1−8創造した者、創造された者
(誤字脱字のご報告をお願いします)
『ここが我の寝床だ』
「お邪魔します……」
俺に拒否権なんてあるはずもなく、言われたままにバハムートの住処、天空山の頂上に連れられてきた。人生で初めて体験したドラゴンライドは快適とは言えず、まるでジェットコースターを乗った気分だった。そしてなにより、寒い。
《行動ミッションを達成ーー天空山の……》
ログさんよ、空気を読んでください……。
俺の切なる願いを察したのか、ログは途中で終わった。
バハムートから降りて、俺は周りを見渡す。
「これがバハムートの寝床か……」
バハムートの寝床は山頂の窪みの中にあって、岩肌に囲まれた薄暗い空間だ。
しかし……殺風景な場所だな。なんと言うか、本当に何もない。空間の中央には平ったい隆起スペースがあって、バハムートはそこでくつろいでいる。
『分かっておる、不恰好ですまない』
「いえ、お招きありがとうございます……」
バハムートは申し訳なさそうに頭を下げる。
『いやー、事前にお主が来ることを知ってれば我もおもてなしを準備できたのに』
このバハムート、意外とフレンドリーだよな。なんか久々に会った親戚のおじちゃんのような感じがする。見た目こそ西洋のドラゴンそのものだけど、雰囲気は大分人間だ。だが俺は知っている。
[種族]天空竜
[レベル]100
[魔法適性]
火適性:SSS
水適性:E−
地適性:E−
風適性:E−
光適性:SSS
闇適性:E−
[スキル]
能力:『急速回復A−』『終末の光B+』『黒き炎S+』『竜星S+』『天空竜の威圧A』『全耐性B+』
一般:『熱光ブレスS+』
[備考]天空を司る最強の竜種、危険度はSSSランク。世界に一個体しか存在しない。対となる存在がいる。
優しさの下にはこの化け物ステータスである。その気になれば恐らく世界を灰にできるだろう。
『ゆっくりと休むが良いぞ』
もはや俺がどうこうできるレベルではないため、俺は考えるのを辞めた。そのおかげで俺も大分緊張が解けて、今は普通に会話できる程度になっている。
『そうだ。せっかく来たものだ、我の過去でも教えてやろうか』
まあ、さっきから一方的に話を続けるけどな……
『それは、遥か昔のことだ……』
なんか始まった。止める勇気はもちろんない、だから頼むから早く終わってくれ……。
――そして数時間後。
『それがこの聖域と我の創造主の物語である』
「……」
や、やっと終わった……マジでお爺ちゃん話長いわ。まさか数時間にも及ぶ昔話を延々と聞かされるとは思わなかったぜ……。しかも、そのほとんどは聖地に対する熱意を語られて、重要な情報はあまり手に入らなかった。
『大丈夫であるか? お主、少し顔色が悪いが……』
気絶しかける俺を見て、バハムートは心配そうに尋ねてくる。だいたい原因はあんただろうが!
「い、いえ、大丈夫です……少々疑問がありまして」
『うむ、良かろう。我が答えられる限りに答えよう』
「その後、その創造主様はどうなったのですか?」
『実を言うと……それは我にも分からん。我は創造主に一度も会っておらんのだ』
え、一回も会っていないのか?
「会っていないのに創造主のことが分かるのですか?」
『それは……創造された瞬間から記憶として残っておる、我の使命も創造主のことも全て記憶の中にある。それゆえ創造主の姿が分からなくとも、我は創造主によって作られたことを知っておる』
「お名前とかも分からないのですか?」
『……確か、我が創造主はアラタと名乗っておった』
「えっ!?」
それ、もしかしなくても俺じゃない? でもバハムートは数百万前に創造主によって創造されたって言ってたし、現実的に俺のはずがないのだが……。
『我が創造主を知っておるのか?』
「いえ、実は俺もアラタという名前なんですよ」
『なんと! 世にも珍しいことがあるものだな』
「……それ以外に何か知っていますか?」
『ふむ、そうだな……あっ、そういえば、我には我が創造主から合言葉を預かっておるな』
えっ、合言葉? 多分、俺それ知っているかも……。
過去の忌々しい中二の時代の記憶が蘇る。間違ってなければ確か……。
「ーー我は黒き竜と聖なる大地の創造主なりて」
『我は闇を纏い、天を掴む王者なり……なぜお主はそれを!?』
バハムートは目を見開いて驚いた。おっ、これは当たりなのか?
