1−12定番イベント
(誤字脱字のご報告をお願いします)
その後巨牙虎のような強い魔物には出会わなかった。村に向かう旅は比較的に順調だ。道中に紅眼鹿、まあ目が赤いだけの何の変哲もない鹿だけど、それを何頭か倒した。
今すぐ肉にして食べたいけど、ナイフがないから解体ができない、だからしばらくは空間収納の中で寝かせている。あー、早く肉食べたいなー。
「キャァァァァ!!」
「!?」
誰かの悲鳴がした、声からして女性のようだ。『地図』を確認すると、女性はこの先で暴食熊という魔物に襲われている。おー、これは襲われてる人を助ける定番イベントではないか。って、また熊かよ! もう勘弁してくれ! ともかく、早くしない女性が食われてしまうぞ。
俺はアクセル全開で走り出した。身体能力が向上した今、俺は木々の間を縫うように森を駆け抜ける。
「見えてきた」
女性は暴食熊に睨まれていて動けない、非常に怯えていて震えている。だが一定の距離があるから攻撃はまだされていないようだ。ならばこれはチャンスだ、もし暴食熊が女性に襲いかかっていたら俺も攻撃できない。
「助けに来ました、下がってください」
俺は走りながら女性に告げた。女性は俺を見て安堵した様子を見せた。
そしてーー
「突進ダイレクトアタック!!」
俺はスピードを落とさず、突進を暴食熊に直接ぶつけた。
ドォォォォン!!!
ぶつけられた暴食熊は衝撃で後退りして、低い呻き声を出して俺を睨む。
デカイ、そして硬い……まるで石にぶつけたような感触だった。
[種族]暴食熊
[レベル]26
[魔法適性]
火適性:E−
水適性:E−
地適性:E−
風適性:E−
光適性:E−
闇適性:E−
[スキル]
能力:『衝撃耐性C−』『斬撃耐性C−』
一般:『重噛みつきC』『引っ掻きC』
[備考]熊型魔物の中位種、危険度はCランク、熊型魔物の中でも攻撃力が高く、頑丈の肉体と合わさって森の食物連鎖の上位に位置する。
なるほど、これは……またとんでもないの出てきたな。レベルが俺より高く、そして『衝撃耐性』もある、だから俺の突進を食らっても無事なのか。
暴食熊は体中に分厚い甲殻に覆われていて、腕が柱のように太い。サイズはあの天空爪熊よりさらに一回り大きくて、四足状態でも俺より高い。
俺の耐性があっても恐らくコイツの攻撃だとちょっとダメージは入りそう……今回は慎重にいこう。流石に巨牙虎のようにはいかない、逃げることも視野に入れて本気でいこう。
「空力斬」
俺はまず腕を振って斬撃を放った。これは音速にも達する斬撃は不可避の攻撃であって、今までこれを食らって無事だったヤツはいなかった。しかし暴食熊は避ける素振りを見せずに堂々と斬撃を受けた。すると斬撃は暴食熊の頭に命中し、その肉を抉った。斬撃は確かに届いた、だがどうやらその傷は浅い。
「……全力だったのにそれしか傷を与えていないのか……」
軽傷とも言えない。まさか腕で止められるとは思わなかった。
「斬撃耐性か……」
思ったよりそのスキルが面倒だな、しかしここで『竜星』を使うわけにはいかないもんな……。後ろにはあの女性もいるし、範囲攻撃なんかしたら絶対巻き込んでしまう。かと言って肉弾戦はリスクが大きすぎる、空力斬すら通らないその防御力に俺の拳が通るのか?
「ほっ」
危ない……考え込んでいる隙に攻撃してきた。その巨体から繰り出された攻撃を少しでも食れえば軽傷では済まない。
ここはーー
「仕方ない、腕を犠牲にする。空力斬!」
一度ダメなら何度でも試す。俺は再び斬撃を放った。
「もう一回、空力斬!」
まだまだ止まらない!
「空力斬!」
腕が痺れてきたが、もっとだ!
「空力斬!」
これじゃ足りない!
「空力斬!!!」
腕の限界まで放つ!!!
もはや戦術を捨ててまで無我夢中に斬撃を暴食熊に浴びせる。
「はぁはぁはぁ……痛っ」
連続して空力斬を使い、俺の腕に激痛が走る。これが空力斬を使う唯一のデメリット、使うたびに腕に反動が来る。予想以上に痛い、これは木こりの時に経験したよりも辛い痛みだ。
「回復魔法が使えて良かった……」
『急速回復』でも治るのが遅い腕のダメージを回復魔法で治癒した。よし、これならまだやれる。暴食熊はどうなったかというと、さっきの攻撃で身体中に斬り傷ができて、防きれなかったのか目は片方がやられたようだが、それでも倒れない。
「ふっ」
俺は地面を蹴り、暴食熊に接近して腹部に殴りを入れる、そして攻撃入れたらすぐに下がる。いわばヒット・アンド・アウェイの戦術だ。コイツは図体が大きいだけで動きは鈍い、パワーはあるけど攻撃が遅い、完全なるパワー型魔物だ。しかし何度殴りを入れても怯むことはなく、攻力の低い俺の拳もあまり効いていないようだ。
もっと考えるんだ、一体どうすればコイツを倒せる。
そうだ、その手があるじゃないか! 俺はとある策を思い付き、それを遂行するために再び腕を構えた。
「空力斬」
これは注意を引くもの。俺はその隙に暴食熊の側面に回り込み、その首を狙って再度斬撃を放つ。
「空力斬」
斬撃は命中し、その甲殻を斬った。傷はまだ浅い、だがこれは想定内だ。
暴食熊は横にいる敵を攻撃できない、つまり常にその側面に移動すれば俺は一方的に攻撃できる。しかし俺の狙いはそれだけではない!
「空力斬」
首を狙って斬撃を放った。
左に回り込み、右に回り込む。これを繰り返しやることで暴食熊を翻弄する。とにかく隙があれば首に斬撃を放つ。
数秒が経って、そして数分が経つ。腕が痺れてきたが構わず首を狙う、功を奏したのか首を回る分厚い甲殻が削り取られ、少しずつその下の層が見えてきた。これはいける。
「グォォォォンッッ!!!」
ドンッ!!!
「!?」
俺が常に側面に回り込んでいるのに気づいたのか、その強靭の双腕を地面に叩きつけた。危ねえ、コイツ対策してきやがったな、危うくバランスを崩すところだった。
「空力斬」
何回もの斬撃に斬られ、暴食熊の首の甲殻の下が露わになった。そしてそれも『空力斬』によって斬られ続け、傷からは血が流れ出る。そこからさらに斬撃を放ち、その首を狙う。
『空力斬』で斬る度に出血量が多くなり、その影響で暴食熊の動きが鈍くなってきた。
そしてーー
「これでラストだ。空力斬!」
最後の斬撃が暴食熊の首をーー斬り落とした。
『なるほど、同じ部位を狙い続けてその硬い肉体を削る作戦でしたか、実にお見事です』
説明ありがとう……。
《討伐ミッションを達成ーー暴食熊を討伐する(SP+2)》
そしていつも通りにログが流れた。
《レベルが25になりましたので、SPが2増えました》
これでひと段落か……。
「そうだ、あの女性は?」
振り向くと、女性はポカンとした顔で地面に座り込んでいた。
なんと、この回には空力斬という単語が十回以上も使われていました(多いな)。