がしたいと言っておる」
俺はノムルさんと一緒に村の奥にある木の狭間の地へと向かった。グラシエルも一緒に行きたいと言うから彼女も隣にいる。グラシエルのわがままのことをノムルさんに謝ったけど、「問題ないじゃ」と微笑んでくれた。どうやら大樹の村の主は気さくの人、いや精霊らしい。どうもここ数年間はずっと眠ていたから会う機会なかったけど、今日偶然にも目覚めたらしい。
そして暗い木々の間と通り抜けて、崖と崖の間にある小さな通路を通って、やっと見えてきたのは小さな湖だった。その湖は山の中の空洞の真ん中にあって、その真上はくり抜かれて空が見える、上から漏れる光が湖を照らして青く輝かせている。
「ここが大樹の村の主がいる場所じゃ」
そう言われて俺たちはゆっくりと湖に近づく。
「連れてきたのねー、ノムル」
「はい、ウルタ様」
響くのは鈴のような透き通る声。そして湖から透明な女性が浮かんできて、俺たちの前まできた。
「私はここの大樹の村の精霊の主、突然呼んでごめんねー」
なんか喋り方に癖ある。無気力というか、会社に勤めていた頃の上司に似ている。
「俺たちに会いたいというのは……」
「ノムルから黒髪黒目の人がバジリスクを討伐したと聞いて、少し興味を持った。こうして感じてみると、やはり似ているー」
「似ている?」
なんの話をしているのか全く分からない。似ているって、この世界にも俺みたいな黒髪黒目の人がいるのか?
「見た目だけではなく魔力の性質もあの王に似ている。あなた、この世界の人ではないねー」
驚いた。まさか一目で俺のことを異世界から来た人間だと見破るのか。しかし、知っているということはこの世界にも俺以外の日本人がいるってことだよな。
「アラタ、そうなの?」
横にいたグラシエルが起伏のない声で聞いてきた。それはいつも通りだけど、心なしか少し拗ねているような感じがする。もしかして、怒ってる? グラシエルはこれ以上何も言わずにただ俺のことを見つめている。
「黙っててごめん……俺は、この世界の人間じゃないんだ」
俺はこの視線攻撃に耐えることができなかった。言い訳しても機嫌を損ねるだけだから俺は素直に話すことに決めた。
「そう……分かった」
「えっ……?」
反応うっす! もうちょっとなんか言うべきことあるじゃないのか? 予想外の薄い反応に俺は驚きを隠せない。
「怒って……ないのか?」
「もちろん怒っている、だけどそれ以上に私を信用してくれなかったことが悲しい。私たちは仲間、私がそうしたように、アラタももっと私を信じるべき、じゃないと不公平」
す、拗ねてるぅ! そんなことを思ってたのか、少し罪悪感を感じた。俺の勝手の思い込みでグラシエルを傷つけてしまった。
「本当にごめん……」
「許す」
「終わったのー?」
少し悲壮的な雰囲気をぶち壊す精霊の主、さっきから暇そうに俺たちの会話を聞いていた。
「はい、お見苦しものを……」
「しかし二人とも奇妙だねー。一人は竜を宿し異質人、もう一人は亡国の白霊族ねー」
どこまで分かってるのか……。あと、またグラシエルから視線攻撃をされている。
「むぅぅぅ、まだ隠し事がある」
「いや、話す余裕なかったって……」
「今回は許す……あとで説明して」
「わ、分かった……」
事情を理解してくれたのか今回は究明してこなかった。それは後にして、気になるのは精霊の主の言葉だ。さっき彼女はグラシエルを亡国の白霊族と言った気がする。
「グラシエルのことを知っているんですか?」
「白霊族は水精霊の間で有名だからねー、数百年前まではこの大陸の東側の支配者だったからねー、初代精霊王の末裔だから魔法に長けてた種族よー」
「えっ……」
なんか聞き捨てにならない単語が聞こえた気がする。
「初代精霊王の末裔?」
「そだよー、初代精霊王は私と同じ水精霊だからその末裔の白霊族は水属性の適性は高いのよー」
あの水属性適性の高さはこれが原因か、まさか精霊と関係があったなんて……。そうだ、他の白霊族の居場所も聞いてみよう。
「他の白霊族を知ってますか?」
もしかするとグラシエルの家族を見つけられるヒントがあるかもしれないという希望を込めて聞いてみた。しかし返ってきたのは驚愕の言葉だった。
「知らないねー、そもそも白霊族は数百年前に全て滅ぼされたはずだから、生き残りがいたなんて知らなかったよー、会えたのも幸運だねー」
滅ぼ……され……た? そんな……まさか、だってグラシエルはまだ十六歳だ、少なくとも十六年前には他の白霊族がいたはず……。ダメだ、考えても混乱するだけだ。
「家族を探しているのー?」
「はい」
「彼女は何も知らないのー?」
横にいるグラシエルを見た。すると彼女は否定するように頭を横に振った。
「私、何も分からない。気づいたらあの村の近くの森にいた」
「変だねー……」
精霊の主は考え込む。
