1−18永久追放
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「で、コイツらが一連の騒動の暗幕で、バランを闇討ちしようとしたと?」
次の日、俺はあの三人を連れてガラムさんの所まで向かった。ガラムさんは「何事だ?」と怪訝の顔を見せ、俺は昨晩のことを話した。
「はい、暴食熊を連れてきたのもこの三人です」
「まあ、それは分かったが……なぜコイツらがこんなにもお前さんに対して従順なんだ?」
「それは俺が奴隷術を使ったからです」
「すまん、もう一度言ってくれ」
「奴隷術を使いました」
ガラムさんはほんの少しだけフリーズして、大きいため息をして頭を抱えた。
「はぁぁぁ、なぜお前さんが奴隷術を使えるのはまた後で聞くとして、コイツらがバランを闇討ちしようとしたのは本当か?」
「証拠はないんですけど、昨日尾行した時に後ろからナイフで刺したと聞きました」
「尾行って、お前さんの行動についても色々問い詰めないとな……まずはバランの件だ、今から診療所の所に行き、闇討ちのことは本人に聞いた方が早い」
「村長、その必要はないよ」
この場ではない誰かの声がして、俺たちは声がした方向に目を向けた。
「バラン……お前、起きたばっかだろ、もう少し寝てた方が……」
「心配しすぎだよ、もうこの通りその旅人のおかげで完治したから」
来客はバランさんだった、まだ顔色は悪そうだが、死にかけの時で見た姿と比べて大分良くなっている。こっちの三人はバランを見ると段々と顔色が悪くなっているけどな。
「君がオルビアが言ってた旅人か、君は俺の命の恩人だ、本当に感謝するよ」
バランさんはそういうと、頭を下げた。
「バラン、病み上がりで悪いが、一つお前に聞きたいことがある」
「あぁ、分かってるよ、アルフたちが俺のことを刺したことだろ? それは事実だよ、あの日、俺は森の王と戦ってた時に背後からナイフで刺されたんだ」
「そうか……それは、残念だ……。まさかこの村にこのようなことが起きるとは、一番あってはならないことが起きたとは……」
「村長……」
ガラムさんは怒りと悔しさの感情が入り混じって、目をスッと閉じた。
「旅人よ」
「なんですか?」
突然呼ばれた。
「お前さんはコイツらに奴隷術を使ったんよな」
「はい」
「そうか、つまりお前さんがコイツらの主人になったわけだ。ならば、お前さんがコイツらを処分する権利を持っている、お前さんはどうしたい?」
つまり、それは俺がコイツらを焼くなり煮るなり自由ってことか、いても邪魔なだけだしな。
「奴隷契約の権利を村長さんに渡し、その処分を村長にしていただきたいです」
「いいのか?」
「だって俺には実害もなんもないですし、一番被害を受けたのはこの村なわけですから」
「そうか……分かった。奴隷契約の権利を譲ってくれ」
俺は三人の奴隷契約を村長に移し、その瞬間に三人との間にあるリンクが切れたような気がした。
奴隷契約が渡ったのを確認し、ガラムさんはゆっくりと口を開けた。
「確かに受け取った。アルフ、ブレッドそしてダン、このようなことになってしまったのは本当に残念で仕方がないが……お前たちはーーこの村から永久追放だ」
三人がガラムさんから告げられたのは生まれ育ったこの村からの永久追放だった。
「奴隷契約によって命じる、今すぐにこの村から去り、村からいかなる物を持ち出すことを禁じ、そして二度とこの村を立ち入ってはならない、反論も認めない、以上だ」
三人は何かを訴えようとするが奴隷契約の命令によって喋ることができず、ただガラムさんの静かな宣告が聞こえるだけ。
「色々助かったよ、アラタさん」
「いえ、本当にたまたま通りかかっただけですよ」
その後アルフ、ブレッド、ダンの三人が意気消沈の姿をしながら村から出て行ったことを確認すると、バランさんが俺に話しかけてきた。
「それにしても、アラタさんは本当に強いな」
「えっ? どうしてその話を……」
「オルビアから聞いたよ、単独で森の王を倒したって」
「それは……」
「最初は信じられなかったけど、オルビアは嘘を言う人じゃないし、村長も認めていた。そして自分の目で見て、俺は確信したんだ」
「……何をですか?」
