特別な証
エルカナ王国は女神の結界に守られている。
遠い遠い昔、疫病と大飢饉で王国に滅びの危機が訪れていた。
人々が絶望し生きるのを諦めかけていた時、女神が現れて王国に祈りを捧げた。
女神の祈りは王国を包む結界となった。
女神の加護により、疫病にかかってた人達は回復に向かい、少しづつ作物が実り始めた。
人々の心中を占めていた絶望は希望に変わり、生きる活力となって危機を乗り越えられた。
それから長い年月を経て、女神の力の影響を強く受けた子が、年に数名生まれるようになった。
女神の力の象徴する特別な証、淡い緑色の瞳を持つ女の子が…。
***
食後の紅茶を飲んでいると、9の鐘が鳴った。
明日は舞踏会だしそろそろお開きだろうとモモルナが思っていると、
王妃が令嬢達に言葉を掛けた。
「舞踏会の前に皆さんとお会いできて良かったです。
知識、教養、社交を学ぶのは大変だと思いますが頑張ってください。」
王妃の瞳は、優しく柔らかい笑顔に合う、優しい淡い緑色だとモモルナは思った。
みんな同じ淡い緑色の瞳をしているけど、容姿や雰囲気で全然違う印象になる。
王妃の言葉が終了の合図となり、オリビアはこの会のお開きを告げた。
モモルナとクレアは、「明日頑張りましょうね」とお互いに励ましあって別れた。
部屋に戻る途中、バルコニーの窓から外を見ると星が見えた。
先ほどまで雨が降っていたとは思えないほど、雲もなく星空が良く見える。
雨で濡れた床に気を付けながらバルコニーに出て、モモルナは星空を見上げた。
(わぁ!空気が澄んでて星が輝いてる)
湿気を帯びた空気が少し肌寒く感じるが、バルコニー出て良かった。
モモルナがわくわくした気持ちになっていると、突然背後から声が聞こえた。
「君は…。」
(えっ…)
モモルナが驚いて振り向くと、そこにはルディアスがいた。
「君は何を知っている?」
「…何を、とは何でしょうか?」
ルディアスの言っている意味が分からず、モモルナは戸惑いながらも答えたが、
答えにはなっていなかった。
「では、質問を変えよう。なぜ、君は収穫量の悪化が気になった?」
「……。」
(なんて答えればいいのかしら)
質問の真意が分からず、モモルナは答えられないままルディアスを見つめた。
ルディアスの瞳は夕暮れのような深い靑色をしていた。
ちゃんと目を見て話すのは初めてかもしれない、とモモルナが思っていると、
スッとルディアスの視線がそれた。
「……突然すまなかった。失礼する。」
何も答えられないまま、その場から立ち去るルディアスを見つめるしかなかった。