2−3盗賊退治
(誤字脱字のご報告をお願いします)
その後、バルト村の追っ手のことを考えて俺はグラシエルをかなり離れた場所まで連れて『防魔結界』を展開してその夜を過ごした。
次の日、俺たちは一番近い街を目指して移動している。
グラシエルはまだ眠ったままだ、昨日あんなことがあったから無理もない。
「とりあえず一番近い街を目指そう……ん?」
《世界ミッションを継続――『冒険の街バルフェルに到達する(達成時SP+1)』》
いいタイミングでミッションが開始された。まずは『地図』でバルフェルの地理的場所を調べる。ふむふむ、どうやらこの冒険の街バルフェルは俺が目指している一番近い街ではなく、その更に向こうにある大きな街のようだ。
俺は寝ているグラシエルを背負ったまま移動しているため、『地図』で魔物の警戒しながらゆっくりと歩いている。暇でやることないから、久しぶりにスキルショップを開いてスキルの交換でもしようか。
『スキルショップ』
現在あるSP:6
現在交換できるスキル一覧
補助:なし
特殊:なし
能力:『魔力上昇E−(SP1)』『魔法耐性E−(SP1)』『石化耐性E−(SP1)』
一般:『暗殺術E−(SP1)』『採石E−(SP1)』『剣術E−(SP1)』『鍛治E−(SP1)』『双刀術E−(SP1)』
スキル一覧を更新:SP1
なんの面白みもないスキル一覧。まあ無難に耐性系二つを交換して、残りを全部物理に振ろう。
《スキル『魔法耐性E−』とスキル『石化耐性E−』を習得しました》
順調に防御脳筋になってきている。やはりいかなる場合においてもダメージされ受けなければどうということはない。
「う、うう……」
俺の背中で眠っていたグラシエルが起きたみたいだ。一旦彼女を降ろす。
「ここは、どこ?」
グラシエルは眠たい顔で瞼を擦りながら聞いてきた。
「ここは一番近い街の途中にある森の中だ」
「そう……」
無関心そうに彼女は言う。
「名前、何?」
「名前?」
「あなたの名前、何?」
彼女は俺の名前を聞いてきた。
「俺はアラタだ」
「アラタ……アラタ……覚えた。助けてくれてありがとう、アラタ」
俺の名前を復唱して、恥ずかしそうに彼女は言う。
「アラタ、いい名前と思う。でも私には名前がない……」
悲しそうになる彼女。しかしステータスに名前がなかったの本当になんでだろう。ミッションではグラシエルって書かれてたのに……ここは少しばかりプレゼントをあげよう。
「そうだ、俺が名前を付けるのはどうだ?」
「名前? アラタ、名前を付けてくれるの?」
「あぁ、どうかな?」
「もちろん、欲しい」
「よし、では君はこれからグラシエルを名乗って欲しい」
そう、俺はミッションに書かれてた彼女の名前を教えた。
《行動ミッションを達成―ー真名をその主に返す(SP+5)》
ログが流れた。
てことはやはりグラシエルが本当の名前のようだ。そして名前を教えた瞬間に彼女はほんの少しだけ輝きだした。
『真名を知ったことによってステータスが変化したのかもしれません』
バハムートの念話を聞いて俺はグラシエルのステータスを確認した。
[名前]グラシエル
[年齢]14歳
[種族]白霊族
[レベル]62
[魔法適性]
火適性:E−
水適性:SS
地適性:E−
風適性:E−
光適性:E−
闇適性:E−
[スキル]
能力:『水魔法技量A−』『魔力回復A−』
一般:『水魔法A+』『魔力操作B+』『魔力感知B+』
何が起きた!? 名前を付けただけでこんなにステータスって変わるものなのか? まずレベルがスゲー上がった、そしてスキルも全て強化されている。かなりの変化だけど、当の本人は気にしている様子がない。
「グラシエル……。私の名前はグラシエル!」
とにかく初めて自分の名前を貰って分かりやすく喜ぶグラシエル。
俺はそれを見て……なんだか申し訳ない気持ちになってきた。この名前は俺から授けたわけではなく、本当はこの世界から授けられたはずなのに……。
