2−11空の王者
(誤字脱字のご報告をお願いします)
グリフォンはこの森を巡回する感じで飛んでいる。俺は『地図』でその動向を注意深く観察している。アイリアの姉を探すためにはグリフォンの巣の場所を見つける必要がある。
一応『地図』で人の情報を見ることはできるが、なぜか上に遮蔽物とかあると見ることができない。そして今のところアイリアの姉の位置情報は確認できていない。一番良くないことを一瞬考えたが止めた。簡単に諦めてはいけない。
グリフォンは俺たちに気づくことなく巣らしき場所に着地した。やはりその巣の周りには人の痕跡はない。
俺たちはゆっくりと巣に近づく。そして近づくとグリフォンは俺たちのことに気づいて起き上がる。どうやら巡回が終わって休みモードに入ってたらしい。低い唸り声を上げて俺たちを威嚇する、かなり縄張り意識の強い魔物のようだ。既に俺たちのことを侵入者と見做して、今でも襲いかかってきそうだ。
流石に凄い迫力だな。今までの魔物の中で一番ファンタジー生物感を出している。ゴブリン、お前は違う。
魔物なら『鑑定』は阻害されないだろう。俺はそのステータスを見た。
[種族]グリフォン
[レベル]41
[魔法適性]
火適性:E−
水適性:E−
地適性:E−
風適性:B
光適性:E−
闇適性:E−
[スキル]
能力:『風翔C+』『毒爪C+』
一般:『風斬B』『天撃B−』『旋風B−』『風弾C+』『引っ掻きB』
[備考]鳥類魔物の上位種、危険度はBランク。空の王者と呼ばれ、空中から風魔法を敵に打ち込み殲滅する。生命力と防御力は高くないが、高い速度と攻撃力は他者にとって脅威である。
今まで出会った魔物の中で初めて魔法を扱える魔物だ。スキルが豊富だし、しかも毒まであるのか……これは万全のために『魔法耐性』と『毒耐性』も上げるとしよう。Bまで上げれば大丈夫だろう。うーん、最近ちょっとSPの出費が激しいな。
「ギュォォォォ!!!」
先に動き出したのはグリフォンの方だ。咆哮を上げて、自分の得意領域である空へと舞い上がった。サイズ感は俺が出会ったベアーズと比べたら小さいが、その堂々たる振る舞いはまさに王者、身から発する威圧感は凄まじい。
「アイリアさん、下がってください」
「は、はい」
危ないから非戦闘員のアイリアは安全なところにいてもらおう。暗殺者のリーダーより強い魔物と戦いながらアイリアを守るのは不可能だ。
「空力斬」
まずは様子見で、一発だけお見舞いしてやる。
斬撃は真っ直ぐに飛んでいく。しかしグリフォンはそれを察知して難なく避けてしまった。
「やはりこのレベルの魔物には効かないか」
ついに魔物にまで避けられるようになった。まあ、前からそんな予感はしてた。
「そんな程度か」と嘲笑うかのように避けた後は何もせずただ俺たちを見下ろす。そしてさっきの返しとばかりに風弾を口から発射した。
「ふん!」
俺は迷いなく拳でそれを殴った。そして風弾は真正面から打ち砕かれた。
「そんなもんか?」
「ギュォ!?」
挑発には挑発を。回避には撃砕を。流石に予想しなかったのか、俺が風弾を打ち砕いたことに対して驚いている。
「次は私の番。水の槍」
驚いている隙を見逃さず、グラシエルは周りに数本の水で出来た槍を作り、グリフォン目掛けて飛ばしたが、すぐに攻撃に気付いて全部軽快にかわした。
「終わりじゃないよ。海墜」
水流がグリフォンの真上で螺旋状に渦を巻き、一つの海が形成された。濃密な魔力によって作られた海は空中から降り注ぐ。逃げようとしても間に合わず、海はグリフォンを空から地面に叩き付けた。
これで終わりかと思えば、海が消えた後にグリフォンは立ち上がった。しかし水を吸収しきったその翼は重たくなり、飛ぼうとして羽ばたいたとしても飛べなかった。こうして空の王者は地面に堕とされ、地面で戦うことを余儀なくされる。
そしてあの魔法を見て、俺は思った。グラシエルって、俺よりも全然強いな……。タイマンしたら俺に勝ち目なんてないだろう……。守るとかカッコいいこと言ってたけど、このままじゃ俺が守られ側になってしまう。
そんなことを考えているとグリフォンは再度魔法を発射した。今度は生ぬるい風弾ではなく、俺の『空力斬』の数倍の大きさもある風の斬撃だ。普通の人なら回避行動を取るのだが、俺は必要ない。
「そんなんじゃ、俺には効かない」
俺は前に出て、両手を突き出し、それをーー受け止めた。
「今だ、グラシエル!」
「分かった。氷棺」
グリフォンが俺に集中している隙にグラシエルは魔法を放った。魔法は四肢を凍結し、徐々ではあるが下から上に向かって氷気が体を侵食する、必死に動こうとしても身動きできず、グリフォンは氷の棺と化した。
「厄介だったな、お疲れグラシエル」
グラシエルに労いの言葉をかけるも返事はない。彼女はただグリフォンを見ている。
「どうしたんだ?」
「……恐らく、まだ死んでいない」
次の瞬間、氷棺は急に動き出した。
「おいおいマジかよ」
氷の棺の表面に亀裂が入った。パリッという音を出しながら亀裂が増えていく、そしてやがてそれは中の力に耐えきれずに、粉々に砕け散った。
