小高い丘
『モモルナお嬢様!モモルナお嬢様!!』
『モモルナお嬢様!目を開けてください!!』
メリサは涙で顔がぐちゃぐちゃになりながら、モモルナを呼び続ける。
(私…死んでる?)
目の前には青白い顔をしたモモルナが横たわっている。
特別な時に愛用していた金色の刺繍が入った赤いドレスを着て…。
(嫌ー!!嫌よ、私は特別なのよ!)
(ねぇ!メリサ!私はここよ!!)
どんなに叫んでもモモルナの声は届かない。
だんだんとモモルナの意識が深い闇へと落ちていく。
***
「……---嬢様。モモルナお嬢様。」
遠くから聞こえるメリサの声に、モモルナはハッと目が覚めた。
馬車の窓から景色を眺めていたのだが、心地いい揺れに誘われていつの間にか寝ていたようだ。
なんだか昔の事を夢見ていたようで、少し胸がどくどくしている。
気分を変えようと窓から外を眺めると、馬車は既に丘の上に着いている事に気付く。
慌てて馬車から降りて、少し先にある高くなっている所へ駆け出した。
一呼吸した後、くるりと周りの景色を見渡した。
視界を遮るものがほどんどないためよく見える。
遠くに王都が見えた。
その王都から少し離れた西側の森にある神殿も見えた。
その場でごろんと仰向けに寝転んで空を見上げる。
(庭園とは違って空が近い)
そっと瞳を閉じると、今見た景色が瞼に浮かんでくる。
(ここに来れて本当に良かった)
忘れないように日記帳に書こうとう思い、むくりと身体を起こしたところへ、
メリサがやってきた。
「モモルナお嬢様、お召し物が汚れますよ。
あちらにラグを敷きましたから、移動しましょう。」
メリサが指した先には、ラグが敷かれてお弁当も用意されていた。
お弁当を見た途端、モモルナはおなかが空いていた事を思い出す。
日記帳を書くのは後にして、まずはお弁当を食べる事にした。
「ん~~!!料理長のお弁当は最高!!」
お弁当をほおばりながら、幸福感に満たされていると、
メリサが遠くにある王都を見ながら話しかけてきた。
「後四日後には王都に出発ですね。
モモルナお嬢様のご希望通り、出発は朝に変更致しました。」
「本当?変更出来て良かった!ありがとう。」
もともと、王都へ出発するのは昼過ぎだった。
シャルリー家の領地から王都までは馬車で半日ほどで、昼過ぎに出ても夕方には王都に到着する。
その日は出発して割とすぐに、激しい雨が降り出して王都への到着が大幅に遅れるのだ。
5度目にして初めて、モモルナは出発の変更をお願いした。
王都までの道中で見ておきたい景色もあり、どうしても朝の晴れてる時に移動したかった。
出発の変更に伴う手配は大変だったと思う。
それでも、対応してくれたメリサには感謝しかない。