まるで世界に拒絶されたようにこの子は辛い過去を持っていると思う。この子に一体何が起きたのか、悪魔と呼ばれた理由も、その出自も何一つ分からないけど。少なくともこの純粋無垢の女の子を二度と悲しまないように守ってあげたい。
さて、くさいセリフはここまでにしよう。『地図』を見るとかなりの数の赤い点がこちらに接近している。
「盗賊か」
この世界に来て初めて遭遇する人間の敵だ。ガラ村にいた三人とバルト村にいた村人どもは敵かと言われるとそこは微妙。最初から狙いは俺ではなかったし、俺もお人好しの行動をしただけ。まあ、この盗賊一味は最初から俺らを狙っているみたいだから、情け無用に潰す。
程なくして盗賊一味は茂みの向こうから姿を現した。
「ヒャヒャヒャ、ザブの言った通りだ。まさか本当にここを通るマヌケがいるとはな!」
「お頭、カワイイ女もいるっす! 奴隷にしたら味見したいっす」
「ヒャヒャヒャ、お前の幼女趣味は相変わらず理解できねえな! ヤるなら胸のデカイ美人さん一番だろ」
「親分、俺、もう殺ししたい。殺しいい……?」
「オメエーは黙ってろ」
俺は一体何を見せられてんだ? 一人は変な笑い方をしてて、一人はロリコンで、もう一人はなんだ、戦闘狂か? こんな奴らを警戒していた俺がバカみたいだ。
「その人たちは悪人?」
「ん? あぁ、そうだよ」
「私が倒してもいい?」
「えっ?」
グラシエルから衝撃の言葉。君、何を言ってるの? まさか一人でこの人数相手するつもりなのか? 危ないからやめた方がいいと思うけどな。
「ブー、私は魔法が使えるの。昨日はアラタに助けられたから、今日は私がアラタを助ける番」
俺の考えがバレたのか、彼女は頬を膨らませる。
「大丈夫、私は凄い魔法を使えるから」
「左様ですか……」
俺の袖を引っ張ってまでやる気をアピールする彼女を見て思わずホッコリした。別に俺はロリコンじゃないけどさ、今のは素直に可愛かったです。確かにあのステータスなら魔法には期待できそう、しかし本当に大丈夫だろうか?
「本当にやるのか?」
「うん、足手まといじゃないことを証明したいの」
「分かった、ただし無理だけはするな」
「うん、ありがとう!」
グラシエルはニコッと笑った。神様よ、天使はここにいた。
「ヒャヒャヒャ、話は終わったか?」
おっと、完全に盗賊一味のことを忘れてたわ。ていうか盗賊なのに律儀に待ってくれるんのか。
「すまん、すまん、話が長くなっちゃって」
「今のは死ぬ前の最後の会話ってか? それは悲しいことだな、ヒャヒャヒャ!」
今のはイラッと来た。
「もうやっていいぞ、グラシエル」
「分かった、『水弾爆発』」
「お、おい、魔法が使えるとか聞いてねえぞ!」
グラシエルは魔法を詠唱し、空中に巨大な水の玉を作り出した。それが分裂して無数の水玉となって盗賊に降りかかり、そしてそれらが着弾した瞬間に一気に起爆した。当てどころが悪かった盗賊は即死、ほかの盗賊もかなりのダメージを受けた。
「えげつないな……」
あれは俺でも絶対に受けたくない。死にはしないだろうけど絶対にダメージを受ける。しかし流石は水魔法適性SSなだけあって、グラシエルは難なくあの強力な魔法を発動できた。
魔法を受けた盗賊は一目散に逃げていったが、逃すつもりは毛頭もない。だって盗賊なんだから逃したところでいいことはない。きっとまた他のところで悪さするに違いない。ならばここで潰しておいた方がいいに決まってる。
「悪く思うなよ、空力斬」
無情の斬撃が逃げた盗賊に襲いかかる。そしてもはや断末魔を出すことすら許さず、盗賊たちは両断された。
「クソ、やっぱキツイ......」
盗賊だったバラバラの死体を見て俺は気分が悪くなった。あの時のゴブリンとあまり変わらないはずだが、やはり人を殺すのは慣れない。
「アラタ大丈夫?」
「なんでグラシエルは平然としてるんだ?」
おかしい。グラシエルのような女の子はこういう場面に抵抗があるはずなのに、なんで逆に俺の方が慰められてんだ?
「よく分からないけど、大丈夫だよ?」
これが異世界人の普通なのか? 異世界こえー。
俺は異世界に来て初めて戦慄した。




