2−2バルト村の異変
(誤字脱字のご報告をお願いします)
俺は一気に高度を下げて狂ったバルト村の村人と女の子の間に降り立った。
「お、お前は誰だ!」
「ただの通りすがりの旅人さ!」
驚いている隙に俺は距離を詰めて村人の一人に拳を入れる。
「グヘッ」
腹部に重い一撃を入れて、村人の一人は崩れ落ちた。
「おい、バンがやられたぞ!」
仲間がやれたのを見て他の村人もすぐに臨戦態勢になり、ナイフとか棍棒とか構え始めて俺に襲いかかってくる。
おいおい、そのまま突進とか安直すぎるぞ。村人どもの動きは単調な上遅い、リーチの短い武器で攻撃してきて俺は避けながら一人ずつの攻撃を避けて反撃をする。
「クッソ、このぉぉぉ!!」
「ふん!」
「グワァァァ!」
一人はゴブリンのように走りながら棍棒を振りかぶる、俺はサイドステップでそれを避け、カウンターを入れて蹴りを入れた。
戦いの練習にもならない。村人どもは普通のパンチと普通の蹴りで戦闘不能になる程弱い、あの殺気だけが一丁前のようだ。
「なぜまだ生贄が生きているんだぁぁぁ!!!」
「なんだ?」
突如怒号が鳴り響く。どうやら他の場所にいた村人は騒ぎを聞きつけて集まってきて、数は数十人ほどだ。そしてその中で一番ガタイのいい大男が前に出て俺を睨みつける。
「テメェーが俺の仲間を倒したのかぁ?」
「だからなんだ?」
「殺すに決まってんだろぉ! 見た感じテメェーも魔力持ちのようだなぁ、きっといい生贄になるはずだぁ」
乱暴な口調、そして極上の獲物を見つけたような目で俺のことを睨むガタイのいい大男。舌なめずりをして気持ち悪い笑みを浮かべて、大きいハンマーを構えて俺に近づいてくる。
他の村人もガタイのいい大男の指示によって武器を持ち始め、俺と少女を殺さんばかりの殺意を込めている。
数が多いな、俺一人なら大丈夫けど後ろの女の子のことを考えれると、彼女を守りながら戦うのはちょっと無理かも。そもそもコイツら自分たちの村が燃えているのに俺たちに構う余裕あんのか?
「おいおい、英雄気取りかぁ? この数相手に一体何ができるんだよぉ?」
ウザッ、なんか煽ってきたんだけど……。一気に倒したいんだけど、コイツらを一片に倒す方法か……『竜星』ぐらいしか思いつかん。
『アラタ様、威圧を使えば動きを止められると思います』
威圧って、『天空竜の威圧』のことか? 確かにそれはありかもだけど、後ろにいる女の子にも影響及ぼすんだろ? 及ぼさない方法はないのか?
『残念ながらアラタ様はまだその段階には達していません』
そうか……なら、なるべく早く終わらせよう。俺は女の子の方に振り向いた。
「今から使うスキルは君にも影響及ぼすから、少し俺から離れてくれないか」
女の子は俺の言葉を聞くと素直に頷いて、距離を取って後ろに下がった。
よし、これで準備はできた。『天空竜の威圧』を発動!
