瞳に映るもの
自由に動けるのは一週間しかない事にモモルナは焦りつつも、
まだ一週間あるからやれる事はやろう、と自分自身に言い聞かす。
(えーっと、たしかこの机の引き出しに入れたはず…)
モモルナは過去の記憶を辿りながら、机の引き出しを開ける。
(あった!お父様に頂いた鍵付きの日記帳!)
鍵付きの日記帳を胸に、モモルナは王宮に入るまでの一週間で
何をしなければいけないか考えた。
過去の人生を含め、覚えている事は情報として書き写したい。
これから自分がやらなきゃいけないことも書き出す必要がある。
他の人には極力見られたくない内容となるので、どうしようかと
悩んでいたら鍵付きの日記帳の事を思い出したのだ。
日記帳の中身を確認するため、モモルナは深呼吸をしてから鍵を開けた。
瞳に飛び込んできた内容に驚いて思わず声が出てしまった。
「えっ…」
日記帳は最初のモモルナ以外は触っていないため、今まで気が付かなかった。
(私はなんて事を…)
『モモルナ・フォンダ・シャルリーは絶対に第一王子と婚約する!
なぜなら私は特別な存在だからですわ!』
その後もつらつらと自分自慢が書かれていて、読むに堪えない内容だった。
あまりの恥ずかしすぎる内容に、モモルナは鍵付きの日記帳で本当に助かったと安堵した。
(さよなら、恥ずかしい過去…)
そして、そっとそのページを破り、細かくちぎってゴミ箱に捨てた。
新しいページにペンを走らせ、記憶に残っている事を思いつく限り書き記す。
1度目の記憶は思い出したくない事ばかりだが、いつくかの出来事を書き足した。
一通り書き終えた後、現在のことを書き込むためにモモルナは日記帳を持って外へ飛び出した。
***
メリサはモモルナが部屋に居なかったので、庭園に探しに来ていた。
「モモルナお嬢様、いらっしゃいませんかー。」
遠くにも聞こえるように、少し大きめな声を出して迷路のような庭園を探すが、
モモルナは見つからないし返事もない。
もしかしたら、少し先にある広場のベンチで休んでいるかもしれないと思い、メリサは少し走るように先を急いだ。
後はこの角を曲がるだけというところで、一度呼吸を整える。
そっと角を曲がるとメリサの視界にモモルナが映った。
モモルナはベンチに座り、青く澄み渡る空を見上げていた。
「モモルナお…じょ……」
メリサは思わず、かけようとした言葉を飲み込んでしまった。
モモルナの青みがかった銀色の髪が、風に揺れキラキラと輝くその姿に、
とても綺麗でそして儚くてこのまま消えてしまうような…
なんとも言えない不安がメリサの胸に広がった。
今ここに居るモモルナの存在を否定するような感情に戸惑い、
その不安を消すべく、メリサは自分の頬を数回叩き活を入れる。
「しっかりしなさい、私。モモルナお嬢様はここに居る。」
目を閉じながら小さな声で呟き、ゆっくりと目を開けてた。
メリサの瞳に映るモモルナは、儚さではなく力強さで溢れていた。