1−16不穏な動き
遅くなりました、申し訳ございません。
(誤字脱字のご報告をお願いします)
祭りの賑やかな雰囲気も無くなり、村全体が静まり返る。昼間は色々あったけれど、それは突如現れた一人の旅人により解決された。そしてその旅人が深い眠りについているところで、村の入り口には三人の男が集まっていた。
「クソッ、やっとバランの野郎を殺せたと思ったのにっ!」
背が高い男が不機嫌そうに言葉を吐く。
「シー、静かにしてよ、アルフ。聞かれたらどうするんだよ」
小太りの男が咎める。しかし背の高い男アルフは落ち着くどころか更に不機嫌さが増し、手に持っている松明を握る力が強まる。
「チッ、俺らを集めたのはいいけどよ、なんかいい案あんのか、ダン?」
「で、でも俺たちが命かけて連れてきた森の王すら倒されたんだぞ、他に何ができると言うんだ......」
「あ゙ぁ? テメェー、まさかせっかくここまでやってんのに今更諦めろとか言わねえよな?」
背の高い男アルフはリーダーであるダンに話しかけたが、小太りの男は今更何をやっても無駄だと消極的になっている。それに対してアルフは苛立ちを隠せない。
「落ち着けアルフ……俺たちが言い争っても意味はない。村長は森の王は倒されたと言ったが、実際のところまだ誰もその死体を確認できていない」
無言だったリーダーのダンが口を開く。
「......何が言いたい?」
「俺が思うにはそれは村長が村の人を落ち着かせるためのデマだ、恐らく森の王は今でもあの森で彷徨っている」
「し、しかしオルビアちゃんはあの余所者が森の王を倒したって証言したらしいが……」
「ありえん、森の王の力は俺たちも目の当たりにしたはずだ。あれは到底一人で倒せる魔物ではないぞ」
リーダーであるダンは自分の推測を二人に伝える。それを聞いたアルフもダンの推測に一理あると判断して頷いた。
「ふん、そもそもあの余所者がいなければ俺らの目的は達成できたはずだ、全く忌々しい」
「ああ、まさか回復魔法が使えるとは……」
「無駄話はそこまでだ、あの時は余所者に邪魔されたが、次こそは成功させる」
三人は誰にも気づかれることなく静かに村を出て、オルアレンの森へと向かった。
※
『主、起きてください』
「う……」
なんかバハムートの声がして、俺は夢の世界から戻された。目が覚めるとまだ辺りは暗く、外を見るとまだ月明かりが地面を照らしている。
「まだ夜中じゃないか……どうしたの……」
『急に起こしてすみません、実は……』
俺はバハムートから詳しい事情を聞く。
「なるほど……」
めんどくさいと思いつつベッドから出て外出の支度をし始める。
あの三人組、こんな夜中に何をするつもりだ。
バハムートによると彼らは既に森に向かったらしい、ここはあとを追って確認をしてみよう。
俺はマップを開いて三人の方角を確認して『飛行』を使った。三人はまだ森の入り口にいるらしい、数分もしない内に追いつくだろう。
「う〜、寒い……」
夜は冷えるな……薄着をしてるせいで風邪ひきそう……。
「そもそも、どうやってアイツらの行動に気づいたんだ?」
『私は気配に敏感ですから、主の中にいても周囲の気配を感じることができます。元よりあの三人の男は主に対して悪意を持っていましたから、気配を探るのは簡単でした』
「それは助かったな」
『役に立てて良かったです』
そんな会話をしていたら気づくと森に着いたようだ。
「マップによるとこのすぐ先だけど」
目視で上空から森を探してみる。いたいた、見つけたぞ。アイツらが持っている松明がよう目立つ、上空からすぐに見つけることができた。俺は静かに地面に降り立ち、音を立たずに三人を尾行する。
《行動ミッションを達成ーー他人をストーキングする(SP+1》
おい、ちょっと待てい。久々の条件達成だけどなんだこれは、完全に俺のことをストーカー扱いしてないかい? いや間違ってないけど間違っているよな、バハムート?
