frantic #1. 君と役立たずの絆創膏
俺、このままのらりくらり生きてくのかな。
ふと、そう思う時がある。例えば通勤ラッシュの電車に飲まれて、そのまま電車の揺れに身を任せている時とか、テストで平均点よりちょっと上を取った時とか。
そんな日常は、どんどん当たり前になってやがて気にも留めなくなって。
君はさ、そんな日常をかっ飛ばしてくれたよな。
なあ、フラン...。
***
「おわあ〜〜!!!今日も遅刻する〜!!!!!!!」
食パン咥えて走るは俺、腐道光慶。17歳。彼女募集中。出来れば身長は153cmぐらいで、髪はミディアムヘアを内巻きにしている清楚系女子がいい。
今日も今日とて、通学路を全力疾走中。
あー、なんか刺激があること起きねえかな。
例えばそこの曲がり角で同じく食パン咥えた美少女にぶつかって、そいでその子が転校生で隣の席になるとか...ふへへ...。
「...!!...!!!」
「...ん?何の音???」
誰かが叫んでいる声がする。さては予想通り、食パン咥えた美少女が...!!!
「ン美少女ちゃんはここですかァ!?!?」
曲がり角で完全に受け入れ態勢を取りながら言ったが、そこには誰もいなかった。
何だ、勘違いかよ、と光慶が呟いたその時。
「そこ、どけてどけてェ!!!!!アンタぺちゃんこに押し潰されたいわけぇ!?!?!?」
上から少女が降ってくるのを目に捉えた。
***
「え、え、ええええええ!?!?」
いや確かに彼女募集中とは言ったよ!?曲がり角で美少女とぶつかりたいって言ったよ!?!?降ってくる女の子は確かに金髪碧眼っぽい美少女テイストだよ!?!?!?
でも上から降ってくるのは違うだろうが!!!
え、ちょ、ま、どうすればいいのこれ。
女の子、死んじゃうんじゃこれ。ってか、何これ、どっから降ってきてんのこれ。
とっさに腕を伸ばして駆け寄ったが、そんな努力も虚しく彼女の尻は俺の顔面にクリティカルヒットした。鼻がボキぃ、と曲がる音がする。
い、痛い...。
しか、も、なんか、喉がもあもあする...。
...もあ?
え、なんか喉に入ってる???
そう思うや否や、半ば条件反射的に喉のものを飲み込んでしまった。彼女の尻が離れると、微かに口の中が錆臭いような、鉄の匂いがする。俺、さっき何食べたの...。
「...なーんてネ。元々死んでるし茶番も茶番だわ。今日のモーニングルーティン終わった〜」
「おいお前、ちょっと待てよ!!!」
そんなYoutuber青ざめ案件のモーニングルーティンあってたまるか!
じゃなくて!!!
「お前、何で空から降ってくるわけ!?お前のせいで鼻折れそう...ってか多分折れたんだけど!?」
そう光慶が叫んだが、彼女は目を丸くするだけで何も答えなかった。
代わりに彼女の尻のあたりにツツ...と指を滑らすと、大きな目を更に開かせて「アンタ!!」と叫ぶ。
「アンタ、何か今口の中入ってるでしょ!!!吐き出しなさい、今すぐに!!!」
「...ハァ!?」
何言ってんだ、この女子。
最近の小学生って、人に吐かせる趣味まであるとかこわ...。
これが巷で聞くおやじ狩りか、俺おやじじゃないけど...。
「何言ってんだよ、そもそも口の中何も入ってな」
「もう呑み込んだの!?アンタどんだけ食い意地はってんの!?」
「口の中のもの呑み込むのに食い意地もクソもないだろうがっ、ングぅ!?!?」
俺、いつか女子とキスしてみたかった。
なのに、何で俺は今自分よりはるかに小さい生意気娘に喉を指で弄られているのか...。
彼女の指が喉に入っていくと、更に喉がもあもあし始めた。何が喉にあるのか分からないけど、しばらくするとそれは奇妙な違和感を残して消えていった。
一体、何だったんだろう...。
喉の違和感を確かめようと首の皮膚を引っ張っている光慶と自分の手を交互に見ながら、少女は「やっべえ...」といささか乱暴な口調で呟いていた。少女の手は、時折炭酸の抜けたような音を発していた。
「おいお前、何なんだよいきなり!!!人の喉に指突っ込むとか」
「ごめん、」
焦るように少女が紡ぐ。
?
「...アンタ、今日から人間じゃなくなっちゃった...」