足りない時間
キラキラと輝く朝日、青く澄み渡る空、多彩な花々、爽やかな風。
全身で自然の力を感じて、生きている事を実感する。
時折、空を見上げつつ、モモルナは思いのまま日記帳にペンを走らせる。
(ふぅ、ここで出来るのはこれくらいかしら…)
一息ついて周囲を確認すると、視界の端にメリサをとらえた。
よく見ると少し頬が赤いようだ。走ってきたのかもしれない。
「メリサ、どうしたの?」
「モモルナお嬢様、探しましたよ。何をなさっていたのですか?」
「特別教育が始まると、なかなかこちらには帰ってこれないでしょう?
覚えておきたいものとか、いろいろと書いていたの。」
膝の上に置いていた鍵付きの日記帳を持ち上げて見せた。
「ところで、メリサ。お願いがあるの。
今日か明日で東側にある丘に行きたいのだけれど時間は取れるかしら?」
今日を含め王都へ出発するまで本当に忙しく、時間が取れない事は知っている。
ただ、天気が良いのは今日と明日のみなので、どうしても行っておきたい。
「モモルナお嬢様。残念ながらそのような時間はございません。
今日はこの後すぐに新調したドレスの確認、午後はダンスの練習がございます。
明日は午前から~…」
モモルナのスケジュールについて、スラスラと何時に何があるのかを答える。
(あ、暗記してるのかしら…)
少し呆気にとられながらも、予定を変更出来ないか提案してみる。
「新調したドレスはそのまま持っていくから、確認はしなくも良い?」
「そういうわけにはいきません。身体に合わないドレスを着ていては
シャルリー家の沽券に関わります。
いいえ!シャルリー家云々より、モモルナお嬢様が身体合わないドレスを
着ることが許せません!」
(…ん?若干、メリサの思いが入っている…?)
時間を削るとしたらドレス確認の時間だと思ったのだが、強めに却下されて項垂れる。
しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。
モモルナは悲しいオーラ全開にして、チラッとメリサを見て訴える。
「じゃあ、明日のお昼を丘で食べるのは…ダメかしら?」
諦めのため息をついて、モモルナの我儘には慣れてますと言わんばかりに
丘に行くことを了承してくれた。
「わかりました、調整してみます。
料理長に美味しいお弁当をお願いしてみますね。」
「メリサ、ありがとう!!」
ぱぁぁぁっと笑顔になったモモルナは、メリサに感謝した。
「では、モモルナお嬢様。新調したドレスの確認があるので、お部屋に戻りましょう。
明日は丘に行く時間を作るので、もっと忙しくなりますよ。」
「はぁい…。」
この後のドレス確認が、一番の時間の無駄遣いという思いがぬぐい切れない。
だが、ドレス一つとっても『シャルリー家の出来栄え』として吟味されるため、
ちゃんと時間をとって調整しないと、メリサの言う「シャルリー家の沽券に関わる」になってしまうのだ。
(でも…明日は東側の丘に行ける!領地では一番小高い丘!!)
丘に行ったらやる事を頭で思い描きながら、退屈な時間に挑む事にした。