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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あるボクサーの栄光と・・・

作者: 武正幸

 カメラのフラッシュが瞬き、大歓声が降り注ぐリングの中央に、上林田勇輝(かみはやしだゆうき)は立っていた。


 ボクシングWBCウェルター級のタイトル戦で、上林田は見事ロシア出身のチャンピオン、マキシム・ダンにKO勝ちをしていた。これからチャンピオンベルトの授与式が行われるところだ。


 

 上林田は、幼少のころに両親が離婚。母親に女手一つで育てられた。中学校に入学した頃から不良グループに入り、喧嘩や恐喝を繰り返していた。当時から大人並みの体格をしており、高校生を相手に喧嘩をすることもあった。

 高校に入ると、バイクを運転するようになり、暴走族に入り毎晩暴走行為を繰り返していた。その頃、後ろから走ってきた車の運転手に因縁をつけ、暴行行為を行ったとして少年院入りとなる。

 出所後、上林田の噂を聞き付けた、ボクシングトレーナーの岩田源蔵氏に出会い、彼を師事しプロボクサーを目指すこととなる。岩田氏曰く、≪勇輝にはボクサーとしての資質が全て備わっており、100年に一人の逸材≫と言わしめた。プロデビュー戦からとんとん拍子で、ランキングを上げていき、今日のタイトル戦を迎えたということだ。今日の戦いも、チャンピオンのマキシムに1ラウンドからの猛攻で、見事勝利した。これからどれだけ防衛できるか楽しみな選手だ。


 上林田が持っていたマイクで語りだした。

「皆様、本日は応援ありがとうございました。皆様のおかげで上林田はチャンピオンになる事が出来ました。今まで私を支えてくれた多くの人達に感謝します。ボクシングの道に導いてくれた岩田コーチ、愛する妻の美晴、息子の蓮、そして私をここまで育ててくれた、母親の誠子。そしてファンの皆さん、本当にありがとうございました。」

 会場が大きな拍手と歓声で包まれる。母親をはじめとする、上林田ファミリーも、会場の最前列で見守っている。


 チャンピオンベルトの授与式が始まった。上林田はベルトを受け取り、両手で高々とそれを掲げた。取材陣が彼に近づき、カメラのフラッシュは今日一番の瞬きとなった。次の瞬間、上林田の後方にいた取材陣の一人が、上林田の背中にぶつかり、上林田は前のめりにリングに倒れた。会場は一瞬の静寂に包まれたが、次の瞬間、悲鳴と怒号そしてドクターを呼ぶ声で騒然となった。上林田の背中のちょうど心臓の真裏部分に刃物が深々と刺さっていたのだ。倒れた上林田は、ピクリとも動かない。直ぐにドクターが呼ばれたが、誰が見ても即死であることは明らかだった。


 上林田を刺した青年は、すぐに取り押さえられたが、逃げる様子も暴れる様子もなく、穏やかな表情で、上林田を見つめていた。彼は何者だろうか。会場にいる人で、彼を知る人はいないだろう。刺された上林田でさえ、彼を知らないだろう。


 上林田勇輝を刺した人物は、後藤大翔(ごとうはると)、22歳。上林田が暴走族で暴走行為を繰り返していたころ、後ろを走っていた自動車を運転していた彼の父、後藤晴彦(ごとうはるひこ)に、煽り運転だと因縁を付け、車から引きずり降ろした後、仲間達と殴る蹴るの暴行を行った。騒ぎを聞きつけた近所の人が警察と救急車を呼び、晴彦はすぐに病院に運ばれたが、頭部の損傷が激しく、意識が戻らぬまま、1年後死亡した。


 後藤大翔は、逮捕後、以下のことを語った。

「上林田勇輝は、不良少年から更生してボクサーの道を歩んできました。ボクサーに限らず、世界一になるのは、並大抵の努力や精進ではないでしょう。彼は多くの人に感動を与え、勇気を与え家族に笑顔を与えたかもしれない。でも、私のたった一人の父は、もう帰ってこない。彼は自分の正しい道を取り戻したかもしれないが、彼に殺された私の父は、もう二度と彼の人生を取り戻すことはないんです。世界チャンピオンになれば、過去の犯罪や迷惑行為は、許されるんですか?それは、全くの別問題だ。彼が、暴走族で毎晩暴走行為を繰り返していたころ、騒音で毎晩眠れず、迷惑を被っていた大勢の住民たちは、彼が世界チャンピオンになったことを手放しに今、喜べるんですか?更生って、一体なんなんですか?」

 







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