2−10少女の願い
ようやく10万文字超えです。後、地の文は一人称と三人称、どちらの方がいいと思いますか?
(誤字脱字のご報告をお願いします)
「もう一回言ってくれませんか?」
どうやら俺は聞き間違いをしたようだ。万が一のためにもう一度聞いてみる。
「ふえ? もう一回ですか? 私に付き……」
途中まで言って急に止まる少女。そして何かに気づいて顔が真っ赤になった。
「す、すす、すみません! 誤解のするような言い方をしてしまいました!」
自分の失言で何度もペコペコして謝る少女。そして俺はそれを見て冷静になった。やはりこの俺にモテ期が来るはずがない。はは……分かってはいたけどね、やはり心に来る何かがあるものだ……。そしてグラシエルよ、なぜホッとした顔になっているんだ?
まあいいや、まずは少女の話の続きを聞かないと。
「結局願いとはなんですか?」
「……私は、一緒に魔物の森に行ってくれる人を探しています」
魔物の森? 確か名前はアルカナムの森……暴食熊以上の危険度を持つ魔物がわんさかいる場所。一人の少女がなぜあのような所に行こうとしているんだ? それと冒険者ギルドに行って依頼した方が早いと思うけどな、そっちの方が探しやすいしな。
「冒険者に依頼するればいいんじゃないですか?」
俺は疑問をぶつけてみた。すると少女は悲しそうにこう言う。
「……実は既に冒険者ギルドとか、街中にいる冒険者さんに声を掛けたんですが……誰も依頼を受けてくれませんでした。もし今度も断られたらどうしようと思いまして……」
「さっき言いにくそうにしていたのはそれが原因か」
「そうです……」
なるほど……そこまでして魔物の森に行きたがるのか。きっとこの少女には魔物の森に行かなくてはならない理由があるんだろうな。
次の瞬間、少女は机にぶつかりそうな勢いで頭を下げた。
「お願いします! もう時間はないんです! 確かに報酬は少ないんですけど、私にはこれしかないんです!」
少女はポケットから赤い石を取り出した。それが彼女が言っていた報酬か。
『主、鑑定を使ってください』
バハムートに言われ、俺はその石に対して『鑑定』を使った。
『再誕の石』
伝説の石と言われている希少な石。真紅の色が特徴的。異質人にしか価値が分からず、通常の人には無意味の石。使用すると好きなスキルをリセットし、一度のみスキルを振り直すことができる。
「こ、これは……」
俺は鑑定結果に驚いた。確かにこの世界の人にとってはただの石っころだけど、これは俺にとってかなりのレアアイテムだぞ。
「分かっています……確かに疑うのも仕方ありません。いくら私がこの石には不思議な力があると説明しても、皆揃って『それはただの赤い石だ』と信じてくれません」
少女は悲しそうにして石を強く握りしめた。
なるほど……確かに報酬が石一個だけだったら冒険者たちも命を懸けて魔物の森まで行くはずがない。かといって『鑑定』がなければこの石が伝説の再誕の石と証明することができない。
まあ冒険者たちを責めることはできないな。冒険者とは死と隣り合わせの職業だ。自分の命を天秤に掛けて、魔物に挑みお金を稼いでいる。釣り合わない依頼なんて受ける必要はない、むしろ善意のために命を落としたらそれこそ愚かだと俺は思う。
俺の場合は話が違う。まずはこの石が本物の再誕の石であることを確認できたし、俺としてもぜひ入手したいアイテムである。そして依頼がなくとも元々アルカナムの森に行くつもりだったからこの少女と目的は一致している。
「やはり無理……ですか?」
「分かりました。その依頼引き受けましょう」
「えっ!?」
少女は驚いた。
まさかこんなとこでこのようなアイテムと出会うとは、やはり俺は天に見放されなかったようだ。この石さえあれば……防御脳筋は更なる高みを目指せる。断る理由がない、ぜひその依頼を引き受けたい。
「本当に本当に本当ですか!?」
「落ち着いてください……」
ずーと断られ続けてきたから、俺の承諾を聞いて少女は喜びで暴走した。
「一つ言い忘れたんですけど、森に入る時は決して俺たちの前に出ないでくだい、依頼主を守るのも義務ですからね」
「はい! 分かっています!」
本当に分かってるのかな……。
※
次の日、俺たちはアルカナムの森へ向けて出発した。ちなみに徒歩ではなく馬車で向かっている。前回の御者逃げもあって、俺は馬車を所有した方がいいと判断した。まあ、『御者』スキルぐらいは簡単に入手できたから、馬車の操作は一通り習得した。
そして一つ気になったのが、こうして御者の技術を含めた知識は直接スキルから伝授されてるわけだけど、一度でもスキルを失ったらその知識は無くなるのだろうか? そこは良く分からない。