『...... 誰にも気づかれてませんので、セーフだと、思います!』
うん、慰めになってないぞ、それ。
もういいや、気晴らしにスキルを交換しよう。おっ、状況にピッタリのがあるじゃないか、『隠密』を交換しよう。
《スキル『隠密E−』を習得しました》
これで多少早く移動しても大丈夫になった。早速三人に近づこう。
近づくと三人の会話が聞こえてきた。
「本当にまだ森の王がいるのかな?」
「あの余所者を見ただろ? あんな弱そうなヤツが森の王を倒せるわけがない、俺を信じろ」
「そうだ、きっと村長のデマに違いねえ」
どうやら三人は暴食熊を探しているようだ。あと真中の野郎、お前のことは覚えたからな、確かに俺は弱そうに見えるけど、言っていいことと悪いことがあるんだぞ。
「バランのヤツはもう回復しただろうな、目が覚めた時は俺らの終わりだ」
なぜここにバランさんの話が出てくるんだ?
「俺がナイフで後ろから刺したことをバラされる前に、何とか森の王を見つけ出さねえと……クソッ、せっかく深き山から連れてきたのに」
「もう次期村長の座は望めん、ならばいっそう村をぶっ潰せばいい」
「そうだそうだ、全てはバランのせいだ、アイツが俺らから次期村長の座を奪わなければ……」
「バランよ、あの時事故で死んでくれればな、恨むなら自分を恨め」
ほう、なるほど。これは衝撃的事実だな、怪しいとは思ったがまさかコイツらが一連の黒幕だったとは。
『この三人があの魔物を引き連れてきたわけですか』
そういうことだ、つまりコイツらがバランさんと一緒に狩猟に出かけた三人組で、暴食熊と戦っている途中でバランさんの不意をついて背後を襲って暴食熊の攻撃を食らわせた。そしてコイツらはバランさんを村に連れ戻すことで自分たちの無実を装ったというわけか。
外道が、コイツらのせいで村が危険に晒されたのだ。にも関わらず全く悪びれる様子もなく他人のせいにする。
うん? この三人以外の点がマップに増えた。どうやらその点は巨牙虎のようだ、三人の森に響く会話と身から発する匂い、そして松明の明かりに誘き寄せられたみたい。
『どうします?』
無論俺はコイツらを助けるつもりはない、外道を助けるほど俺は優しくないからな。間抜けなことにコイツらは自分たちに近寄る脅威に気づく様子はない。
そしてーー
「お、おい! 見ろ、あれは巨牙虎だ!」
ようやく気づいたようだ。小太りの男が自分たちを狙う魔物に指を差して悲鳴を上げた。他の二人もそれに気付き、即座に戦闘態勢になった。
さあ、俺は木の上で見物させてもらおう、せいぜい抗うがいい。
『それは悪役の人が言うセリフだと思いますが』
あら、そう? ともかく俺は何もしない、流石にコイツらでも巨牙虎には勝てるだろう。
ーー数分後。
俺の判断ミスだ。コイツらはなんと巨牙虎すら倒せないようだ。この数分間はその速さに翻弄され続けて、完全に弄ばれてる。
[名前]ブレッド
[年齢]25歳
[種族]人間
[レベル]9
[魔法適性]
火適性:E−
水適性:E−
地適性:E−
風適性:E−
光適性:E−
闇適性:E−
[スキル]
一般:『狩猟E−』『伐採D−』『剣術E+』
[名前]アルフ
[年齢]25歳
[種族]人間
[レベル]9
[魔法適性]
火適性:E−
水適性:E−
地適性:E−
風適性:E−
光適性:E−
闇適性:E−
[スキル]
一般:『剣術D−』『狩猟D−』
[名前]ダン
[年齢]26歳
[種族]人間
[レベル]10
[魔法適性]
火適性:E+
水適性:E−
地適性:E−
風適性:E−
光適性:E−
闇適性:E−
[スキル]
一般:『剣術D−』『狩猟D−』『伐採D−』『火魔法E−』
見ろよこのステータス、俺が浮空諸島で出会った天空爪熊よりちょっと強いだけじゃないか。一番強いダンというヤツも巨牙虎には苦戦するだろう。
「クソッ、ちょこまかと動きやがって!」
「ど、どしよう! 攻撃が当たらない!」
「これほど動きが速いとは......」
ブレッドとアルフの二人は焦りが止まらない、リーダーのダンも冷静を保ちつつも冷や汗をかいている。
さあ、三人はどうするんだ?