2−1世界ミッション開始
第二幕突入です。
(誤字脱字のご報告をお願いします)
――バランさんとの手合わせをした次の日。
このまま別れを告げて村を出ようとしたけど、旅をするに必要なお金がないことに気づいて、そのことを相談するためにガラムさんのところを訪ねた。
「お前さん……本当にどうやって旅するつもりだったんだ?」
ガラムさんは呆れた様子だった。
「お金なら、俺に見せた巨牙虎の素材を村の雑貨屋に売ればいいんじゃないか?」
素材を売るように言われ、俺は村の雑貨屋を訪れた。ちなみにガラムさんからはバッグを貰った。結構高級そうなバッグだったけど、ガラムさんはバランさんを助けたお礼としてそれをくれた。
そして「絶対に魔物の素材をそのバッグに入れてから店に行け」と釘を刺してきた。よく分からなかったけど、俺はとりあえず言われた通り巨牙虎の牙とか売れそうな素材をバッグに入れた。
店の中に入ると世にも珍しいピンク色の髪の少女が仮面を被って一人でカウンターにいた。どうやらこの怪しい少女が店番らしい。
店に陳列されている商品を見てみると、回復薬とかポーション系の商品が並べられていて、それ以外だと道具類と少女が被っているのと同じような民族的なデザインをした仮面がある。つまりあれは宣伝の一環なのだろうか?
「何をお探しですか?」
店の中を物色していると少女に話しかけられた。
「魔物の素材を売りにいたんですけど……」
「魔物の素材ですか? 見せてもらっていいですか?」
俺はバッグから素材を取り出し、机の上に並べた。
「これは巨牙虎の牙……」
「どうですか?」
「そうですね、この牙でしたら5200Gで買い取ります」
5200Gがどれぐらいの価値あるのか分からない。まあお金がないよりマシか。
「それでお願いします」
「それ以外に何かありますか?」
うーん、ここで全部売るべきか……別にこの少女を信用していないわけではないけど、変というか、さっきからこの少女にどこか不思議なオーラが纏っているように見える。仮面とか関係なく、その雰囲気自体が一般の人にはないような感じがする、俺の気のせいなのかな……?
『いえ、我にも感じます。この少女は只者ではありません』
やはり?
「ふふ、どうなさいましたか?」
「あっ、いえ、なんでもないです」
少女の声で考え事を中断し、俺は少し迷ったがバッグの中の素材を取り出した。
《行動ミッションを達成――初めてお金を稼ぐ(SP+1)》
結局俺はバッグの素材を全部売った。特に牙は高く売れて、手に入ったお金は合計で1万3420Gだ。そしてこの世界のお金は金貨一枚が1000Gの価値、その次に銀貨一枚が100Gの価値、そして最後に銅貨一枚が10Gの価値があるというのが分かった。
このまま買い物でもしてみるか。実は民族的なデザインをした仮面に少し興味がある。別に中二病とかそういうのじゃなくて、ただカッコいいから欲しいだけ。
数多くあるデザインの中から一つを選ぶとすると……そうだな、この黒いのにしよう。
「この仮面はいくらですか?」
「ふえっ、仮面ですか?」
滅茶苦茶少女に驚かれた。俺が仮面を買うのそんなに驚くことなのか?