「こ、このような立派な馬車を持っているなんて……さすがは冒険者さんですね」
「うん」
馬車の中から会話が聞こえてきた。少女ことアイリアは俺たちのことを冒険者だと思い込んでいるらしい。正確に言うと俺たちは冒険者ではなく旅人だけどね。まあそこは説明が面倒くさいからあえて何も言わないけど。
「は、初めての冒険ですので、ちょっと緊張しますね」
「うん」
「や、やはり魔物って強いんですか?」
「うん」
……何か相槌をしてあげようぜ、グラシエルさん。さっきから「うん」しか返事してないとかアイリアが可哀想だろ。アイリアもアイリアで全く気にする様子がなく一人で楽しげに話を切り出している。今から行くのはピクニックではなく魔物が沢山いる危険の森だけどな、もう少し気を引き締まってほしい。
後ろの会話を聞きながら馬車に揺られて二時間。俺たちはアルカナムの森に着いた。
アルカナムの森は全体的に薄暗い雰囲気を醸し出し、ちょっとでも油断したら迷子になってしまうくらい木が生い茂っている。印象としては浮空本島の森をちょっと暗くした感じだ。
アイリアは後ろから追従する形で付いてくる。そして『地図』を展開して周りを警戒してる。
「あ、あの、少し休みませんか……?」
しばらく森を進めるとアイリアが休みたいと言ってきた。
「大丈夫ですか?」
かなり無理してそうな感じがして、俺は思わず心配の言葉を彼女にかけた。
「へ、平気です……休めば大丈夫です……」
馬車にいた時の元気はすっかり消え、今でも倒れそうにアイリアは呼吸が乱れ、肩を上下している。
「一回休みましょう」
「すみません……」
アイリアがある程度回復したら、俺たちは再び歩き出した。彼女の体調を考慮して、俺たちはさっきより遅めに歩いている。
「この森に来たい目的はなんですか?」
俺はアイリアがこのアルカナムの森を無理してても来たかった理由が知りたかった。彼女は本来この森に来るべきではない、その体調なら尚更だ。
しばらくの沈黙の後、彼女は口を開いた。
「……私はお姉ちゃんを探して来たんです。お姉ちゃんは冒険者で、数日前にこの森を訪れてから帰ってくることはありませんでした」
「……彼女はなぜこの森に来たんですか?」
「実は私たちはバルフェルから東にある小さな村に住んでいました。しかし一年前に私は魔毒病という病に患い、その治療には大金が必要でした。もちろん、それはとても私たちでは払える金額ではありませんでした」
アイリアは悲痛の表情を浮かべた。
「そこで、お姉ちゃんは治す手段を探すために私を連れてバルフェルまで来ました。お姉ちゃんは街中であっちこっち駆け回って助けを求めましたが進展はなく、最終的にレイス家と名乗る貴族様にお願いをしました。しかし、その貴族様は『グリフォンの爪と羽を持ってきたらお金を貸そう』とお姉ちゃんに無理難題を押し付けました」
レイス家って、あのクソ雑魚デブ貴族のことか?
話には続きがあった。
「お姉ちゃんは強くてもCランク冒険者です。Bランク魔物のグリフォンに勝てるはずがありません……私は頑張って止めましたが、お姉ちゃんは私が寝ている間に勝手に出発して、それっきりで帰って来ていません」
なんて言葉を掛けたらいいのか……無謀と言うべきか、妹思いの姉というべきか……俺たちは言葉を見つけることができなかった。
「しかし、もう何日も……もしかして……」
最悪の場合を含めて想定しうる事態を考えた。
「分かっています!」
そして俺が言い終わる前に、その弱々しい姿から力のある言葉が飛び出た。アイリアは真っ直ぐに俺たちを見た。そして言葉を綴る。
「それでも、私はまだ、まだお姉ちゃんは生きていると信じています! 例えそれがどれほど絶望的で、希望のないことだとしても、私は諦めません! も、もうそれしか私の生きる意味がないのです……」
力を使い果たしたのか、それとも俺たちに見られていることに気づいて冷静になったのか、アイリアの声は段々と声が小さくなっていく。これほど感情を剥き出したのだ、よっぽど姉が大切なのだろう。
俺たちはそんな彼女を、慰めることしかできなかった。
「お見苦しいところをお見せしました……」
「冷静になりましたか?」
「はい……お陰様で……」
冷静になって恥ずかしそうに言うアイリア。
そして今となって、ようやく彼女がこの森に拘る理由が分かった。これなら次の行動もしやすくなった。次にやるべきことは、やはりグリフォンを探し出すことだ。俺は『地図』で目標の動向を確認してそう思った。




