憂鬱な気持ち
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華やかなお城のパーティ。
きっと少女であれば誰もが憧れる舞台。
色とりどりのドレスが咲き乱れ、見目麗しい高貴な殿方に声をかけられることを夢見てしまうだろう。
私は死ぬ前に飽きるほど出たので、今更憧れも何も無い。
胡散臭い笑顔の仮面に、笑顔で交わされる嫌みの応酬。
混ざりあった香水の匂い、下心を隠さない最低下半身野郎。
相手を引きずり下ろす事に余念のないこの空間は華やかな戦場だ。
少しのミスが命取りとなる。
過去のパーティを思い返しながら、お兄様にエスコートされて、王城のふかふかのカーペットの敷かれた廊下を歩く。
そっと盗み見たお兄様の銀縁のメガネを掛けた横顔。
私の髪よりも暗い夜の海の色の髪に朱金の瞳が真っ直ぐに前を向いている。
身内の色眼鏡を除いても細身ながら締まり、鍛えられた体に整った顔をしている、自慢のお兄様。
その上、父の後を継ぐ次期宰相と噂される有能な頭脳と知識も持っている。
剣の実力も申し分ない文武両道の天才な上にとても努力家なのだ。
最後のパーティ会場にいたならばきっと私は処刑は免れただろう。
それくらい、素晴らしく有能なお兄様なのだ。
私が盗み見ている事に気がついたらしいお兄様が、花が開くように柔らかく優しい笑みを浮かべる。
「どうしたの、可愛い、僕のディー。
初めての王城とお披露目で緊張する?」
優しい甘い声が私を気遣うように紡がれる。
元々整った顔のとろけるような笑みの破壊力は馬鹿にならない。
社交界ではにこりともしなくとも氷麗の君なんて呼ばれてもてはやされているし、貴族のご令嬢達にモテるわけだわ。
そしてそのお兄様は私にとても優しい。
今日のパーティも今、行きたくないと言えば喜んで逃がしてくれるだろう。
「いいえ。
お兄様の顔を久々にしっかり見たな。と思いまして」
「そうかい?
昨日の夕食でも顔を合わせていたと思うが……。
それにこの顔なんて見ても大して面白くも……いや、そうか、そうか。
僕のディーはまだまだ甘えんぼうさんだね」
前のパーティーでは家を出てから会えてない。
私の言葉に、疑うことも無くニコニコと表情を崩したお兄様がもう少し時間を作るようにするね。と約束してくれる。
約束したからお兄様は守るだろう。
私との約束を違えたことなど、1度だってないのだから。
どんな無理を押しても守ろうとしてくれる。
「嬉しいですけど、ご無理はなさらないでくださいませ。
でも、今度のおやすみに東屋でお茶をしたいわ。
庭師のおじ様が手入れしてくれている薔薇が見頃なの」
にっこり笑って誘えば近いうちに父様から休みをもぎ取ってくるよ。と笑ってくれる。
そうこうしているうちにパーティ会場となっている城の広間……。
五色の間と呼ばれる大部屋へたどり着いてしまった。
扉の前に立っていた騎士はお兄様の顔を見ると口角を上げてみせる。
知り合いだったかしら?と内心首を傾げていれば扉が開けられる。
高らかに騎士の声が響いた。
「マリッジ公爵のご子息、セリオス·ジオリア·マリッジ様、並びにご息女、アディルダ·ルリエール·マリッジ様の入場ー!」
どうぞ。と小さな声で促されて兄に連れられ、会場へ足を踏み入れる。
憂鬱な気持ちを隠すべく笑顔の仮面を被って
私の最初の戦場は幕を開けた。