2−12精霊の村
最近一話の文字数を二、三千から四千ぐらいに増やしたためか、一日に一話書き上げるのが少し難しくなってきました。ですので今後の予定としましては火曜日、木曜日、土曜日に投稿したいと思っております、よろしくお願いします。
(誤字脱字のご報告をお願いします)
小さな老人精霊の案内に従って俺たちは精霊の村に入った。『地図』で見るとかなりバルフェルの街から離れている秘境のような場所だ。
「ここがワシらの住んでいる大樹の村じゃ。精霊王の都グランデシアと比べれば全然じゃが、それでもワシらの自慢の故郷じゃ」
「これは、すごいな……」
他の二人も目を輝かせている。俺たちはただこの神秘的な風景に目を奪われた。
大樹の村は、全体が自然と融合していて、中央にある広場の中心には大きい木が生えている。村の周囲も木々に囲まれていて、葉っぱの間から太陽の光が漏れて地面まで届いている。そして村の広場には精霊が沢山いて、休んでいる精霊もいれば遊んでいる精霊もいる。どうやら広場は精霊たちの憩いの場のようだ。
「お主ら、行くのじゃ」
風景に見惚れている時にそう言われ、俺たちは再び足を動かした。
「ここが美人さんが休んでいる場所じゃ」
そして小さな老人精霊は俺たちをアイリアの姉がいる場所まで連れて来た。この場所は少し賑やかだった村の中心から離れた小さな丘の上に位置する。近くには川が流れていて、水流の音と鳥のさえずり音が合わさって心地いい音色を奏でている。
その小さな丘の上に一本の木があって、その木の下に小屋のような建物があった。
「さあさあ、入り口に突っ立ておらんで入るんじゃ」
そう言われ俺たちは小屋の中に入った。中はこぢんまりとしていて、家具はベッドと棚しかない。そしてそのベッドの上に誰かが横たわっていて、その隣に頭に葉っぱの生えた女性が座っていた。
「あら、今日は人間さんがいっぱいなのね」
その頭に葉っぱの生えた女性は俺たちを見ると嬉しそうに笑った。その女性も精霊なのだろうか?
「シルフィード、美人さんの状態はどうじゃ?」
「人間さんならもう大丈夫よ、あと数時間で目覚めると思うわ」
シルフィードと呼ばれる女性の隣にあるベッドのに横たわっていたのは女性だった。その女性はアイリアと同じ赤色の髪の毛で、顔立ちもアイリアに似ている。
「お姉ちゃん……本当に良かったです……」
アイリアは今でも泣きそうにしている。どうやら俺たちはアイリアの姉を無事見つけたようだ。
「でもね、この人間さんは相当無茶をしたのよ、この村に運ばれてきた時にはあと一歩で死ぬところだったわ、本当に運が良かったのよ」
「ほ、本当に……ありがとう……ございます」
俺たちもホッとした。一番良くないシナリオを回避できて良かった。
その後、アイリアは残りたいと言ってきたから、俺とグラシエルは小さな老人精霊に案内されながら精霊の村を見回っている。
「そういや、ワシ自己紹介しておらんかったじゃ。ワシはノムル、見ての通り土の精霊じゃ」
土の精霊。言われてみれば確かにそれっぽい、まあ見た目は完璧にミニサンタだけどな。
「お主らも疲れたじゃろう。少しは休んだらどうじゃ?」
ノムルさんの話を聞いて俺はグラシエルと顔を見合わせる。
確かにグリフォンとの戦闘があってからまだ一度も休んでいない、俺はともかくグラシエルの顔からは疲れの色が見える。
「ではお言葉に甘えて」
そうして俺たちがノムルさんに案内されたのは村の中心にある大きな木の中にある大きな空間。特に空間内に何があるわけではなく、雰囲気として体育館のような感じがする。
「ここはワシら精霊が安静する時に使う聖なる間じゃ、体を癒す魔力が充満しておるから、お主らもゆっくりと休むが良い」
勧められるがままに俺たちは聖なる間の壁に寄りかかる形で座った。体を癒す魔力か、さっきから気持ちがいいのはこれが原因か。
しばらく雑談しながら休憩してると、シルフィードが聖なる間にやってきた。
「やはりここにいたのね」
「どうしたんじゃ、シルフィード?」
シルフィードさんは何か用事があるみたいだ。
「あの人間さん、目覚めたわよ」
シルフィードさんによるとアイリアの姉はつい先ほど目覚めたみたいだ。重傷だったためまだ動けないからベッドの上で休んでいるらしい。
俺たちはまた小さな丘の上にある小屋に戻った。小屋に入るとベッドに横たわっていたアイリアの姉が上半身を起こしていた。
「あなた達がアイリアが言ってた冒険者たちか……私はアイリアの姉、アイシアだ。この通り、あなた達にも迷惑をかけた、本当に申し訳ない……」
「そんな、頭を上げてください。アイリアが心配していましたから、無事で良かったです」
「そうだな……アイリアにも心配をかけたな」
アイリアは何も喋らない、どうしたんだ?
