0−1ようこそ異世界へ
目指せ100話超え!
(誤字脱字のご報告をお願いします)
「俺は夢でも見てんのか……?」
目覚めると、空には大きな月があった。
別に昼間に月が見えるのはそこまで珍しい現象でもない。
だが問題はそこじゃない。
空には二つの月がかかっていた。一つは鮮血のような赤色に染まり、もう一つは海のような鮮やかな青色をしていた。
これまでの経緯を説明しよう。
俺は連日の徹夜で精神肉体が限界を迎え、ようやく休憩時間を取れて一休みしようとして俺は寝てしまった。しかしフッと目が覚めたら既に森にいた。
おかしい、何かがおかしい。これはまるで俺がどこかに転移したみたいじゃないか。
とりあえず夢かどうかを確かめてみる。
目を閉じてはまた開く、景色は変わらず。
頬をつねてみる、痛い。
高くジャンプしてみる、着地した。
「うん、こりゃもうご立派に転移したようだな」
冷静に分析してみた。って、違う! 何冷静になってんだ!
多分俺は異世界に来ちまったんだぞ、い・せ・か・い!
「はー、ふー、はー」
とりあえず、深呼吸をする。
今度こそ冷静にならないと。
周りを見渡す。どうやら俺は森の中にいるようだ。
上空にある二つの月を除けば意外と地球と似たような感じの風景になっている。空も青いし、雲も流れている。心なしか地上と少し距離が近いように見えるが……気のせいだろ。
「しかし異世界転移ときたか」
もちろんそういう妄想はしたことがある。引きこもり中二病の俺は当然したことがある。
だから転移自体はもうなんとも思わん、転移自体は。
そうだ、例のアレを試してみよう。
異世界ならではのアレ!
「ステータスオープン!」
[名前]アラタ
[年齢]18歳
[種族]人間
[レベル]1
[魔法適性]
火適性:E−
水適性:E−
地適性:E−
風適性:E−
光適性:E−
闇適性:E−
[スキル]
補助: 『スキルショップ』
本当に出てきた……。パッと俺の目の前に透明な画面が現れた。
「……なんだよこれ」
自分のステータスを見た俺は言葉を絞り出すのがやっとだった。
いや、ツッコミどころが多すぎる。なんか名前が下だけになっているし、年齢も若くなっている、というか18歳とか詐欺にも程があるだろ!? 俺はとっくに成人しているんだけど? そして魔法適性が低すぎ! 全部最低ランクじゃないか! というか一つだけスキルを持ってんな、この『スキルショップ』ってのはなんだ?
『スキルショップ』
現在あるSP:0
現在交換できるスキル一覧
補助:なし
特殊:なし
能力:『瞬足E−(SP1)』
一般:『採取E−(SP1)』『伐採E−(SP1)』
スキル一覧を更新:SP1
なんて言えばいいのか。スキルの店として考えればいいのか? 異世界初心者向けの親切設計というか表示されているスキル少なっ……。
もういいや。
ここまでくると、なんというか……ちょっと混乱しそう。
だって急に一人で森に放り出され、食料も水もない状態でどうやって生き残れっていうんだ。
せめてここは神様仏様からとんでもないスキルや能力をいただくのがセオリーなんじゃないのか? スキルショップはあってもSPが無ければ意味がない。
分かるかい? 俺の今置かれている状況を。
この丸腰の状態だと野生の熊とか野生の狼とかに出会ったら間違いなくゲームオーバーの一直線だ。せめてこの森から抜け出さないと。
とりあえずこの森にいる得体の知れない生物たちを刺激しないように音をたたずに歩き出した。
しかし四方八方森が広がっていて、少しでも気が緩むと迷子になってしまうだろう。
歩き出してからどれぐらい経ったんだ? マジで分からない。せめてあの時、時計でも身につけておけば……今さら後悔しても意味はないが。
いや、ていうかここは異世界だ、時計があったところで役に立つのか?
