2−5装備を買う
グラシエルの年齢を書き間違えました。正確には十四歳ではなく十六歳です。そして評価してくれた方ありがとうございます! 感謝します!
(誤字脱字のご報告をお願いします)
昨日の夜はお楽しみ、ではなく悶々とした夜だった。そして当の本人は何事もなかったかのように「アラタ、おはよう」とベッドから起きた。
現在俺たちが向かっているのは装備屋だ。スキルがあるからぶっちゃけ必要ないかもしれないけど、あくまで怪しまれないように見た目を整えたい。できれば俺は剣を、グラシエルは魔法杖を買えたらいいなと思っている。
「よう、いらっしゃい。武器を探しているのか?」
店に入ると店主らしきおっさんが暇そうに座っていた。
「はい、剣を買いに来ました。あと魔法杖はありますか?」
「剣なら扱っているが、魔法杖を買いたきゃ魔道具屋に行ってくれ」
装備屋って言っても全部揃ってるわけではないんだな。まあとりあえず剣だけでも買っとくか。
「おすすめの剣とかありますか?」
「人によって合う剣と合わない剣があるからなんとも言えんが、坊主は剣を使ったことはあるか?」
「いえ、ありません」
「ふむ、なるほど。ならば初心者ってわけか、初心者が使えるような剣なら……これとかどうかな?」
店主のおっさんが見せてくれたのは至って普通の鉄剣だ。試しに持ってみると意外と軽くて振りやすいそうだ。まああくまで見た目用だから性能はあまり気にしていない。
「アラタ似合ってる」
グラシエルは褒めてくれた。ちょっと照れるけど嬉しい。気に入ったので俺はその剣を購入した。値段はそんなに高くなかった。
「毎度あり」
「この近くにいい魔道具屋ありますか?」
装備屋ならいい魔道具屋を知っているかもしれない。ダメもとで聞いてみた。すると店主のおっさんは困った顔になった。
「魔道具屋か、商品の質だったら間違いなくベルドンの魔道具屋だけどな……」
「ベルドンの魔道具屋?」
「あぁ、この街なら一番の魔道具屋と言われている。ただな……店主の爺さんはひねくれ者でな、自分が認めた人じゃないと商品を売らないんだよ。この前はどっかの貴族様かなんかがその爺さんを怒らせて店から追い出されたらしい」
「えぇ……」
貴族を追い出すその度胸も凄いけど、普通にそれで商売になるのか? でも街一番の魔道具屋か、質がいいのなら見に行ってみたい。
「その魔道具屋の場所はどこですか?」
「行く気か?」
店主のおっさんは驚いた顔で訊いてきた。
買うなら質のいい物が欲しいだろう? まず試してみないと分からないから諦めるのはまだ早い。
「まあ行きたいのであれば俺は止めないが。そうだな、場所は確か……この街道を真っ直ぐ進んで、突き当たりで右を曲がったらその近くの路地裏の中に入れば見つかるはずだ」
なんで路地裏の中に店を構えているのか理由は聞かないけど、これで場所もわかったし『地図』を使えば迷わないだろう。
俺たちは店を出て、移動を開始する。
「ここか」
そして歩いで数分したら店主のおっさんが言ってた路地裏を見つけた。大通りから外れた小さな道、朝にも関わらず夜と勘違いするほど暗い。中に進んですぐの場所にベルドンの魔道具屋と書かれている看板を見つけた。実に変な立地だ。通常なら大通りに店を構えるのがほとんどだけどこの店は違う。
本当に大丈夫なのかと思うところはあるけれど……もうここまで来たし、入るしかないよね。
何年も手入れされていないであろう重い扉を開けて中に入った。店の中はとても狭く、薄暗くて奥までよく見えない。
「もしかして今日はいないのかな?」
「アラタ、奥に人がいる」
「そうなの? すみません、誰かいませんか?」
店の人を呼んでみた。
「誰じゃ、朝から煩いわい」
すると店の奥から不機嫌そうに返事がきた。そして店の奥の扉が開かれて、ヨボヨボのお爺さんが出てきた。
「なんじゃお前たちは、ここは迷子が来る場所ではないぞ」
もの凄い不機嫌な表情を浮かべて俺たちを鋭く見つめる。
「えーと、魔法杖を買いに来たんですけど」
「杖じゃと? そんなもん売ってないからはよ出てけ」
分かりやすい嘘をつくなこのお爺さん、表に魔道具屋って書かれてんのはなんだよ。にしても本当に聞いた通りにひねくれてんな。初対面で分かる、この爺さんは頑固者だ。
「ならどうすれば俺たちのことを認めてくれます?」
「はぁぁぁ、誰からそのような話を聞いたか知らんじゃが……大した実力も持っておらんくせにいい装備ばっか求めよって、それを自身の力と誤解して身丈に合わん敵に挑んで死んでしまう奴は何人も見てきたわい」
急に語り出した。そして爺さんは話を続ける。
「挙句に「あなたが売らなければそのようなことにならなかった」とワシを責めてくる。もう説明するのも疲れたわい……どの道お前たちもそうなるのなら、ワシのとこではなく他の魔道具屋に行け」
なるほど、この爺さんは過去の事でちょっとトラウマになっているのか。でもそんなこと言われても引くわけにはいかないし。
「実力さえ示せば売ってくれるのですか?」
「……お前はワシの話を聞いたかね? ……まあよい、しつこく言ってもどうせ聞いてくれもしないだろう。それで、お前は一体どうやって実力を示すつもりじゃ?」
「俺ではなく、彼女です」
隣のグラシエルが実力を示すと聞くと爺さんは呆れた表情を浮かべた。
「そうかい……やれやれ、適性測定水晶を持ってくるから、結果次第で考えよう」
爺さんは奥の部屋に行って、何やら占いに使えそうな水晶玉を持ってきた。これで適性を測定できるのか。
「まずはお前からじゃ、手を水晶の上に乗せい」
言われたまま手を水晶の上に乗せた。すると突然水晶が白い輝きを放つ。しかし程なくして無に戻った。今ので測定できたのか?