「……アイリア?」
アイシアの呼びかけにアイリアは無言のままーーアイシアに寄りかかる形で倒れた。
「アイリアッ!? まさか、こんな時に……」
アイリアは苦しそうな表情を浮かべて、息も少し荒くなっている。よく見ると顔と手の見えるところに紫の模様が浮かび上がっていてとても不気味だ。
「これが……アイリアが言ってた病気……なのか?」
村までの移動は大丈夫そうだったから、あまり気にしていなかったけど。どうやら相当無理をしたらしい……もっと気にかけるべきだったか……。
「肌に紫の模様……それに高熱、この人間さんに何があったの?」
シルフィードさんはアイリアを診ると不思議そうに言う。するとアイシアは悲しそうな表情を浮かべて俺たちに告げる。
「アイリアは……魔毒病という病気を持っている」
「魔毒病!?」
シルフィードさんは声を荒げて驚く。
「ま、まさかあの魔毒病?」
「魔毒病のう……久方見てないのじゃ、まさかここで見るとは……」
「どういう病気ですか?」
「よいか、魔毒病とは魔力を持つ生物の魔力を毒に変え、最終的に死を至らしめる恐ろしい病じゃ、我ら精霊とて耐えることができないのじゃ」
ノムルさんも顔をこわばらせて教えてくれた。魔力を毒に……相当ヤバイ病気じゃないか……。
「魔毒病を治す方法はありますか?」
「あるといえばあるじゃが……」
ノムルさんはとても言いにくそうに言葉をためらう。
「……私聞いたことあるわ、専用の薬さえ作れば治せるかも」
「……その薬はどうやって作るのですか?」
「そうね、記憶が間違ってなければ必要な素材は全部北の森の方に行けば取れるけど……」
今度はシルフィードさんが言葉をためらう。この感じ……なにか問題でもあるのか?