とにかく今は森を出ることに集中しよう。
もう体感的に一時間は歩いた気がするが周囲の景色は相変わらず森一色だ。
「出口が見えない……」
どんだけ広いんだこの森は……歩いても歩いても終わりが見えない。
それはまだいい。問題なのはこの静けさだ。
動物どころか、鳥のさえずりすら聞こえない……。
風に煽られ、木々が囁くように葉擦れの音を出す。異質すぎる、まるで世界に取り残されたような孤独感だ。
一瞬この世界には生物なんて存在しないのではと考えてしまったが、余計に精神が狂いそうだったので途中から考えるのをやめた。
ガサガサ
うん? なんか聞こえてきた。
未知な正体に対する恐怖を忘れ、ただ自分以外にも生き物がいるかも知れないという喜びを優先してしまった。
ゆっくりと音が鳴った方向に進む。
生い茂っている高い草をどかし、見えてきたのが巨大な影だった。
なんだあれは!? 熊にしてはデカすぎるだろ!
見えてきたのが通常の二倍サイズはあろう熊だった。
ヤベェよヤベェよ、これは見つかったらデスだな。
浮かれて警戒心を忘れてしまうなんて、失敗失敗。
とにかく気づかれないようにさっさと逃げよう。
パキッ
「あっ……」
※
俺は今、未だかつてない全速力で逃げている。
えっ? 誰からって? はは、そりゃもちろんあの熊さんだ。
うっかり木の枝を踏み折れ、俺はバッチリあの熊と目があってしまったんだ。
「グォォォォン!!!」
「ひぃぃぃ! あの怪物がまだ追っかけてきやがる!」
背後から激しい息が聞こえる。
「死にたくない、死にたくない、死にたくない! か、神様仏様頼みますよ、さっき文句を言って本当にすみませんでした! 誰か助けてくれぇぇぇ!!!」
必死に助けを求めても虚しく、返事はなかった。
神などいなかった。
もうダメかと思ったその瞬間、奇跡が起きた。
《行動ミッションを達成ーー魔物から逃げる(SP+1)》
「……はっ?」
思わず声が出た。
急にゲームに出てくるようなログが目の前で流れ出した。
なんかミッションを達成したからSPをくれたみたいだ。
おー、ディア・マイ・ゴッド。肝心な時はやはり助かりますね! 確か、スキルショップに『瞬足』があったよな、開けスキルショップ!
『スキルショップ』
現在あるSP:1
現在交換できるスキル一覧
補助:なし
特殊:なし
能力:『瞬足E−(SP1)』
一般:『採取E−(SP1)』『伐採E−(SP1)』
スキル一覧を更新:SP1
もちろんこの状況はどう考えても『瞬足』を選ぶしかない。もうこんな怪物と追いかけっこするのは勘弁してくれ。
するとまたログが流れた。
《スキル『瞬足E−』を習得しました》
「うぉ!?」
スキルを習得した瞬間に走るスピードが速くなった。
いけるぞ、これなら引き離せるぞ!
「はぁはぁはぁ、し、死ぬ……」
なんとか熊から逃げ切れ、俺は地面に倒れて休憩をとる。
「こ、怖かった……あの熊、夢に出てきそう」
もはやトラウマになりかねないチェイスをして、俺の膝はまだガクガクと震えている。
一旦休憩をしてから俺は先程の出来事について考える。
まずここが異世界であるというのは紛れもなく事実、そして何やらこの世界にはレベルという概念があり、スキルというシステムが存在する。実際スキルを獲得してから、俺の走るスピードは間違いなく速くなった。
幸いあの熊は図体がデカいせいか、スピードはあまり早くはなかったようだ。でないとこのスキルを獲得したところで追いつかれてしまっただろう。
それはさておき、ちょうど今森の出口が見えてきたところだ。
ようやくこの森とおさらばできる。
俺は回復したばかりの体力を振り絞って最後のダッシュを決めた。
まるで奪われた自由を取り戻すかのような踏ん張りをした。
そして森を出て、見えてきた景色とは……。
「な、なんじゃこりゃぁぁぁ!!!」
目の前には大地ではなく雲海が広がっていた。