「お前、魔力だけは一丁前で魔法適性どれも最低ランクじゃな」
「俺のことはいいです……」
「そうじゃったな、お前ではなく嬢のことか。ほれ、嬢も手を乗せてみな」
「分かった」
グラシエルも手を水晶の上に乗せた。そして俺の時と比べ、さらに眩しい白い輝きを放つ。
「む、こ、これは……」
白い輝きの次に淡い青色の輝きが水晶から放たれる。その光は薄暗い屋内を照らすかのように光続け、やがて段々と落ち着いて消えて無くなった。
「なんということじゃ、魔力量は申し分ない、水魔法に関しては最高水準の適性じゃ!」
まあ、一応水魔法適性SSだからね。さっきの態度からは想像できないほど爺さんが興奮している。
「これで認めてくれますよね」
「あぁ、もちろんじゃ。久しぶりにこれほどの逸材に出会ったじゃ」
ようやくこの頑固爺さんに認められた。グラシエルのことだから、最初から心配はしてなかったけどな。
「して、まずお前たちに一つ言わなければならないことがある」
「なんですか?」
「よいか? 本来魔法杖の役割は魔法使いの魔法詠唱をサポートすることじゃ、しかし嬢の魔法適性レベルとなると杖は逆に魔法詠唱の妨げになる。つまり、嬢に必要なのは魔法杖ではなく魔装じゃ」
魔装? 聞いたことないアイテムだな。グラシエルを見ると彼女も知らないと頭を横に振っている。
「すみません、魔装ってなんですか?」
「なんじゃ、魔装も知らんのか? 魔装とはな、魔法補助用装備のことじゃ」
「ん? 魔法杖は違うのですか?」
「魔法杖は武器じゃから、厳密にいうと魔法剣と同様に魔法武具の類になるんじゃ。まあ中には魔法武具に変形できる魔装もあるじゃが、それこそ国宝クラスの魔装じゃな」
「なるほど……」
意外と色々あるもんだな、また一つこの世界に関する知識を習得した。
「して、嬢に合う魔装となればこの清水の指輪が一番じゃ、この魔装なら水魔法の発動の消費魔力を減らし、効果と精度を高めてくれる優れもの。ワシの最高傑作の一つじゃ」
「それいくらですか……?」
そんな凄い効果を持つ魔装ならきっとお財布に優しくないでしょう? グラシエルに性能高めのものを用意たいと思ったけど、予算も限られているから、流石に万超えになると手は出せない。
「そうじゃな、1500Gはどうかね?」
あの仮面のせいで安く聞こえる。あーもう、完全にあの怪しいピンク女のせいで価値観が狂ってしまった。普通に考えて1500Gはこの国の一般家庭の年収よりも高い、そんなものを安いと判断してしまうのはかなりマズイ、価値観を矯正していかないと。
いけない、考え込んでしまった。
「分かりました。はい、1500Gです」
俺はバッグから金貨一枚と銀貨五枚を取り出した。そしてそれを爺さんに手渡した。
「ほほう、これほどの大金を躊躇なく出すとは、若いのに大したもんじゃな」
ははっ、それはとある仮面を被ったとても怪しいピンク色の髪をした女がくれたものだ。今振り返るとあの時に売った魔物の素材ってそんなに価値なかったんじゃないのかな? ではなんであのピンク女はあんな大金で買ってくれたんだ? ますます疑問が深まるばかり。
考えても分からないことは考えても仕方がない。とりあえず買い物を済ませて指輪魔装を購入した。
《行動ミッション達成――魔装を購入する(SP+1)》
欲しいものを買ってSP稼ぎもできて一石二鳥。
「お前は何か欲しいのないかね?」
「俺ですか?」
爺さんに言われて俺も店の中歩き回って商品を見てみる。
「防御系の魔装はありませんか?」
「防御系か……この耐魔の指輪なら魔法耐性を上げてくれるが……」
「いいんじゃないですか?」
「ただな、この魔装を装着すると装着者の魔法適性をも下げてしまう。いわば失敗作じゃ」
それ俺にあんまり関係なくない? 元々全部の魔法適性が最低ランクだから装着したところで変わらないと思う。むしろ魔法耐性を上げてくれるのなら普通に欲しい。
「それをください」
「正気か? いや、そういやお前の魔法適性全部最低ランクだったか……」
そんな残念な人を見る目を俺に向かないでくれ。これはもう仕方ないことだ。
「これはそうじゃな、100Gでいい。元々処分に困った品じゃからな」
……随分と安い値段だな。グラシエルのものとは大違い。まあ買わない理由なんてないから買いますけども。俺は銀貨を一枚取り出してその指輪を購入した。
ともかくこれで午前中のやるべきことはやった。
「ありがとうアラタ。私のためにこんな高価のものを……私はなにもお返しできないのに……」
店を出るとグラシエルは足を止めて俺に言う。
「別にいいよ。仲間じゃないか」
「仲間……私たちは仲間……」
よっぽど嬉しかったのか、グラシエルは頬を赤らめた。まあ、俺からしたらその笑顔さえ見れたらもう満足だ。
もうすぐ昼になるから、仕切り直して俺たちは冒険者ギルドの方に向かった。