『お主は心を読む術を持っておるのか?』
違います……。びっくりした、驚くほどに察しが悪いなこのドラゴン。
でもバハムートの反応で確信は持てた。ここはひと芝居と行こうか。
「なんだ、俺のことが分からないのか? バハムートよ」
それぽく言ってみた。するとバハムートはさらに目を見開いて俺を見つめる。
『ま、まさか! お主、いや貴方様は我が創造主でありますか!?』
バハムートは頭を下げた。
おー、期待通りの反応だ。いやー、気持ちいいな、ドラゴンをひれ伏させる日が来るとは……。
「久しいな」
『お久しぶりでございます、我が創造主』
本当は今日初めて会ったけどな、それは黙っておこうか。
『して、我が創造主はなぜ人間の姿であられますか』
そこは考えていなかった、どうしよう……。
「理由は分からないが、この世界に転移した時に力を失ったようだ」
それっぽい理由を作った。まあ、半分真実のようなもんだが。
『なんと! それならば貴方様のことは我がお守りいたします!』
信じてくれた、チョロい。
「実は俺、その仰々しい口調が苦手なんだ、普通の口調で構わないよ。あと名前で呼んでくれる助かる」
『はっ、主の命令であればそうします』
素直でよろしい。さて、これからどうしよう。
『主、一つお願いがあります』
「うん? なんだ?」
バハムートがモジモジしながら俺に聞いてきた。ドラゴンがモジモジする姿って新鮮だな。
『はい、我のことを配下にしていただきたいです』
それは願ったり叶ったりけど、どうやって? あっ、そういえば『魔物使役』があるじゃないか、それを使えばいけるのでは?
「分かった、ちょっと動かないでくれ」
『は、はっ!』
緊張しすぎ……。
「いくぞ。魔物使役」
スキルを発動した瞬間、バハムートが光に包まれた。しかし、段々と光が小さくなって、最終的に収まったら中から小さな黒いドラゴンが現れた。
「あれ?」
これは……もしかして失敗した?
『魔物使役』
スキル所持者に対し服従の意思を持つ魔物に使用でき、スキル所持者より強い魔物を使役する場合、スキル所持者のスキルランクに合わせて弱体化する。
[種族]天空竜
[レベル]33(100)
[魔法適性]
火適性:B+(SSS)
水適性:E−
地適性:E−
風適性:E−
光適性:E−(SSS)
闇適性:E−
[スキル]
能力:『急速回復C−』『竜星B+』『天空竜の威圧C』
一般:『熱光ブレスB+』
[備考]天空を司る最強の竜種、危険度はSSSランク以上。世界に一個体しか存在しない。対となる存在がいる。
完全に俺のせいだぁぁぁ!?
『……』
バハムートが小さくなった己の姿を見て沈黙している。
ヤベェー、絶対怒られる……。
『グスン、すみません……どうやら我が弱すぎて、まだ主の配下になる資格がないようです……』
全然そうなこと無かった……むしろすっごい自分のせいにしている……。姿だけが小さくなっただけではなく、声も幼くなっているような気がする……。
元々二、三十メートルほどのサイズが今や一メートルにも満たない、ぬいぐるみのようで少し可愛らしいと思ったのは内緒だ。
「お、落ち着け、あれは俺の魔力が少ないせいで……」
『グスン。大丈夫です、我を慰めるためにアラタ様は自分のせいにする必要はありません』
オー、ネガティブ。これは何を言っても無駄だ……。すまない、今後は積極的にスキルランクを上げるよ……。
この後、落ち込むバハムートを慰めるのはかなり大変だった。