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空想世界の転移旅 ー防御脳筋こそ最強ー  作者: 寝ないネコ
第一幕 始まりの冒険編
22/41

間話 とある女性の受難

オルビアさんの視点です。


(誤字脱字のご報告をお願いします)

 ここはアルベメリタ王国の辺境にあるガラ村。今日はオルビアの一週間に一回近隣のオルアレンの森に行って薬草と食材を採取する日だ。オルビアは薬草学を持っているため村の中で唯一薬草を見分けられ、薬草を採取できる貴重の人材である。


 そしてそのオルビアの朝は早い。朝五時に起きて、朝六時で既に外出の準備をしていた。





「今日は何が取れるかな」


 私は村を出て、オルアレンの森に向かった。今日は偶然にもバランさんたちの狩猟の日、もしかしたら森で鉢合わせするかもね。


「うーん、いい天気」


 雨降らなくって良かった、前回採取する時に大雨が降って大変な目にあったから、少し準備したけどどうやら必要なかったみたい。


 私はいつも通りに同じ場所の森の入り口から森に入り、少しずつ奥へと進みながら目ぼしい食材と薬草を探す。


「今日はやけに静かだね……」


 いつもだったら赤眼鹿とか、角兎とかに出会うけど、今日はまだ見かけていない。何があったのだろう、少し不気味……。


「嫌な予感……」


 私は体に寒気を感じながら、森の奥へと進む。




「はぁはぁはぁ、誰か! 誰かいませんか!」


 後ろには巨大の熊が追いかけてきて、私は必死に助けを求めて走りながら叫ぶ。


 お父さんの話だと森の王は山奥に住んでいるはずなのに、なんでこんなところにいるの!? 


 必死に逃げるけどもう足が限界、でも逃げないと殺される。とにかく走る、既に何かを気にする余裕もなく、ひやすら村の方に向かって走り続ける。


 後ろの森の王との距離は離さないと、魔物の食事になるなんて嫌だ! 頼むから、バランさん、お父さん、誰か……。


「ーーッ!?」


 しまった、今一瞬左足に違和感が……このままでは転んでしまう。


 私は左足を気にする余裕もなくひたすら助かる方法を考える。この先だ、もうすぐ茂みが多いところに行ける、そこなら隠れられるかも知れない。


 それからようやく私は茂みの多いところに辿り着き、隙を見て草むらの中に隠れた。


「はぁはぁはぁ、ここなら……大丈夫……」


 ずっと走ったせいで乱れた呼吸がなかなか回復してくれない。走った汗なのか恐怖に対する冷や汗なのか分からないけど……とにかく気分が良くない。なんで私がこんな目に……心細くて泣きそう……。


 でも、これで助かるはず。早く村に戻ってみんなに知らせないと……。


「う、嘘……」


 まだ森の王は去っていなかった。まだ諦めずに私を探しているみたいで、周りをキョロキョロしている。


「えっ」


 森の王が私に近づいてきた。ま、まさか匂いでバレた……?


「グォォォォン!!!」

「――ッ!!」


 森の王が咆哮して私に近づいてくる。


「キャァァァァ!!」


 もう無理! あまりの恐怖で私も堪らず叫びを上げてしまった。これは……終わった……。


 


「私はここで死ぬの……?」


 走る体力が既になく、私はジリジリ詰めてくる森の王に対して一歩ずつ下がることしかできなかった。


 森の王に睨まれて、死を覚悟していたら一人の男が急に現れた。


「助けにしました、下がってください」


 その男は私を助けにきたようだ、私はその言葉に安堵して地面に座り込んだ。


 そしてその男はーー


「突進ダイレクトアタック!!」

「えっ? えぇぇぇぇ!!」


 なんとその男は森の王にそのまま突進した。


 ドォォォォン!!!


 一人の人間が魔物にぶつかったとは思えない音を出して森の王は後退りした。突進で森の王を動かせるなんて、一体この男は何者なの……。


 男の見た目は若く、この一帯では珍しい黒髪黒目をしていて、森の王と睨み合っている。


空力斬(エアー・スラッシュ)


 男が腕を振りかざすと何か透明なものが飛び出して森の王に命中した。今のは魔法……? こんな魔法聞いたことがない。男の攻撃が森の王の頭の肉を抉った、剣すら通らない森の王に傷を負わせるなんて、この男は凄腕の冒険者なのだろうか。


 危ないっ! 男が複雑な表情を浮かべている時に森の王がその爪で横払いした、男は間一髪に後ろに下がり再び透明な何かを放った。


 しかし男は止まらなかった。腕を振るう度、透明な何かを放つ度に段々と苦しい顔になってきて、ようやく攻撃が終わったと思えば今度は自分の腕を痛そうに押さえた。すると男の腕は緑のモヤらしきものに包まれて、そのモヤが消えたら腕を動かせて確認する。


