最終夜
街角Acter'sの合間に書くため
不定期更新になります。
「アディルダ·ルリエール·マリッジ!
貴様との婚約をここで破棄し貴様には偽証罪並びに不敬罪、国家反逆罪の罪人として処刑を言い渡す!」
……この人、本気で言ってるの?
目の前で宣言する美しい銀髪に透けるような青紫の瞳が自信たっぷりに私の処刑を言渡す。
王子主催のパーティ会場で、言うことか。
さっと視線を走らせるがお父様もお兄様も姿が見えない辺り根回しされたのだろう。
よく見れば多くはないが私と仲の良かった令嬢も軒並み姿が見えない。
してやられたなぁ。
でも、私……私のこと王子の番だなんて一言も言ってないのよね。
不敬……はあったかもしれない。
私が公爵家令嬢でありながら結婚とかする気がさらさらなくて悠々自適快適ニートライフを送る為に後宮に入ったのだ
元より王子の相手をするつもりなどないのだから不敬の塊といえば塊だろう。
番と言うよりは側室候補って立ち位置のはずだったのだけれど……、おかしいわね。
国家反逆罪って私はテロリストか何かかしら。
それとも色仕掛けで王子を篭絡させるような傾国の姫と認識されてるの?
番以外に対して興味も持たないこの国の人間が、そんな殊勝なことするかしら?
今、私に分かるのはこれだけだ。
「おっしゃる意味が分かりません。」
「なんだと……?」
王子の流麗な眉が上がる。
顔だけは国宝級に美しいのに、勿体ないなとは思う。
天は二物を与えず、とは言うけど
外面を与えて中身を与えなかったのは残念すぎるわ。
発想が不敬だと怒られそうな事を考えながら1歩、前に踏み出す。
「婚約破棄、という事は番様を見つけられたのですね、おめでとうございます。
しかし、私は元々側室候補にございます。
番様を偽証した覚えもなければ他の罪状に関しても身に覚えがございません。
ただ、王子殿下のご命令という事でしたら致し方ありません、処刑されましょう。
王族が気に入らない者は即処刑する、など……恐怖国家で生き続けるくらいならば、私はこの命など要りません。
私の番の方には申し訳ないですが、私地母神様の膝元へ帰りとうございます。」
真っ直ぐに王子を見つめ言葉を紡ぐ。
王子ではなく、周りの王子派の貴族に。
お前達も王子の機嫌を損ねた瞬間に首を撥ねられる、いつ殺されるかと怯えて王子の機嫌を取り続けたい訳じゃないならこのバカを止めろと脅す。
あぁ、でも無駄でしょうね。
「我が番への執拗な嫌がらせもある、貴様のような人間を生かしておいては我が番に平穏な日々などあるまい」
ほらね。
人と関わらないようにした私にその執拗ないじめが出来たのかは謎だがどうせ証拠も状況証拠をいかにも動かぬ証拠だとばかりにあげつらうつもりだろう。
バカバカしい。
「貴様が何を言おうが貴様の処刑は決定事項だ」
「なるほど、それがこの国の決定……ですのね。
嘆かわしい限りです。
では、皆様。
私、この幸福な日々のうちに先にお暇させていただきますね」
自信満々に告げる王子にため息をつく。
扇を広げて顔を隠す。
悲しんでいるように見えるだろう。
本当は軽蔑の目で王子を見つめているなど誰も思うまい。
そのまま王子に背を向けて勢いよく扇を閉じると胸を張り顔を上げて会場に集まった貴族達に言い放ち一礼して会場を後にする。
私の処刑は決定事項だ。
ならば家に連絡し家財を取り上げられる前に国外に逃げてもらおう。
家族を巻き込むつもりは無いのだから。