にこやかに笑っているけど、正直話が見えてこない、何を考えている……。
静まり返る場にバランさんは俺に告げる。
「一回手合わせを願いたい」
穏やかの雰囲気が一気に消え、その目の奥には闘志が燃えているのが見えた。
「急に何を……」
「俺はこの村では一番強い男だった、だが森の王と相対した瞬間にそれは驕りだと知らされた。アルフのナイフが無くとも、俺は恐らくあの化け物には勝てなかっただろう」
「はぁ……」
「俺は今、初めて自分より強い人と出会ったんだ。森の王にも勝るアラタさんの実力を、俺はこの身で体験したい」
「……」
いや、正直反応に困る……。俺対人経験ないし、暴食熊を倒したのも『空力斬』のおかげだしな。
「どうかな?」
多分嫌だって言っても関係ないよねこの人、やる気満々なんだけど……。いや、逆に考えると、これは俺にとっても初めての対人チャンスなのでは? やってみる価値はある。
「分かりました、引き受けます」
「そうか! それは良かった、では今から俺の訓練地に行こう!」
えっ、今から!? 有無を言わさずに俺はバランさんに連れられて村の離れの空地まで来た。バランさんはいつもここで剣の訓練をしているそうだ。見た感じなんもないけど、ここには長年の努力が詰まっている場所らしい。
ただの手合わせとはいえ、初めての対人に少し緊張している。
「では、ルールは先に一撃を入れられた方の負けだ。早速始めよう」
バランさんの合図で戦闘が始まった。
バランさんは木の剣を構えて俺との間合いを測っている。ステータスは総合的に俺の方が上だが、熟練度や戦闘慣れは間違いなくバランさんの方が上だろう。防御脳筋があるからバランさんは俺にダメージを与えることこそないと思うが、俺はこの戦いを糧に、更なる成長を遂げたい。
「来ないのですか?」
いつまで経っても仕掛けにこないバランさんに疑問を投げかける。
「そうしたいのも山々だが……そっちこそ全く隙がないどころか、放っている威圧で全く近づけない……」
威圧? なんのことだ、そんなことしている覚えないけど。
『恐らくですが、主は無意識的に天空竜の威圧を発動していると思います』
えっ、マジで? 俺そんなことしてたのか、えーと、こうやってオフするのか。意識して威圧を止めた。
「なるほど、威圧をも自由自在に操れるのか……流石だな、アラタさん。だが、手加減してくれたことを後悔するなよ!」
バランさんはいきなり距離を詰めて俺の目の前まで迫り、その剣を振ってきた。早いだが避けれないことはない、それを避けたら今度は横はらいで斬ってきた。ひたすら攻防の応酬を続ける。
これが対人戦か、魔物との戦闘感覚とは全くの別物だ、なんというか、人の方が洗練されていて、防御脳筋があったとしても斬られてはいけない気がして油断ができない。
「結構楽しいですね」
「はっ、この状況を楽しんでいるのか!」
一旦離れて間合いを取り、お互い乱れた息を整える。
「アラタさん、今から俺は自分が持つ全てを出します、手加減なしにだ」
「あぁ、俺も全力で受け止めます」
バランさんは息を吸い込んで、一気に加速して間合いを詰めた。
「はっ!」
「ーーッ!?」
速い! さっきよりも剣が鋭くなっている、伊達に巨牙虎を討伐できるほどの実力を持っていない!
横払いの次に縦斬り、一連の攻撃が終えるとまた次の連撃が襲いかかる、反応する暇もなく、一瞬の油断が隙に繋がる。
どうやらこっちも全力で応えないとな! 甘く見て悪かったな、これが俺の全力だぁぁぁ!
「全力パンチ!!!」
ドォォォン!!
「うぉぉぉ!!!」
俺が放ったパンチをバランさんは急いで木の剣でガードしたが衝撃を殺しきれずに吹っ飛ばされた。
「大丈夫ですか?」
バランさんのとこに駆けつける。この人が元重傷者だったことを完全に忘れてた。
「俺の負けだな、剣が真っ二つになった」
倒れているバランさんを見ると、彼は満足げに笑みを浮かべていて空を見つめていた。手に持っている木の剣は半分に折れていて、上半分が無くなった。
「いい戦いだったよ、アラタさん」
負けたにも関わらず、明るい笑顔でそう言ってくれた。
《行動ミッションを達成ーー対人戦をする(SP+1)》
「ああ」
全く、なんて人だ。でもまあ......俺も、本当に楽しかった。




