翼を奪われた天使は空中都市を夢に見る
翼のない天使。それが私の二つ名だ。
私はフリューゲル・ゲシェンク。ゲシェンク国の第一王女だ。私には優秀で優しい兄が二人いる。そんな二人と両親に守られて私は何不自由なく育った。そんな私は翼のない天使と呼ばれることがある。ウェーブのかかった美しい金髪に春の空のような水色の瞳を持つことからそう呼ばれる。けれど、私はそんな大した人間ではない。天使というのは、きっと私の大好きな彼のような人を言うのだろう。
ヴォラーレ・チェーロ。チェーロ国の第一王子にして王太子。私の婚約者だ。彼はとても純粋で真っ直ぐな人。空中都市の存在を信じて疑わない。
「いつか、お伽話とされている空中都市を見つけてみせる!その時はお前も一緒に行こうぜ!」
そんな彼は王太子として立派に勤めを果たしている。けれどそれ以外の時間は全て空中都市の研究に当てており、私と過ごす時間は少ない。けれど私はそれでもよかった。ただ彼の好きなことを追い求めさせてあげたかった。彼の好奇心はやがて一つの魔道具を生み出した。「飛行船」という空飛ぶ船だ。やはり彼は凄い。世界はまた一つ飛躍したのだ。
けれど悲劇は起きた。飛行船が戦争の道具にされてしまったのだ。我がゲシェンク国と同盟を結ぶチェーロ国は、ゲシェンク国に飛行船を提供した。我がゲシェンク国は飛行船を使って空を支配し隣国などを次々と属国化。たくさんの奴隷を抱える強大な国家になった。また、チェーロ国もゲシェンク国の支援を得て急速に発展した。
平和を愛するヴォラーレはそれを嘆いた。そして、たくさんの人の命を奪った責任を取ると遺書を遺して飛行船から空へと飛び立った。彼の心は天に昇り、彼の身体は深い海の底へと沈んだ。
私は今日、彼の弟と結婚する。なんの愛もない政略的な結婚だが、彼の弟は誠実な人だ。私を幸せにすると誓ってくれた。兄を愛したままでもいいと言ってくれた。私は一生彼を忘れられないだろう。けれど、彼の弟と一緒にチェーロ国を守ることこそ彼のためになると信じている。だから、私は彼のためにこの人生を捧げよう。どうかまだ見ぬ空中都市で待っていて欲しい。たくさんのお土産話を持っていくから。