「えーと、仮面は……2000Gだと思います?」
思います? 大丈夫かなこの店番、自分の店の商品の値段はしっかり覚えてな。とりあえず俺はさっき手に入れたお金を使って黒い仮面を購入し、それをバッグの中に入れた。
「ありがとうございました」
そしてお礼を言って、店の外を出ようとしていた時にーー
「ふふ、ではまたお会いしましょう、アラタ様」
後ろから少女の言葉が聞こえた。えっ、今、俺の名前を言わなかった……? 急いで振り返ってみると、既に少女はそこにいなかった。
「……あれは……なんだ?」
※
「お世話になりました」
「いつでも帰ってこい、ガラ村はお前さんを歓迎する。そうだ、もしベルドリンの街を目指すのなら、その道中にあるバルト村、なんというか、あの村は危険だからあまり近づかない方がいい」
「バルト村、分かりました。忠告ありがとうございます」
結局あの少女の正体が分からないままガラムさんたちに別れを告げて村を出た。
《チュートリアルミッション『ガラ村の問題を解決する(SP+2)』を完了――世界ミッションが開放しました》
「……えっ?」
村を出た瞬間にログが流れた。いつものミッション達成とは違い、今回は新たに世界ミッションというものが出てきた。
《世界ミッションを開始しますか?》
これは、本格的にゲームみたいになってきた。世界ミッションということは、メインストーリー的な? まあ、特に目的ないから開始してみよう。
《世界ミッションを開始――『バルト村に行ってグラシエルを助ける(達成時SP+2)』》
ガラムさんに忠告されたばっかの村に行けと……そしてグラシエルって誰なんだ? 情報なさすぎじゃないか? 仕方ない、とりあえず場所は『地図』で確認してみよう。おっ、なんと『地図』に行くべき方向が示されている。
ふむ、『地図』を見ると、どうやらバルト村はここから約二十キロメートル先のところにある。まあ、別に急ぐ必要もなさそうだから『飛行』を使わずにゆっくりと歩いてバルト村を目指そう。
その後、特に大きなイベントもなく俺はひたすら歩き続けた。道中何体か魔物に絡まれたけど、この一帯の魔物は大した脅威にならないから戦闘らしい戦闘はせずに全部『空力斬』で一撃ワンパンしている。
体感的に五時間経ったところか、空が段々と暗くなってきた。浮空本島で経験したから、夜の森は怖いと知っている。だから俺は暗くなる前にスキルショップで『夜視』スキルを交換した。これにより夜の森の中でもハッキリと周囲を見渡せるからなんの心配もない。
『アラタ様、前方を見てください』
「前方?」
なんかあんのか? バハームトに言われた通り前方を見ると森の向こうに煙が登っていた。あの方角はバルト村の方じゃないか? もしかしたら火災が起きているかもしれない。
俺は急ぐために『飛行』を使った。
村上空に到達すると、バルト村全体が火に包まれていることに気づいた。
「なんでこんなことに......」
あれは? 火に包まれても村の中心に人集りができていた、助けたいけどガラムさん曰くこの村は危険らしいから、まずは少し高度を下げて近づいてみるか。
近づくと村人の怒号が聞こえてきた。
「クソが、生贄が一体逃げた挙句に村まで燃やされるなんて!」
「幸いもう片方の生贄は逃げられなかったようだ」
「はやく生贄を殺して捧げないと蛇神様に天罰下されてしまうわ!」
なるほど、ガラムさんが危険と言った理由が分かった。これは完全に危ないカルト村じゃないか!
「ど、どうして......わ、私は、水魔法でみんなを、助けようと、したのに......」
うん? 一人違うのが混ざってる。あれは、白い髪をした女の子だった。彼女は怯えた顔を見せ、震えていながら詰めてくる村の人から離れようとしている。
「黙れ、この人の形をした悪魔め! あの赤い悪魔のせいでこの村が燃えたじゃねえか!」
「ち、違う! 彼女は......」
「そうだそうだ! 生贄の分際で俺たちの村を滅茶苦茶にしやがって!」
「早く殺しましょ、そうすればきっと蛇神様が助けてくれるわ」
「こ・ろ・せ! こ・ろ・せ! こ・ろ・せ!」
はっ、いけない、あまりにも酷い光景で脳がフリーズしかけてた。そうだ、このままだとあの女の子が危ない、早く助けにいかないと。でもこんな頭おかしいヤツらに顔見られたくないし、ガラ村で買った黒い仮面を被てみよう。
ちょっと視界が悪いけどなんとかなるだろう。
「さて、正義執行の時間だ」




