1−13第一村人との邂逅
(誤字脱字のご報告をお願いします)
「あの、聞こえますか?」
「……」
俺は固まっている女性に話しかけた。しかし何も反応しない。まさか言葉が通じないのか? もう一度呼びかけてみる。
「おーい、大丈夫ですか?」
「あっ、はい。助けていただきありがとうございます!」
俺の呼びかけに女性はビクッとしたが、助けたことのお礼を言ってくれた。良かった、どうやら言葉は通じるみたいだ。
「あの……冒険者の方ですか?」
「いえ、俺は世界を旅している人です」
どの道、真実を話しても意味ないだろう。ここは旅をしている旅人の設定でいこう。
「旅ですか……それは珍しいですね。ここ一帯は何もないはずなのに……」
女性は小声で疑問の言葉を零す。これは判断が間違えたのか? ここは話題を変えよう。
「ところで、どうして暴食熊に襲われたのですか?」
「えっ? あー、私は食材の採取のために森に入ったのですが、こんなところにいるとは思わなくて……。危険な魔物は森の奥に生息していますから、まさか出会うとは思わなかったのです」
「暴食熊がこの一帯に現れるのは珍しいことですか?」
「はい、少なくとも私が見たのは初めてですね。もしこのまま村に向かったら……」
女性が青ざめた顔で呟いた。うーん、特別の理由がなければ、あの暴食熊は食料を探すために山を降りたってことか、とにかくここで止められて良かった。
「そういえば、旅人さんは本当に強いですね」
「そうですか?」
「はい。あれは村を襲えばその村を徹底的に破壊し、村の人を一人逃さずに喰らい尽くす恐ろしい魔物と言われています。まず一般の人は対抗できるはずがありませんし、冒険者でも数人がかりでようやく討伐できるほどです、それこそ単独で肉弾戦を仕掛ける人間はいませんよ!」
「そ、そうですか」
段々と興奮する女性に少しビビる俺。
とにかく、落ち着いてくれ。
「はぁはぁ、すみません。お見苦しい姿を……」
「いえいえ」
「あのー、助けてもらってあれなんですが、一つ頼みたいことがあります」
頼み事? なんだろう?
「実はあの魔物に襲われて急いで逃げたのですか、途中まで採取していた食材を無くしました。食材の採取を再開しないといけないのですが、先程のこともありますし、護衛をしていただきたいです」
そういうことか。まあ、確かにあんな目に会ったら怖くて採取できるはずがないような。
「いいですよ。ただし、俺からも一つお願いがあります」
「な、なんでしょうか?」
そんな不安そうな目で見ないでくれ、変なのは頼まないから。
「俺はこの森で迷ってしまいまして、森を出たいのですが方角が分からず……もしよければ村まで案内して欲しいです」
「そうなのですね。分かりました、それなら大丈夫ですよ」
良かった……これでようやく野宿生活とおさらばできる。
「では採取の再開をしますか」
「はい、よろしくお願いします! ……ッ! い、痛い……」
「大丈夫ですか?」
歩き出そうとする女性が突然痛そうに左の太ももを抑える。よく見るとロングスカートが少し破けていて、抑えている部分からは血が出ている。
「どうやら逃げた時に何かに切られたみたいですね……」
傷の深さからこれは襲われた時に引っ掻けられたものではないと思う。とにかく、これは治さないと歩きに支障が出るだろう。
「えっ、なにするのですか!?」
「失礼します、治癒」
「これは……」
俺は回復魔法を傷の部分に使った。するとその傷は塞がれ、跡を残さずに治った。
《行動ミッションを達成ーー他人を治癒する(SP+1)》
「すごい……回復魔法も使えるなんて……」
女性は尊敬の目を俺に向けてくる。
「これなら大丈夫だと思います」
「ありがとうございます! なんとお礼を言ったら……」
「そういうのは結構ですよ、俺もたまたま回復魔法が使えただけですから」
今度こそ食材の採取を再開した。女性が前に歩き、俺が後ろで周囲の警戒をする。
――数十分後。
「これも食材ですか?」
途中までは魔物に出会うことなくのんびりと採取をしていたが、女性ことオルビアさんが今採取しているものが気になった。
それは表面が網状になっていて、名前は見た目通り、アミダケというキノコだ。俺が気になったのはその鑑定内容だ。
『アミダケ』
アルベメリタ王国の西部生えているキノコ。傘の表面部分は網状になっているのが特徴。食用可だが毒があるため処理が必要。
「これですか? これはアミダケというキノコです。触った分は大丈夫ですが、一応毒がありますので食べる前には加熱処理は必須ですね。味は結構美味しいですよ、旬は二ヶ月と短いですから、食べられる時期は限られています」
「なるほど、では結構レアのキノコということですか」
食材も色々あるもんだな、見た目は全然美味しそうじゃないけど……。オルビアさんに聞いて良かった。生物以外を鑑定する時に得られる情報は少ないからな、いくらスキルとは言えど細かい情報までは教えてくれない。
ん? これは……。マップ上では赤い点がこっちに近づいてきている。
「少し下がってください」
「どうしましたか?」
「この先に魔物がいます」
アルビアさんは俺の言葉を聞いてすぐに俺の後ろまで下がった。この状態で前に進む。
「あれは……」
角がバカでかい牛がいた。よくあの角の重さに耐えられるな、角だけで頭の何倍の大きさだ?
「大角野牛ですね。危険な魔物ではないのですが、あの角に突かれたら成人男性でも重傷は免れません。肉は非常に柔らかくて、村でも特別の祭りの時でしか食べられません。刺激さえしなければ襲ってこないのですが、なかなか出会えないので珍しい魔物です、これは幸運ですよ!」
オルビアさんが色々説明してくれた。つまりこれはレア食材というわけだな。確かにあまり強くはないな、D−ランクの魔物ってところか。
「倒した方がいいですか?」
「はい、せっかくなんで倒して村に持ち帰りたいのですが、一般的には村の男三、四人がかりでようやく倒せ……「空力斬」……ち、ちょっと!?」
オルビアさんが言い終わる前に斬撃を放った。逃げられると面倒だからね。
まあ所詮はD−ランク魔物、放った斬撃は大角野牛の首を貫通して斬り落とした。これなら皮や肉を傷つけることなく倒せたな。我ながらグッジョブ!
「よし、完璧」
「い、一撃ですか……」
オルビアさんが呆れた様子で大角野牛を眺めている。すみませんね、このスキル結構チートだから。
「倒せたのはいいんですけど、どうやって村に持ち帰るつもりですか?」
そうか、それは考えてなかったな。『空間収納』使えば一瞬だけど、考えなしに人前で使わない方がいいかもな。あのスキルを習得して、ここは普通に肩に担ぐか。
「こうすれば問題ないですよ」
俺は大角野牛を担いでオルビアさんに見せる。するとオルビアさんは信じられないものを見たような顔をしていた。
「あなたは本当にすごいですね……」
オルビアさん……何か諦めていませんか? 言いたいことは分かりますけど、スキルは万能ですから。
掛け合いを書くのやはり難しいですね、この話は修正確定です。