氷の棺の束縛から解放されたグリフォンは風を纏っていた。息切れを起こしていることから、どうやら生命活動が止まる寸前に力を振り絞って無理矢理風を発生させて氷の棺を壊したようだ。
「ギョォォォォ!!!」
「なんてヤツだ……」
そして天に仰ぐように咆哮を上げ、俺たちをその殺意が滲み出るような鋭い双眸で睨んでくる。その瞳から感じる戦意は衰えるどころか増している。
グリフォンは加速した。生物的本能に従って、俺たちを滅ぼさんとする。
「早いッ!」
次の瞬間、反応する前にグリフォンはもう目の前に現れた。そして前足を上げ、横払いでグラシエルに襲いかかる。
「クッ!」
「アラタ!」
咄嗟の判断でグラシエルを庇った。耐性によってダメージこそないものの、衝撃を無くす術は持っていない俺はぶっ飛ばされて木に衝突した。
グラシエルは慌てて俺のところまで駆けつけてきた。
「アラタ、大丈夫!?」
「俺は問題ない。しかし思ったよりも手強いな……」
簡単に倒せると思った。だが現実はそう甘くはない、今俺たちに立ち向かっているのは死に抗えた怪物だ。
「アラタ、どうする?」
「魔力は後どれぐらいだ?」
「あまり残っていないけど、初級魔法なら打てる」
つまりさっきの魔法はしばらく使えないか。でもあれほど魔法を食らったんだ、恐らくもう体力はあまり残っていないはず。
「俺が攻撃するから、しばらく休んでて」
「うん、分かった」
こういう時に防御脳筋の弊害が出るもんな。遠距離がダメなら近距離で戦う、もはやそれしか残されていない。
「いや、ちょっと待てよ……」
俺はあるスキルを思い出した。威力が大きすぎてゴブリンの村を消し飛んだあのスキルを。
俺は手を前に突き出して、魔力を集める。
『主、まさか……』
前回とは違って俺は意識して魔力量を抑える、でないとこの一帯が大惨事になってしまう。
「抑えろ、もっと抑えろ」
やはり人間が使っていいスキルじゃないのが改めて分かる。制御するのが難しい、少しでも集中力が散漫しちゃうと暴走してしまう。
やがて手に集まる魔力がビー玉ほどのサイズのエネルギー球となった。
「で、出来たぞ……」
「アラタ、それは……」
グラシエルも感じ取れたみたいだ。
「これは俺の魔法だ。竜星!」
エネルギー球をグリフォンに向かって発射した。体力を失い、もはや回避行動を取ることもできないグリフォンは、ありたっけの魔力を注ぎ込んだ最後の風弾を発射した。
竜星と風弾は激しく衝突する。
一瞬の拮抗。衝突により衝撃波が放たれる。
やがて風弾は撃ち抜かれ、竜星はグリフォンに直撃して爆発した。
《討伐ミッションを達成――グリフォンを討伐する(SP+3)》
どうやら無事に討伐できたようだ。
『まさかあのスキルを制御できるとは……』
かなり頑張ったけどな……というか今はその場合ではない、早くグリフォンを回収してアイリアの姉を探さないと。
俺は『空間収納』で回収しようとしてグリフォン近づくとある視線に気づいた。
視線の方に顔を向くとそれを見つけてしまった。
「ありゃありゃ、気づかれてしもうたか」
それはーー小さな老人だった。その小さな老人はゴブリンとほぼ同じサイズで、でもどこか人間とは離れた雰囲気を感じる。
「空の王者をこれほどまでに痛めつけるとは……」
小さな老人は丸焦げになったグリフォンをマジマジと見つめる。そして感心そうに言う。
「空の王者に勝てる人間はそうそうおらん、お主案外やりおるな」
「あのー、あなたは誰ですか?」
「ワシか? そうじゃな……ワシは人間が俗に言う精霊じゃ」
「精霊?」
えーと、確か精霊ってもうちょっと可愛らしい生物じゃなかったけ? こんな髭ボーボーの老人じゃなくて。
「アラタ、誰それ?」
「かわいいお爺さんです」
俺が混乱していたところにグラシエルがアイリアを連れてきた。
「なんじゃ、今日は人間が多いのう。皆して空の王者に挑みにきたのか? つい数日前にやられた人間を発見したばっかりなのに、人間はこの数百年間バカになったかのう?」
凄い言われようだな……うん? 数日前にやられた人?
「もしかして、それは女性ですか?」
「おう、そうとも。美人さんでのう、とってもワシ好みじゃった」
アンタの好みなんてどうでもいいんだよ、早く場所を教えてくれ場所を。
「その女性は私のお姉ちゃんです! お姉ちゃんは無事ですか? 今はどこいるのですか!」
「お、落ち着かんか。美人さんならワシら妖精の村で治療を受けとる、昨日峠を越えたばかりじゃ、今は村で安静しておる」
「よ、良かった……」
アイリアは姉の安全を確認できて安心して地面に座り込んだ。
「なるほど、お主らはあの美人さんを探しに来たのじゃろ?」
「はい、そうです」
「ならばワシが村まで案内してやろう。ほっほ、人間が村に来るのは何年振りじゃろうな」
俺たちは精霊と自称する老人についていった。
川を越え、アルカナムの更に奥地へと進み、そして更に洞窟を通って、ようやく俺たちは精霊の村へと辿り着いた。
「綺麗……」
「こ、ここは……」
俺たちは言葉を失った。
そこは、一言で表すと秘境だ。大きな木々に囲まれた緑の空間で、色鮮やかな花によって装飾され、暖かい空気が流れているとても神秘的な場所だった。