バランさんと戦っていた時とは違い、今回は意図して威圧を使った。俺から発する威圧は地面を揺るがし、空気をも震わせる。それが村人に伝わったのか、ガタイのいい大男を含めた村人どもは即座に動きを止めた。そして段々と小刻み震え出し、汗が流れ出す。中には耐えられずに泡を吹いて倒れた人まで現れた。
「て、テメェーは、い、一体何者だぁ……」
ガタイのいい大男の目に恐怖が広がり、先ほどから一転して嘲笑うかのような笑顔に恐れの感情が張り付いた。
「俺か? 俺はただの通りすがりの旅人だ」
そう言って俺は近づきつつ威圧をさらに強めた。そしてついにガタイのいい大男を含めた他の村人もついに耐えなくなり、泡を吹いて倒れた。
全ての村人が倒れたことを確認すると、俺は威圧を解除した。
《行動ミッションを達成――威圧で相手を倒す(SP+1)》
そしてミッションを達成した。
「ふー、結構疲れるなこれ」
使ってた時はなんとも思わなかったけど、解除すると一気に疲れが体にくる。気怠さというか体から力が抜けていく感じがする、やはりこれは人間が使うべきスキルではなかったかもな。
女の子は無事だ。距離を取ったおかげで影響はあまり受けなかったみたいだ。俺は女の子に近づくと女の子は俺にしがみついて離さない。よく見ると俺をしがみついてるその手が震えている、さっきのがよっぽど怖かったようだ。
「大丈夫か?」
「た、助けてくれて、ありがとう……」
女の子を心配したら彼女は震えた声で答えた。
「何があったんだ?」
「村が彼女に燃やされて、私は魔法で火を消そうとした」
「彼女? それは誰なんだ?」
「彼女は彼女、名前はない」
名前がないってどういうことだ? そもそもこの子が言ってる彼女らしき人物はさっきの村人の中にはいなかったような……あれか? 最初の村人が言ってた赤い悪魔のことか? そういえばこの子も村人から悪魔呼ばわりされてたな。まあ俺からするとあの村人どもの方がよっぽど悪魔みたいだったけど。
話を戻そう。
「そ、そうか。じゃあ君の名前は?」
「名前はない……」
「えっ? じ、じゃあなんで生贄にされたんだ?」
「それも……分からない……」
「……」
ただ言いたくないのか、それとも本当に分からないのか。とにかくこれ以上聞いても意味がないと思う。俺は彼女を連れて村を出ることにした、何か持ち物ないかと聞いたら、「ない……」と答えた。
そういえば俺はミッション中だったな。あの状況から見てこの子がミッションターゲットのグラシエルの可能性が高い。まだ断定はできないけどなんとなくそんな気がした。
その後、俺は女の子を連れて村を出た。村を出た瞬間にログが流れた。
《世界ミッションを達成――『バルト村に行ってグラシエルを助ける(SP+2)』》
やはりこの子がグラシエルか。今思えばちゃんと間に合ってよかった。一歩遅かったらミッション失敗してたかもしれない……次からは急いだ方がいいかもしれない。
そして村を出た瞬間に緊張が解けたのか、グラシエルは疲れて眠ってしまった。俺は彼女を背負って村を離れた。
彼女は非常に穏やかな顔で眠っているようだ。そういえばさっき魔法が使えるって言ってたよな、少し彼女のステータスを覗いてみよう。
[名前]なし
[年齢]16歳
[種族]白霊族
[レベル]4
[魔法適性]
火適性:E−
水適性:SS
地適性:E−
風適性:E−
光適性:E−
闇適性:E−
[スキル]
能力:『水魔法技量D−』『魔力回復B+』
一般:『水魔法D』『魔力操作C+』『魔力感知C+』
本当に名前がない、でもこの子は確かにグラシエルのはずだ、ミッションが間違えるはずがない。一体どうなってんだ?
ていうか十六歳? 本当に? 失礼かもしれないけど見た目は中学生だぞ、完全に子供だと思ったんだけど。
『アラタ様、彼女は人間ではありません』
えっ? あっ、本当だ、完全に見落としてた。種族の欄に『白霊族』って書かれている、バハムート、なんの種族か分かるか?
『いえ、聞いたことがありません』
俺もないな。少なくとも俺の設定にはなかった種族のはずだ。その種族の影響で幼く見えるのか、にしても水魔法適性高過ぎじゃない? スキルも全部魔法系だ。正直に言ってちょっと羨ましい……。
まあそれらは置いどくとして、問題なのはーー
「俺はこの子をどうすればいいんだ……?」