そしてしばらく沈黙が続くと、シルフィードさんは口を開いた。
「実は……数年前から北の森に厄介者が現れるようになったの……」
「厄介者?」
「バジリスクのことじゃ」
ノムルさんが補足で教えてくれた。バジリスク……どっかで聞いたことがある。蛇のような形をした、見た者を石に変える恐ろしい怪物。
「バジリスクだと……」
アイシアは顔を真っ青にして呟く……。どうやらこの世界でも恐れられている魔物のようだ。
「そのバジリスクを倒せばいいのですか?」
「倒すって、バジリスクはそんな弱い魔物じゃないのよ!?」
「そうだ、いくら妹の命のためとはいえ、これ以上あなた達を巻き込むわけにはいかない」
「方法がありますので、大丈夫だと思います」
バジリスクは確か飛べないはずだよな、アレとアレのコンボならグリフォンより簡単に討伐できそう……。
「任せても大丈夫かのう?」
「ノムルさん?」
「ワシらの大樹の村もずっとバジリスクに悩まされてきたのじゃ、せっかくのチャンスじゃ、このままだとあの子らも安らぎを得ることができないのじゃろ?」
「それは……そうだけど……」
ノムルさんの言葉にシルフィードさんは何か想いどころがあるようだ。しかし依然として躊躇っている。しかし次の瞬間、シルフィードさんは真っ直ぐに俺を見つめた。
「分かった。信じるわ、ただ無理だけはしないで、これ以上バジリスクによる犠牲者はもう見たくないわ。私たち精霊のために、そこの人間さんのために、バジリスクを倒して欲しい」
シルフィードさんに真剣な表情でそう言われたら俺も頷くことしかできなかった。
俺はは村の更に北側の森へと出発した。グラシエルも行きたがっていたがなんとか説得できた。俺は一応『石化耐性』があるから大丈夫だから今回は俺一人でやるのが一番だ。ちなみに『飛行』を使って飛んだらグラシエル以外の面々に驚かれた、人間が飛べるとは思わなかっただろう。
「さて、バジリスクを早く見つけよう」
※
[アイシア視点――]
「すぐ帰ってきます」と彼は言って飛び立った。
「飛んでいったわ……」
「最近の人間はすごいじゃのう……」
「多分あの人がすごいだけだと思うが……」
飛べる人間がいないわけではない、私も聞いたことがあるほどだ。しかしいざ目の前で見せられると、やはり御伽噺のように感じる。そもそも私が今いる大樹の村が精霊の村であることも信じ難いが、もはや驚くことに疲れた。
彼はバジリスクを討伐しに行くと簡単にいうが、バジリスクはグリフォンと並ぶほど危険な魔物だ。中堅冒険者パーティーでも油断すれば壊滅へと追い込まれる。少なくとも私みたいなCランク冒険者は手も足も出ないだろう……。
今思えば……私はなんてバカなことをしたんだろう。妹のアイリアを置いて一人でグリフォンに挑むなんて、私は姉として失格だ。
今でもあの光景を思い出すと震え上がる。あの怪物の前になす術もなく風に斬られるあの恐怖を……。私は弱い、妹一人すら守れない。
私たちはバルフェルの東側にある村に住んでいた。両親は幼い頃に亡くなり、私たちはそれ以外の家族がいなかった。私は少し戦いができたためソロ冒険者として魔物を討伐することで生計を立ててお金を稼いだ。決していい生活ではなかったがそれでも私たちは平穏の日々を過ごせていた。その日までは……。
あの日も魔物の討伐帰りだった。家に帰るとアイリアが倒れていたところを見つけた。慌てて駆け寄ると今日みたいに肌に紫の模様が現れて苦しんでいた。後から知ったのが、この病気の名前が魔毒病であることと、治す手段がないことだけだ。
私はすぐにアイリアをバルフェルまで連れて行った。きっと何か方法はあると信じて様々な人に聞いた。私は単純だった、お金さえあれば妹の病気を治せると、だから私は街中で偶然見つけた貴族に助けを求めた。
その貴族からはグリフォンの素材を求められ、それさえ達成できれば大金を貸してくれると言ってくれた。アイリアは私を止めたが、もうこれしかないと思い、私は何を言わずに家を出た。結果はこのザマだ、討伐できるどころか私は自分の命さえ無くすところだった。
だから私は祈るしかできない、何もできなかった私の代わりに妹を救ってほしい。
そして彼が出発してから僅か数十分後――
ドンッ!
急に起きた地揺れで私たちは慌てて小屋の外に出た。見えてきたのは大きな蛇の残骸だった。
「バジリスクを無事討伐できました、それであの森も安全だと思います」
彼は微笑んで私たちに言った。
なんて男だと私は思った。なんと彼は傷ひとつなくバジリスクを討伐してみせた。
しかし私は確信した、これで妹は、アイリアは助かると……。
[――アイシア視点]