「私もそれぐらいしか知らないから、疑問に答えられないねー。でも、もっと白霊族のことについて知りたければ、ここから東の巨塔の都に行くといいよー。あそこには白霊族が残したモノがいっぱいあるから」
結局謎を解明することなく俺たちは湖から離れ、村に戻った。精霊の主は「また眠くなってきたから寝るねー、バイバイー」と湖の中に帰った。どこまでマイペースな精霊だ。
しかしこれで次の目的地が分かった。東の巨塔の都、あそこに行けば白霊族について何か手掛かりを見つけられるかもしれない。
※
村に戻ったらシルフィードが既に北側の森から帰還した。そして今まさに薬を作り始めるところ。
「素材は揃ったから、今から魔毒病の薬を作るわ」
シルフィードは森から採取してきた様々な素材を大釜の中に入れて、煮ながらゆっくりとかき混ぜる。中には生物の目玉のようなモノもあったけど、詳しくは聞かないでおこう……。
混ぜ始めて数分、素材はブクブクと泡立てるようになった紫の液体となった。見た目は毒々しく、匂いもお世辞にはいい匂いとは形容できず、どっちらかというと消毒液に近いような匂いがする。
そして更に数分間待っていたら今度紫だった液体が青色になった、匂いは相変わらず。大釜の中の状態を確認するとシルフィードは手をかざして何かを唱え始めた。その唱えている内容の言葉を理解できず、おそらく精霊語だろう。
唱えた後、青色の液体が一度輝いた。そしてシルフィードはそれを透明なガラス瓶に入れて、どうやらそれが完成らしい。
「これをあのアイリアの人間さんに飲ませるのよ」
俺たちはシルフィードと一緒にアイリアのところに向かった。
アイリアの容態は更に悪化している。紫の模様が増えて、肌の一部が黒く変色している。今でも死にそうだ。姉のアイシアは心配そうにアイリアの手を握って見守っている。
シルフィードはガラス瓶の蓋を開けて中身をアイリアに飲ませた。みんなが静かに見守る中、変化はすぐに目に見える形に起きた。肌の黒く変色した部分と紫の模様が消え、呼吸も穏やかになってきた。治療は成功したようだ。
「う、うぅ……」
程なくしてアイリアは生気を取り戻し、唸り声をあげた後に目を覚ました。
「アイリア! 大丈夫か、アイリア!」
「お、お姉……ちゃん? あ、あれ……? 苦しくない……」
ベッドから起き上がり、アイリアは自身の状態を確認する。嘘みたいに苦しみが消え、身体の異常が治ったことに対して理解が追いついていない。そしてようやく病が治ったことを理解して安心したあまりにポロポロと涙が落ち、耐えきれずに泣き始めた。姉のアイシアもアイリアに抱き寄せて目尻に涙が溜まる。俺たちはそんな姉妹を邪魔せずに静かに見守るのであった。
「シルフィードさん、本当にありがとうございました」
アイリアは自分と姉の命の恩人に深く頭を下げて感謝の気持ちを伝えた。
「そしてアラタさんとグラシエルさん、お二人がいなければ私もここに来ることなく、姉にも再会することはなかったと思います、ありがとうございました」
「いえいえ、元々これも依頼でしたから」
「そうでした……報酬と言いますか、お礼と言いますか、約束したモノです」
そう言ってアイリアはポケットから真っ赤の石と取り出し、それを俺に手渡した。
「本来ならばもう少し報酬を増やすべきですが……」
「これで十分すぎますよ」
俺にとってこれは何よりも価値のあるモノ。これを手に入れるだけで俺は満足だ。それに、精霊の村という珍しい場所に来ることもできたし、白霊族の情報も少しとはいえ入手できたから成果としては十分だ。
「さて、依頼も達成したし俺たちはそろそろ失礼します。二人は本当に街に帰らなくていいのですか?」
アイリアとアイシアからは精霊の村に残りたいと告げられた。
「私とお姉ちゃんは命を助けられた恩もありますし、恩返しができるまでこの村に残るつもりです」
「別にそんなの気にしなくていいのに。まあ、まだ数日は容態の観察がしたいから、残った方が安心だと思うわ」
シルフィードも苦笑いしながらそう言う。
そして俺とグラシエルは別れを惜しみつつ村を出た。最後までアイリアとアイシアは俺たちのことを見送ってくれて、見えなくなるところまで手を振ってくれた。
「アラタ、これからどうする?」
森の中を歩きながらグラシエルが聞いてきた。このまま街に帰るのは勿体無いからな、世界ミッションのこともあるし、当初もこの森に来てレベリングしたかったからな。
「このアルカナムの森でレベルを上げたい、どうかな?」
「アラタについていく。でも約束通りまだ私に言ってないことを全部教えて」
「はいはい……」
約束は約束だし、グラシエルの妙な圧力に耐えられるはずもなく、俺はスキルショップのことや身に宿しているバハムートのこと、そして元の世界のことを全て教えた。こうして、俺はこの世界に来て初めて、本当の意味での心を開ける相手を見つけたのだ。