「今のは……回復魔法?」


 休む間もなく、男が距離を詰めた。


「えっ、森の王と格闘……?」


 私は夢を見ているのかしら。殴って蹴って、男は森の王と格闘している。森の王と格闘できる人間なんて見たことがない……その頑丈の甲殻に覆われた肉体にはいかなる攻撃も通さず、森の王によって壊滅した村も沢山ある。


 私の村、ガラ村は森には近いけど、森の王は基本的に深き山の奥に住んでいて、森の方には滅多に近づかないからその心配はなかったのに。


 そんなことを考えていたら男は何かを思い付いたのか、一度透明な何かを森の王に放った。そしてそれを放った瞬間に男は森の王の側面に回って再びそれを放った。


「何をしているというの!?」


 男は森の王の周囲をグルグルと回り続け、ひたすら透明な何かを放ち続ける。攻撃を受けた森の王は首から血を流し、その動きも鈍くなってきている気がする。


「グォォォォンッッ!!!」


 森の王が突然雄叫びを上げて両腕を地面に強く叩きつけた。少し離れていた場所にいる私にもその振動が伝わってきたけど、男はバランスを崩すことなくまた透明な何かを放った。


 そして程なくして森の王の首がーーまるで斬られたかのように落とされた。


 あまりにも信じ難い光景を見た私は言葉を失った……。




「おーい、大丈夫ですか?」

「あっ、はい。助けていただきありがとうございます!」


 ボーとしていたら男が話しかけてきた。この距離で良く見ると男は端正な顔をしていてなかなか悪くない……。って、今はその場合じゃない。


「あの……冒険者の方ですか?」

 

 森の王を倒せる人なんて、きっとこの人は有名な冒険者さんだと思う。しかし予想は外れた。


「いえ、俺は世界を旅している人です」


 私の聞き間違いなのだろうか、男から旅という言葉が聞こえた。


「旅ですか……それは珍しいですね」


 ここ一帯は何もないはずなのに……。こんなところを旅する人なんて、もしかして嘘をつているのかな……? いや、あの強さを持っている方になんて失礼なことを! きっと何か目的があるはず、私の命の恩人だし、うん間違いない!


 その後も男と少し会話を続け、途中ちょっと興奮してしまったのが少し恥ずかしい……。あっ、そうだ、採取したものが! あぁぁぁ、森の王から逃げることに必死すぎてどっか置いでっちゃったよ……。


 私はダメ元で男に護衛を頼んだけど、男は快く引き受けてくれた。そして男はなんと回復魔法まで使えて、私の怪我を治してくれた。いい人で良かった、逆に私がちょっと邪念があったけど……。


 気を取り直して私は採取を再開した。途中で分かったのだけど、男はアラタという名前らしい。


「少し下がってください」


 アラタさんに色々採取した食材とか薬草とかを教えていたら急に真剣な顔になって私にそう告げた。


「どうしましたか?」

「この先に魔物がいます」


 えっ、そんなことまで分かるの? 私は何も感じないのに……。


 アラタさんについて行ったら見えてきたのは大角野牛グレート・ホーン・バイソンだった。


「あれは……」

大角野牛グレート・ホーン・バイソンですね。危険な魔物ではないのですが、あの角に突かれたら成人男性でも重傷は免れません。肉は非常に柔らかくて、村でも特別の祭りの時でしか食べられません。刺激さえしなければ襲ってこないのですが、なかなか出会えないので珍しい魔物です、これは幸運ですよ!」


 今日は色々災難だったけど、これは本当に幸運なこと! 


「倒した方がいいですか?」

「はい、せっかくなんで倒して村に持ち帰りたいのですが、一般的には村の男三、四人がかりでようやく倒せ……「空力斬(エアー・スラッシュ)」……ち、ちょっと!?」


 私が言い終わる前にアラタさんが苦労もなく大角野牛グレート・ホーン・バイソンを倒した。


「い、一撃ですか……」


 驚くことしかできない。よくよく考えてみれば、一人で森の王を倒せる人が大角野牛グレート・ホーン・バイソンごときに苦戦するはずもないか。しかし、一つ問題が発生した。


「倒せたのはいいんですけど、どうやって村に持ち帰るつもりですか?」


 大角野牛グレート・ホーン・バイソンはサイズが大きく、男数人でも動かすのが精一杯ほどに重い。そんな魔物をいくらアラタさんでも……。


「こうすれば問題ないですよ」


 彼は軽々と大角野牛グレート・ホーン・バイソンを持ち上げた。もう……驚くのも疲れた……。この人には常識が通用しないかもしれない……。私は考えるのを諦めた。




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